【十一】-2 二刀
無感情・無反応で底知れなかった剣邪が怒りを露わにした。
青眼の構えを取り、一直線に渾身の力で斬撃を仕掛けてくる。
風圧だけで地面に亀裂が走った。
巡礼者が斬られる瞬間。
影が霧散し、剣が空振った。
相手が剣を下ろした直線一キロに、深々と罅が入った。
犠牲者が出ないように、会話しながら誰もいない方向に移動してある。
「もう一度!」
剣の絶対者が次の動作に移る。
手首が跳ねた。
摺り足で半身が入れ替わる。
次は逆袈裟。
影が霧散したことを気にしてもいない。
一度剣を振り出したら無心に戻ったか。
だが、こちらに狙いを変えた剣邪の真横に
巡礼者を再構築した。
できるかわからなかったが、やるしかない。
そして、成功。
流れが来ている。
意図せぬ方向から剣邪を斬る。
「見切っている」
首をわずかに動かし、斬撃を躱す。
完全に見切られてしまった。
「それは剣ではない」
影が握っていたのはトマホーク。
刃を潰してある、さっき投擲したものを、拾わせていた。
剣と手斧の二刀流。
片手に握った剣で、相手の脇の下を斬り上げた。
完全に決まった。
剣邪の腕が落ち、夥しい血が散った。
だが、終わらない。
「まだだ!」
意識を集中した瞬間、
脳を動かしていた燃料がなくなったかのように、
意識が働かなくなった。
巡礼者を今度こそ動かせない。
「ならば──!」
かくなる上はと、
自ら駆け出してトマホークでトドメを刺そうとする。
「こうするんだろう!」
ノーマンの足を、
剣邪の影から這い出た亡者が掴んだ。
前の世界でも使われた手だ。
「貴様のやり方を覚えたぞ……ここは、退く」
どうやら今回の歴史では、
ノーマンを見て、やり方を掴んだらしい。
だが、それは今は大きな問題ではない。
奴は今、聞き捨てならないことを言った。
「卑怯者め! 斬るしか能のない分際で逃げを打つか!!
恥を知れ、恥を!」
ノーマンの挑発に、
剣邪は額に血管を太く浮かべた。
奥歯を噛み締め、屈辱に震える。
頭の“斬れ”という言葉に従い続けたのだ。
剣の戦いで背を向けるなど、考えもしなかったことだろう。
「覚えておけ、貴様を、必ず殺す……!」
「卑怯者! 腰抜け! へっぴり腰!」
「その口を二度と利けなくしてやる。次に会ったらだ」
己のシルエットも亡者の影に隠し、
そうして、剣邪は消えようとする。
「クソッ! クソッ!!」
もどかしさに地面を何度も殴った。
拳の皮膚を傷つけ、
生命のない大地に血が滲んだ。
剣邪と同質の力が自分にあるのはわかった。
しかし、それだけでは足りないことも痛感した。
剣を握れない自分は、血骸が形となった巡礼者の力を伸ばせない。
ノーマンの推測だが、血骸を通して
剣邪の力が形になったのは、
おそらく、時間を遡るのに“剣士としての己”を捧げたからだ。
斬ったわけではないのに、おかしなことだが、
今のところあり得るとすれば、その線しかない。
再戦するまでに、剣邪はさらに斬って強くなるだろう。
そうなれば、これほどの犠牲の少なさで抑えられるわけがない。
場合によっては、マグリバそのものの滅亡さえ。
「覚えておけ、何度こっちに来ても俺は何度でもお前を──」
そう言い終えるより前に、
白いものが、砂に汚れつつ転がってきた。




