【七】-1 計画通りだ
【七】
「へへ、ありがとうございます。
すべて、貴方様の主張通りにさせていただきます」
グランテイマーが両手を擦り、揉み合わせて、
巨大な身体を不自然なほど小さく丸め、何度も頭を下げた。
昨日までなら椅子ごと人を見下ろしていた男が、
今は机の木目に額を擦りつけることしかできない。
纏めた取り決めを確認したが、
こちらを出し抜こうとする意図は微塵も感じられない。
全身に無数の裂傷を刻まれ、包帯でグルグル巻きになった彼に、
初対面時に見た傲慢な覇気はない。
警護している衛兵も、こちらの顔色を窺うばかりだった。
そして、彼らをこんな心境に追いやった張本人たるエルシアは、
部屋の隅っこで飾られている武器を退屈そうに眺めている。
チニスは完全に陥落した。
ノーマンの決闘ではなく、
戦いを見て体を動かしたくなったエルシアの気分によってだ。
そして、生まれた血の雨は誰の命も奪っていない。
殺されなかったことが、彼らにとって慈悲だったのか、
より深い恐怖だったのかはわからない。
無惨に無慈悲に殺すモヒカンと、
殺さずに相手の心を挫く剣聖の卵のどちらが恐ろしいか。
強さが伝わるのは確実に後者だ。
事前に伝えておいたことだ。
この都市はマグリバの傘下に組み込むと。
だから、戦うことになってもむやみに戦力を減らさないように頼んでおいた。
「ではこれで交渉成立ということにしましょう」
「ハハッ!
偉大なるマグリバと関係を持てて光栄であります!」
何度も頭をデスクに擦り付ける。
何かあるたびに、この机を暴力の的にしていたのだろう。
漆のデスクの表面、いたるところに無惨な凹凸ができていた。
ノーマンとしては、交渉でこの結果に持ち込むつもりだった。
その自信もあった。
結果としては、エルシアがボンボン以外の全てを斬っての力押しだった。
──まあ、計画通りだろう。
そう強引に言い聞かせる。
交渉で屈服させ、説得で差し出させるつもりだった。
結果としては、未来の剣聖が気分で血の雨を降らせただけだ。
だが、盤面は制圧した。
ならば、それは計画通りと呼んでいい。
ノーマン・ロストがそう決めた。




