【七】-2 次は首領級モヒカン
「投げナイフもらっていい?」
「どうぞどうぞ!」
「それとここの人達をイジメないで」
「それは駄目です」
全てに従いますと言わんばかりだった領主が、
真剣な顔に戻って断った。
即座にエルシアが鎖鎌を放って、相手の頬を掠め斬った。
投げナイフを使わないのは、
それが今日のファッションに合わせた武器ではないからだろう。
完全にへし折られていたはずの、己の強さへのプライド。
なのにグランテイマーは怯まなかった。
「理由を聞こうか」
「この都市を、極めて凶悪なモヒカンが取り囲んでいます。
そのため、常に奴らの襲撃に備え、
惰弱な者を都市から追放し、
モヒカンの餌にして襲撃を先延ばしにしないといけません」
つまりは、あの蠱毒のようなシステムは、
モヒカンへの生贄選出のためでもあったということか。
惰弱を排除する行為そのものが、
外の強者へのご機嫌取りも兼ねていたとは。
「このエリアの首領級モヒカンはどこに?」
「いけません、奴には誰も勝てませんよ!」
「私達なら楽勝」
何を言われようともエルシアは心を決めている。
そして、チニスの実情がわかったことで、
ノーマンは己の頭に次の悪辣な策謀が浮かび上がるのを実感した。
──今日から、この都市は俺の所有物だ。
少なくとも外交上、優勢なのはこちらだ。
ならば、貴重なリソース(領民)に示すべきは、
これまでの見せかけの庇護とは格が違うということ。
怯えさせるだけの支配者と、怯えの原因を始末できる支配者。
どちらに膝をつくべきか、民にわからせる良い機会だ。
それによって、今回の遠征を最高の戦果に押し上げられる。
「そういうことだ。
さあ、お前らをビビらせている悪党を教えてもらおうか」
デスクに足を乗せ、
威圧感たっぷりに脅しつける。
彼らが屈服したのは執事の力ではないが、
あの理不尽な化け物が、こちらに強い感情を抱いているのは知っているはずだ。
「何だ貴様。執事風情が」
「お嬢様、この男が反抗的です」
エルシアに咎めてもらうよう、示唆した。
「教えますぅ!」
慌てて割り込んだグランテイマーが、作り笑いを浮かべてへりくだった。
まだこちらの威容は足りないか。
だが、それもじきだ。
ノーマンがこの都市の交渉の実権を握り、
功績を積み上げていけば、やがてすべてはノーマン・ロストの思うがままになる。
「や、奴らはさざめきの丘に陣取っています」
「よし。後はこちらでやる。地図に印をつけろ」
「しゅっぱーつ」
グランテイマーからボスモヒカンの居場所を聞き、
気の抜ける声でエルシアが、しまわずにいた鎌を突き上げた。
その動きだけで周囲が怯えて、腰を抜かしかける。
この辺りの脅威の中心がいる場所を把握したノーマンは、
地図を丸めて懐にしまう。
光源がろくになく、薄暗い邸宅内を二人で歩く。
年季を感じさせる窓から、微かに日差しが差し込む場所に、
ボロボロの男が、土下座をして待っていた。




