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終末世界の幼馴染主従ラブコメは死に戻りからリスタート  作者: スカンジナビア半島


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【一】-2 剣一本で届かないなら、街一本を刃にする


 ぼんやりしていた表情のままに、

 お嬢様がついてくる。


 屋敷に引き取られて二年。

 時間を巻き戻す前に聞いた怠け者という自己評価は本当に間違いがない。

 エルシア・ループライトは全く自分から動こうとしない。


 小型バイクに跨り、

 後部座席にお嬢様を載せる。


「捕まっててください」


 エンジンを吹かし、

 帰途につく。

 途中で白骨化した骸獣の犠牲者や、

 朽ちた機械、かつての文明の名残の横を通り過ぎていく。


「あれ?」


 首を傾げたエルシアの視線を辿ると、

 さっき横を逃げていった行商人が斃れていた。

 周囲にはハゲワシ型の機械が集っている。


「動くなと言ったのに走るからだ」


 同情する余裕はない。

 この世界では、一手間違えた人間から順に喰われる。


 ついさっき、感謝の言葉を口にした男。

 鉄の鳥たちに顔面を無惨に啄まれていて、

 服装と体格でしか判別がつかない。


「亡骸を保護しようなんて言わないでくださいよ」


 釘を刺してもきょとんとした顔をされた。

 ただ新鮮な死体を不思議がっただけ、

 擦れ違った者の顔を覚えていないようだ。


「ふぅ。まだ痺れてるか」


 感覚が薄い右手のグリップを再確認する。

 培った技、経験は十分に通じる。

 どころか、圧倒だってできる。

 しかし、それは相手を翻弄することに対してのみであり、

 トドメを刺すには力が足りない。


 二周目、それはもっと簡単で、何でもできる気分だった。

 だが違う。子どもの体では技を活かしても

 生活を脅かす骸獣を倒すには膂力が足りない。

 そして、時間を遡るために“失ったもの”が大きい。


「令嬢のお帰りだ!」


 交易都市マグリバと外界を繋ぎ、隔てる堅牢な門に叫ぶ。

 ノーマンとエルシアの網膜を、

 センサーがスキャンした。

 網膜認証が済んで、街の門が開く。


『お帰りなさいませ』


 電子音。

 これもケダモノから取ったものだ。


 車道を進むと、市場のエリアから手を振られる。


「ケダモノどもの収穫はーー!?」


「壱番水道を修理する!

 住居の補強とビークルの製作も。

 準備をするように伝えておけ!」


 お世辞にも礼儀正しいとは言えないが、

 ノーマンの言葉を無礼な使用人の小僧と扱う者はいない。

 遠くからの指示でも、受けた側は機敏に動き出した。


「エルシア様のお帰りだ!」


「今日もありがとうございます!」


 門の先に進むと擦れ違う人々からのお礼の声。

 エルシアはそれを聞いているんだか

 聞こえていないんだかもわからない。


「どうか我らをお守りください」


 手を合わせて拝む者さえいる。

 ただ剣の腕が誰よりも立つというだけで。


 この時代の領主は血や権威で成り立っているのではない。

 外敵を屠る剣、自分らの身代わりになる盾、

 自分達が喰われる順番を最後に回してくれる生贄。


 屋敷に縋るようにして集まってできた街、

 集落と言ってもいいそれらは、

 “この家なら自分を守ってくれる”という信頼を求めている。


 だから、民は従順に頭を垂れているのだ。

 命を預ける代わりに。

 安い税金だとノーマンは思う。


「お父様もさぞ誇りに思いますよ」


 後ろのエルシアに伝えても

 反応はない。小さく吐息をついたのは聞こえる。

 だが、それだけだ。


「歴代ループライト家でも、貴女は一番でしょう」


 領主が人々を骸獣ケダモノから守ってきた。

 だから、屋敷はデカく、金が集まり、そして尊敬される。


 バイクをガレージに止め、

 常に整えられている庭を通って

 屋敷の扉を開ける。


「ただいま帰りました」


「やあ、無事だったね!」


 メイドや執事よりも先に、

 この屋敷の主が駆け寄ってきた。

 エルシアの父、

 交易都市マグリバの領主だ。


 名をリチャード・ループライト。

 ノーマンの後見人でもある。


「君達なら万に一つもないと思っていたが、心配だったよ。

 護衛は必要だったかい?」


「いたら足手纏いが増えてただけでした」


「だろうね、ハハハ!

 エルシアも彼と一緒にお出かけできて楽しいだろう」


 父が話を振っても娘は無視して消えていった。


「反抗期なのかなあ」


「誰にでもああですよ」


 前の時間では違ったことは、心に留めた。


「でも、君には違うだろう」


「同じですよ」


「やはり恩人だからかな」


 すでにエルシアの病の治療薬の在り処を知っていたノーマンは、

 引き取られてすぐに「両親が薬屋」と偽って、

 治療薬の在り処を伝えた。

 おかげで、エルシアはすぐに病が治り、すくすくと育ち、

 恐るべき速さで剣士として成長し続けている。


「薬を手に入れたのはお父様である、旦那様なんですから。

 ……俺からも、少しは愛想よくするように言ってみます」


「いいよいいよ。領地経営で忙しくて、相手してやれてないのもあるだろう」


 そう言って温和に笑ってリチャードが引っ込んでいく。

 相変わらずのお人好しさだ。

 そうでなければ何処の馬の骨かもわからない、

 娘が拾った野良犬同然のノーマンを受け入れはしないだろう。


 この時代、弱者の振りをして取り入り、

 恩を仇で返す人間などいくらでもいる。


 戦利品である機械から取った部品を

 先輩老執事に手渡し、

 自室に戻った。

 こちらの希望で他の使用人と同じような広さの空間、

 一人部屋にしてもらっているだけが特権だ。


 外行きの燕尾服を脱いで、

 携行食として持ち出していた干し肉の余りを齧る。

 何度も咀嚼して飲み込み、コーヒーを淹れて脚を伸ばして椅子に腰掛ける。


「……幸せだな」


 自然と、口から零れた。

 旅に出て再会できなかった旦那様、

 病が治ってボーッとしているが、元気に剣を振っているお嬢様。

 他に何を望むだろうか。


「このまま二人に生きてもらえたら……」


 剣邪がまた出ても、倒せるのではないか。

 特に、お嬢様にこのまま際限なく成長してもらえたら。

 この死に戻りにおいての目標は、容易く達成されるはず。


 お嬢様を見守って、

 こちらも日々研鑽を積む。

 そんな理想的な毎日を過ごすだけで、いい気がする。


「そんな訳はない」


 目を閉じて“末期”を思い返す。

 両断されかけた胴体で、自分の側で事切れた彼女。

 父を亡くして、街も蹂躙され、抜け殻として腑抜けていた姿。

 あれを繰り返すのは、何を置いても避けたい。


「なら、どうするかだ」


 実戦を積んでノーマンは、

 己が、本当の意味で戦いの役には立てないと理解した。

 来る未来に向けて万全に備えるには、

 この体は弱すぎるのだ。


「必要なのは、勝てる環境、人材、街を創ること。すなわち政治だ。

 街そのもので奴を斬れるようにしなければ」


 ──剣一本で届かないなら、街一本を刃にする。


 敵の強さは途方もない。

 だが、捨て身でやれば倒せた。大軍、世界を単騎で滅ぼした怪物でもだ。

 恐らくは世界、有史でノーマンだけが掴んだ情報である。


 すでに帝王学は学んだ。

 それも、旦那様は過去先進文明の教育水準をキープしている。

 彼の知識は前の時間ですでに学んだ。

 そして、領主である彼は超人的剛剣の使い手。

 ノーマンが一刻も早く領主の重い執務机から蹴り飛ばし、

 前線を指揮する将軍としての勘所を取り戻してもらう。


「やはり、そうか。

 まずはこの家を乗っ取るしかない」


 この屋敷に引き取られて毒気は抜かれたが、牙まで無くしたつもりはない。


「あの父娘は泣いて俺に感謝するだろう。

 痛快極まりないことにな」


 珈琲をずず、と啜る。

 行儀が悪い飲み方。

 これも領主になったら、し放題だ。


「せいぜい俺の掌の上で暢気にしているがいいさ」


 そんなことを考えていると、

 ノックもなしにドアが開いた。


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