【一】-1 死に戻った剣豪、ポンコツ剣士になる
【一】
二周目なら、全て斬れると確信していた。
現実は、ノーマンの右腕では、ケダモノ一匹さえ剣で斬り伏せられない。
鳥も飛ばなくなって久しい空。
乾いた風がどこまでも吹き抜ける。
「来てくださったんですね!」
生き残りの行商人達が荷物をありったけかき集めて、
護衛や同業の亡骸を飛び越えて、
こちらへ駆けてくる。
「大きく動くな。奴らは動く者を優先する」
ノーマンの警告を聞かない。
「銃器も何も通用しないんですよ!
もう終わりだと思っていました。感謝します!」
それだけ捲し立てると去っていく。
「金をケチったな」
哀れな犠牲者達だと、ノーマンは思った。
野盗退治なら問題ないマシンガンが、半ばからへし曲がって転がっている。
かつての文明を破壊したケダモノ達。
太古の正式名称は、機獣種。
だが今は違う。
滅びかけた獣の骨格を真似、捕食を真似、
激変した世界で、骸となった獣のふりをして生き残った鉄の獣。
骸獣。
その呼び名の方が、今ではずっと馴染んでいる。
人間に産み落とされながら、造物主の模倣ではなく、
獣を模倣する生存戦略を取った化物ども。
それが、この時代の災厄だ。
目の前で、犬の骨格をした機械が排熱し、口らしき部分から湯気を吐き出す。
物資の交易のために整備された道、
人が行き交うための道に棲み着いた、鋼鉄の野良犬。
背骨に沿って並ぶ排熱板、喉奥で赤熱する炉心。
その獣の名をストレイナーという。
ケダモノに共通する拳銃もガスも効かない構造と装甲。
そこに野犬の獰猛さと俊敏さが加わっている。
自動車を紙切れ同然に切り裂く爪が地面を蹴り、
大きな顎を開いて飛びかかってきた。
「ハッ!」
身体全体を使って遠心力と速度を載せ、トマホークで叩き伏せる。
「剣豪だった頃が懐かしいな」
忌々しげに舌打ち。
時間を遡った代償だ。
刃物を握れば、得物が手から逃げる、
そんな身体では刃を潰した無骨な鉄塊を振るう他ない。
火花が散って、トマホークの頭部が赤熱化した。
熱と衝撃が、まだ幼くて小さな手に伝わってくる。
「しゅわーーーーーーーーっ」
骸獣は動きを止めない。
怯んだ様子は見せても、
すぐに身を翻してこちらに再度仕掛けてくる。
鋼に強烈に打ち付けた反動だ。
手が痺れ、ビリビリしている。
「剣を振るえればな……!」
舌打ち。
利き腕とはいえ、愛用ではない武器で、
十分な威力を出すのは、この体では不可能だ。
「ありがとう」
再度の攻撃に備えるより先に、
白銀の煌めきが視界の端に映る。
全身の力を抜き、
自分と同じ小さな女の子が最小限の動作で鋼鉄を両断した。
最初から切れ目が機械にあり、
彼女はなぞっただけ。
そう言われたら誰もが信じるほどに、
滑らかな刃の入れ方だった。
「素晴らしい」
ノーマン・ロストは、感嘆の吐息を漏らす。
「俺だけで何とでもなりましたよ」
「私が剣を振りたかったの」
そう言って剣を鞘に収める。
彼女の背後にはすでに五体の骸獣が転がっている。
流石は未来の剣聖殿だ、とノーマンは思った。
齢十三歳でしかないのに、大人の大半を凌駕する剣の腕を持っている。
「じゃあ俺は戦利品を集めますから」
「生き残り……」
「もちろん確認します」
転がっている人々の顔を確認し、
眼球があるかを確かめる。
獣は眼球を主に喰らう。
もしくは、耳だ。
何を求めているのかは知らないが、
犠牲者は乱暴に機械に押し付けられ、
その衝撃で全身が砕け、
そして感覚器官を喰われる仕組みになっている。
つまり、眼球、もしくは耳がないのであれば、
その者は死んでいるという目安になる。
「生存者はゼロ」
折り重なって倒れる恋人か夫婦の死亡を確認し、独りごちる。
生身の肉にこびりついた鉄錆と機械油の粘つく臭い、
抉り取られた眼窩には、機械が強引に齧りついたことで、金属片が零れ落ちている。
「右手のピリピリはどう?」
「うわぁっ!」
突然に、エルシアのシミ一つない白磁の頬がぴたりとくっついてきた。
まるで気づかずに、ノーマンは少年らしい悲鳴をあげてしまう。
「気配を消して顔をくっつけないでください!
失礼だって言いましたよね!」
「ピリピリ」
「平気です!」
「ウソだ」
ぼんやりしているのに、こういう所だけは目敏い。
「ちょっと剣抜いてあげますから、その辺で遊んでてください」
「絶対にウソ」
食い下がるお嬢様の腰元から家宝の剣を抜いて押し付ける。
たちまちエルシアは、手元の剣に意識を奪われていた。
いつものことだった。
「回収作業をします」
返事はない。
彼女が倒した骸獣の残骸を漁る。
どれも貴重な戦利品だ。特に、日用品を修理する部品にも事欠く時代なら。
「これだけあれば家も足も立派にできるか」
領民の住居、それと移動手段。
インフラの整備にも
骸獣の体を使う。
「じゃあ、帰りましょうか」
「はい」




