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終末世界の幼馴染主従ラブコメは死に戻りからリスタート  作者: スカンジナビア半島


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【十二】-2 何者

「あの男は……!」


「知っているのか」


「ボルグです。

 我が衛兵屈指の猛将です。

 恵まれた体格に傲ることなく、弱き者を助け、

 我らの横暴にも異議を唱えていました」


「そんな男が……」


 あまり知られていないことだが、

 モヒカンは人間だ。決して、突如として荒野に現れた新種ではない。


 しかし、どのようにして人がモヒカンになるのかは諸説ある。

 最も有力なのが、未来への希望を喪った時だ。


 だが、パトリックが評価するほど正義感の強い人物が

 モヒカンになってしまうとは……。

 剣邪の遺した爪痕の大きさを見せつけられた。


 本来の歴史では、モヒカンになる余裕すらなく、人々が斬られていた。

 皮肉なことだが、生き残ったことで、奴の巨大な絶望を痛感した。


「落ち着くんだ、ボルグ。

 奴はノーマン様とエルシア様が倒してくださった。

 恐れから恐慌に走るのはやめるんだ!」


「知ったこっちゃねえ! まともに生きたって、力に負けるのが世の常なら、

 俺様は力を振るう側に回るぜえ! てめえらのようになあ!!」


 過去の、それもつい最近までの愚行を指摘され、

 パトリックは恥じ入るように顔を赤らめた。


「手始めに一番偉いやつだ! この都市の領主だ!

 腕をポキポキへし折って骨抜きにしてやるぜ!」


 エルシアは寝ている、ノーマンは動けない。


「お前に奴を倒してもらおう」


「しかし、僕がボルグに勝つのは……」


「反論はいらない。お前がやれ。衛兵、パトリックに槍を。

 よし、腰を落として半身になって切っ先を自分の眼と意識しろ。

 全身の動きが槍の先端に集まるとイメージするんだ」


 有無を言わさず教導の続きだ。

 人に物事を教えるのは相手の盲を啓き、明かりを灯すに近い。

 忍者としての知識を活かし、雑兵の指導を何度もしていた。

 故に、ノーマンは参謀だった前の歴史で、啓明の騎士とも呼ばれていた。


 槍を受け取ったパトリックに構え方を指示すると、

 すぐに様になった構えを取った。

 記憶が朧気とはいえ、前の歴史の武術を体験したのがプラスになっている。


「そして、突け!」


「やぁっ!」


 身を沈めての刺突。

 相手がモヒカンに成り立てなのが功を奏した。

 穂先がずぶり、と相手の皮膚に沈んだ。


「ぐあっ!! この若造がぁ!!」


 モヒカンの分厚い筋肉に阻まれ、

 決め手にまではならなかった。

 人の頭を容易く叩き潰せるほどの張り手が襲いかかる。


「槍は背骨の延長だ!」


「はい!」


 ノーマンの指示に反応したパトリックが

 突いた槍を引いて、柄で張り手をいなした。

 そして相手の力を利用して、槍を円の動きで回す。


「ぶふぇっ」


 敵を横殴りに打ち据え、

 モヒカンは昏倒した。


 槍を殴打の武器として使う。

 初歩の初歩だが、初めての槍なら問題ない。


「よくやった。お前には槍の才がある。

 伸ばせば、俺を凌駕する使い手になるだろう」


 都合のいいハッタリで自尊心をくすぐっておく。


「ありがとうございます!」


「いや、大したものだ。

 いつでも出られるようにしていたけれど、

 余計なお世話だったかな」


 二人のやり取りをずっと見ていたリチャードが手を叩いて称賛する。

 それに続くように、モヒカンの発生で騒然としていたが、

 市民たちも次々に歓声をあげた。


「この男を縛って、マグリバの牢に引き渡せ」


 てきぱきと指示を飛ばし、

 チニスの民がてきぱきとそれに従う。

 棚からぼた餅だが、いいタイミングでモヒカンになってくれたと言える。

 強者を倒したことで、さっそく次の領主としての示しができた。


「あのような者を増やしたくないなら、

 遺族には補償を惜しむな。

 身寄りがない者が出たら、すぐに受け入れ先を探すんだ」


「もちろんです」


 モヒカンの種は絶やせない。

 しかし、芽は早々に摘むに限る。

 不遇の者を少しでも減らせば、人はモヒカンにならなくなるのだ。


 悲しみや絶望といった人間のちっぽけな感情。

 それが、やっと手に入れて持ち込んだ戦利品を脅かすエラーになるのなら。

 発生する前に潰すシステムを構築しなければ。


「わかりました! ただちに手配します」


 パトリックが張り切って、

 ノーマンの指示を果たしに去っていった。

 その表情には、師匠の期待に応えたいという熱意が見える。


「まさか弟子を作って帰ってくるとは思わなかったよ」


 一部始終を見たリチャードがしみじみと呟く。

「俺も予想外ですよ」


 リチャードに椅子を促され、

 持ってこられた杖を片手に座る。

 今日も暑く、乾いた空気だ。

 外にいては、容赦ない日光が病み上がりの気力を奪う。

 建物の陰で落ち着くと、隣に椅子を持ってきて領主も座った。


「とてつもないものに出会ったそうだね」


 剣邪のことだろう。


 もう過ぎたことだ。


 十三歳で倒すことになるのは予想だにしていなかった。

 だが、倒した。後は未来が待つだけだ。


 こちらが知っている限りの剣邪のことを話す。

 もちろん、前の歴史のことは省いたうえで。


「にわかには信じがたい話だ。

 しかし、娘と君の発言は一致している」


「もう死んだやつのことです。

 考えても仕方ないでしょう」


 それよりも考えることは未来だ。

 結果的に、チニスの住民丸ごとを取り込むことができた。


 マグリバにこれほどの追加住民を養う余裕はないから、

 すぐに戻ってもらう必要はあるが、

 その過程で実質従属都市を一つ手に入れられた。


 パトリックの従順さも利用価値がある。


「どうかな……」


 こちらを見ずに、独り言のように呟く。

 その様子に違和感を抱いたが、

 特に言及しないでいると、

 リチャードは立ち上がって、片手でノーマンが座っている椅子を持ち上げた。


 いきなり目線が高くなり、頭がくらくらするのを堪える。


 ループライト家の人間は、どうしてこうも力任せなのか。あのエルシアの規格外の力の源流を思い知らされる。

 そのままリチャードは人気のないところにノーマンを椅子ごと連れて行く。


「君にはループライト家を継いでもらいたい」


 屋敷の裏、執務室の窓から下に飛び降りた地点にある壁、

 そこにリチャードは手を差し込む。


 指紋認証による電子音が鳴り、地下への階段が展開された。

 かなり奥深く、底が見えないほどに続く階段を、

 人が座る椅子を持ちながら軽やかに降りていく。


「ループライト家は代々、先史文明の保存と理解を使命としてきた」


 リチャードの到着を待ちわびるかのように、

 彼の足が最後の段を降り終えると同時に、

 灯りが煌々とついた。

 ループライトの屋敷にこのような場所があるとは。


「ここで君を治療することもできたが、しなかった。

 それは、あまりに貴重な技術があるからという理由もあるが──」


「それは!!」


 リチャードの手から、

 鎖、そして懐中時計がぶら下げられた。

 気絶していたせいで、完全に意識から外れていた。

 ノーマンが過去を遡るのに使った、秘宝。


「歴史には、何人たりとも触れてはいけないものがある。

 その代表的なものがこれだ。

 代償を差し出すことで、時を遡る先史の秘宝。

 名をクロノポイントと言う」


知らなかった。

持ち主も知らないことを、

このループライト家の領主は知っていたのか。


機械灯を逆光にしているせいで、

相手の表情がわからないが、

圧倒的なプレッシャーを感じる。


「文明を復活させる鍵だと認識されていた。

 ……君には、この家を継いでもらいたいんだ。

 だから、嘘偽りなく答えてくれ。

 君は未来から来たのか?」


──まずい。


 盤面を完全に支配し、予定通りにことを進ませて、最大戦果を獲得した。

 それがノーマン視点での、今回の任務の総括。

 だったのに、最も致命的な弱点、真実を握られていた。


 話すつもりはまったくなかったが、それは話しても信用されるわけがないから。

 その程度のことだったのに、リチャードはノーマンよりも多くを知っている。


もしも「家のすべてを奪いに来た敵」と認識されたら……。

ノーマンの脳全細胞が、この事態を乗り切る方法を思いつくために、全稼働した。


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