【八】-1 モヒカン軍団
【八】
地名というものは、この時代、全く当てにならない。
共通した知識にならず、
近くに住む者が適当な特徴や逸話から
でっちあげるものだからだ。
「さざめきの丘」という名称と、
地図の目印を頼りに、教えられた場所へ着いた。
小高い山が棘のように立ち並び、
風の音が啜り泣くような、引きつったものになっている。
まるで、何かに怯えているような音だった。
「そろそろモヒカンがいるはずなんだが」
「この子が早く使ってほしいって言ってる」
「干し肉削らせといてくれますか」
エルシアが投げナイフをかちかちと打ち合わせる。
血を求める刃の横で、本人は肉を求めている。
今は素直に干し肉を削って一口サイズに小分けしているが、
このままではぐずりだして、ノーマンにあやすよう強制してきかねない。
「ところでこの服、どう」
鎖鎌の時と同じように、ファッションの感想を求めてきた。
さっきは有耶無耶にできたが、
今回は彼女を焦らしている状態だ。
鎖鎌の時は露出を多くし、
山吹色のバンダナ、ジャケットに、
迷彩のシャツとショートパンツだった。
今は先史文明にあったという
手品師の格好をし、
怪しげな白い付けひげをつけている。
「どう? 可愛い?」
喋るたびに白い口ひげがふごふご動いていた。
相手の顔を見ないようにし、
なんとか他のことで気を引けないかと、モヒカンを探した。
「待ってください。もうすぐモヒカンが……いました!」
山道といっても地面剥き出しの道に、
逆立った髪の連中がいた。
「血を吸いなぁ」
投げナイフを投擲するより先に、
ノーマンがお嬢様の手元から得物を剥ぎ取った。
「様子を見ます。奴らのボスがどこにいるのか知りたいです」
「すぐに終わらせてね」
双眼鏡を取り出し、ノーマンがモヒカンの唇の動きを読む。
一人の男性を囲い込んで脅しつけているようだ。
「お願いだ、見逃してくれ!」
「嫌だなぁ! 身ぐるみ剥いだ後は俺達の娯楽になってもらうぜ!」
「今の流行はザクザク祭りよぉ!」
「ここならギリ死なねえだろって感じに斬って次に回すんだ。
それで死んだ時の番になってる奴の直前に斬った奴が強者なんだ!
やめられねえんだ、止まらねえんだ! スリリングなんだ!」
「まずは右足の爪先をズバッと行くぜ!」
「なんて慎重派な野郎だ!
人間喰う時も骨は吐き出すタイプだ、こいつ!」
「投げていいですよ」
「さっそくザクッと──あれ、斬れてねえ」
「おいおいこいつはウケるぜぇ。
なんでおめえの手がザクッと斬れてんだ」
「そういうお前の首にナイフが突き刺さってるぜ」
「ゴボボボボ」
首に深々とナイフが突き刺さったモヒカンが、
血の濁流に溺れている。
何が起きているのか分かる前に、
モヒカンたちにエルシアの投げたナイフが次から次へと刺さっていく。
「なんだ! 俺達の方がザクザクされてる」
「逃げっ、足ッ、でべえっ!!」
絶命しかけたモヒカンが、最後の力でダイナマイトに火を点けた。
それも、エルシアの投げたナイフが手から弾き飛ばし、
天高く飛んでから爆発した。
エルシアなら導火線をナイフで切断し、爆発を阻止することもできただろう。
しかし、空中で爆発したそれは、
首領級モヒカンを呼び寄せるためのもの。
狙い通りに、地響きを立ててモヒカンの群れがやってきた。
奴らはこの荒野で気配を全く隠そうとしない唯一の生き物だ。
「ヒッ、ヒイイッ!」
「あんた、チニスに戻れ!
追い出されても、今は受け入れられるはずだ」
絡まれた男が脱兎の如く走り去っていく。
骸獣ではなく、モヒカンから逃げるなら、それでいい。
奴らは己の存在感を誇示するために、
居場所と接近が非常に分かりやすい。
つまりは、とにかく安全そうな所へ走れば、
遭遇の危険を抑えられる。
生き物の存在を感じたら、
それがそのままモヒカンである。
巨大な牛の怪物が丘を登ってくる。
それだけならば骸獣と判断しかねないが、
皮膚は布で、その下にはエンジン音が響く。
これはバイクを土台にして工作した、
牛を模した乗り物だ。
その証拠に、背には牛の角を生やした巨漢がいた。
「なんだね、君らミルクどもは。
このモーカギュウの縄張りと知ってのことか」
「チニスの新領主だ。
貴様の命を貰いに来た」
「カーーーウカウカウカウッ!
ミルクな乳臭さだ、ガキどもよ。
これを見ても同じことを言えるかなッ!」




