【五】-3 だが俺は
時計の針が刻まれる音。
その場の全員が訝しんで辺りを見渡す。
この時代に正確な時間を気にするものなどいない。
時計など、もはや誰も求めておらず、
存在を記憶してさえいない。
ノーマンが前の世界から持ってきた《遺産》以外は。
「まだだ……」
パトリックの周囲に、
時計盤めいた鏡が四枚展開される。
浮遊し、旋回する鏡面から、
秒針と長針が根元から剥がれ落ちていく。
それら全てがボンボンの全身に
直接打ち付けられ、はめ込まれていく。
肉を裂き、その奥の骨に無理矢理収められているのだ。
時計仕掛けの機械人形が、組み上がっていく。
「僕はまだ、負けていない……!」
漆黒に光る双眸、
異形の機械躯体に、生身の首が乗っている。
「何だそれは?」
ノーマンの理解が追いつかない。
持っていた棍棒が、時計盤に包まれて長槍に変わる。
ただの長槍ではない。あれはパトリックがいつも自慢していた──
「行きますよ、参謀殿」
「なんだと?」
耳を疑った。目もだ。
人の姿ではなくなったはずなのに、
その表情には、かつての彼のものがあった。
繰り出される刺突もだ。
パトリックは槍術の達人だった。
今のノーマンでは、正面からでは絶対に勝てないだろう。
もしやと思って回避に専念して正解。
用心がなければ相手の異変にそのまま呑まれ、
身体を穿たれ、その余波で跡形もなく消し飛んだだろう。
そうだ。それでこそ、ノーマンが信頼し、
友誼を交わした男の武だ。
今の小さな体で勝てる道理もない。
「だが、俺は忍者だ」
パトリックが磨き上げた槍術、
血煙獣槍流・塵芥。
鍛え上げられた神速の穂先がノーマンの睫毛を撫でる刹那、
印を結んだノーマンは呟いた。
「千赤忍法・鋼鉄降臨」




