【十三】-1 親が
【十三】
「俺が未来から来たのは本当です。
それは、この時代に剣邪が壊したものがあるからです」
高速思考を巡らせて決めた。
前の歴史のことは秘密にする。
なぜなら、それはループライト家にとっての“不幸”だからだ。
この家から”不幸”を奪う。
そう決めたからには、残り香ですら伝える気はない。
過去の、前の歴史の悲劇はすでに終わったことであり、
これからを生きるのには役に立たない。
そして、何よりも
“父娘揃って死ぬ歴史”が変わったというのは、
与える恩として大きすぎる。
言葉の出し方も忘れた糞餓鬼に教育と愛を与えて人間にした家が、ここだ。
この歴史ではノーマンは最初から話せているが、
それは主観において問題ではない。
加えて、この家の全てを手に入れる野心もあるが、
それはトラウマを与えてとか、
過剰な恩による罪悪感からではない。
実績と策略によって掌握しなければ、
この家を強くすることにならない。
「探し物は見つかったのかい?」
「これからですね。本質的には創るものですから」
──創る? 何を?
こんな時代に歴史を遡ってまで創りたいものがあるのだろうか。
口を動かしながら、必死に自問自答して納得の行く答えをひねり出そうとする。
「何か聞いても?」
「この世界の“王”になりたいんです。
荒野に全てを統べる玉座を創って、
そこに座るのが、俺の夢なんですよ」
──そうなのか? 本当に?
自分で言ってて戸惑った。
大嘘だが、奥深くまで自分の意識に潜って考えると、
まるで本心でないというわけではない。
ノーマン・ロストには卑しいスカベンジャーの血が流れ、
物心ついた頃には、その教育も受けている。
「そんなものが欲しいのかい?」
「ええ。そうしないと、お嬢様が部屋から出てこなくなるんです。
世界一の剣豪になってからというもの、
もうやることないからと部屋に籠もって日がな一日中、オシャレと光り物を眺めています。
そうならないためには、世界一の王になって、あの御方を部屋から引きずり出さないと」
「時間を遡ってまで?」
「…………前の歴史では剣邪を倒せても、
それまでに多くのものが破壊されたんです。
マグリバ以外の都市が全滅するくらいには」
これはほぼ事実だ。
マグリバも滅んだのを除けば。
リチャードに嘘だけを吹き込むわけではない。
エルシアの気質と、それに対してどう動いたかの
動機はかつての自分が持っていたものにする。
そうした方が、嘘も信じ込ませやすくなる。
剣聖になるエルシアと並ぶために、
すべてを手にしようとしているのも事実だ。
否、これこそが剣邪を倒した後の目標。
むしろ嘘のつもりが真実を語っていたのだとノーマンは思い直した。
千赤忍法、指針歪曲。
己に自己暗示をすることで、
嘘を嘘と見抜かれるリスクを潰す忍法を発動した。
自分の嘘に迷い込む馬鹿になるのを予防できる効果を見込める優れモノだ。
「俺は偉くなりたいんです。
その足がかりは、貴方に教えられました」
悲劇をループライト家に持ち込まない。
それは絶対の目標だ。
「そうか……君の上昇志向は知っていたが、
まさか時間を超えるほどとはね。
娘のためもあるとはいえ、予想外だ」
「何も気にする必要はないですよ。
貴方たちには返せない恩があります」
「君は忍法をどうやって覚えた?」
核心を突かれ、絶句した。
己が忍者であることは常に秘匿してきた。
それは師匠に忍者は忍ぶものだと教えられたのと、
技術や知識を狙われる可能性があるからだ。
しかし、この時代には”忍者”の概念さえ失伝している。
戦いで忍法を繰り出すにしても、小声であるし、
リチャードにバレても“親が忍者”だったと言えばいいくらいに思っていた。
だが、この状況。
向こうが予想より遥かに事情通なのを知ると、
忍者であるということは、疑われるだけはある要素になってしまう。
「……実の親が忍者でした。
秘伝なので使い所を選べと」
ありえない。
どうして遥か遠き地で技術を連綿と伝える忍者が、
ゴロツキに殺されているのか。
失言だ。
「そうか。ならいい!
とにかく、君のことを疑う気はないんだ。
私は君を息子同然に思っているからね!」
疑いを深めると思いきや、
リチャードは逆ににかり、と笑って、
巨大な両手でノーマンの肩を揺さぶる。
全身の筋肉痛が刺激されて、危うく絶叫しそうになった。
「いやあ、とにかくね。
君に言いたいのはね。
我が家にとって君は救世主ということだよ。
君が来てからというもの、娘は病から立ち直っただけでなく、
“剣”・“ご飯”・“寝る”・“この服買って”以外の言葉を発するようになったんだ。
娘が生まれて初めて他人に手を差し伸べたのが、
回り回って我が一家を救うことになるだなんて運命この上ない。
なんとしてでも娘と結婚して跡継ぎになってもらうぞ。
そうしなければ私は君に関するすべての疑いを開示するだろうな」
笑っている。
だが、その目だけはまったく笑っていなかった。
最後に聴き逃がせない脅迫を言われもした。
「ええ!?」




