表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/51

第二話 満月の夜と、隠された階段 パート4

第二章 黒猫の予言


第二話 満月の夜と、隠された階段


パート4




「あの二人は、巻き込めない」


ルナが絞り出すようにこぼした弱音を聞いて、白竜アルカディアは、深く慈しむような目を向けた。


「……お前は優しいな、ルナ。古代より続く守護者の誰よりも、ずっと人間くさい」

「褒め言葉には聞こえんな」


ルナは顔を背け、揺れる尻尾を、前足で押さえつけた。

レオンは他人の痛みを引き受けることには長けている。けれど彼自身もまた、癒えない傷を抱えていた。エリアに至っては、自分の持つ『破壊の力』を恐れ、カップを一つ割るたびに泣きそうな顔をする、ただの少女だった。


彼らを、神話の時代の残滓である『ノクス』と対峙させるなど、あってはならなかった。


「我ひとりで結界を張り直す。ノクスの影が森へ近づく前に、この爪と牙で、必ず……」

「やめるのだ、ルナ。それは守護ではない。ただの自己犠牲だ」


アルカディアの静かで、しかし確かな威厳を帯びた声が、ルナの言葉を遮った。

巨大な白竜はゆっくりと首をもたげ、はるか頭上の暗闇――地上へと視線を向けた。


「昼間、お前の鈴が鳴った意味を理解しているはずだ。ノクスの目覚めは、もはや一つの聖域の力で抑え込めるものではない。……月の聖域の結界だけでは、もう世界律の崩壊を止められぬのだ」


その宣告は、ひんやりとした地下神殿の空気を、さらに冷たく凍らせた。

ルナの小さな体が、びくりと震える。

分かっている。そんなことは、とうに分かっている。自分一人の力では、遠からずあのカフェの日常も、森ごと闇に呑まれてしまうと。


「調律の青年と、破壊の少女。彼らの力なくして、これから来る世界の嵐は越えられない」

「……」

「開くときが来たのだ。あの小さなカフェの奥深く、お前がずっと閉ざしてきた『秘密の部屋』を」


秘密の部屋。

その言葉を聞いた瞬間、ルナの金色の瞳が揺れた。

そこに眠るのは、古代の遺物『月響の鈴』。世界の心を救うための唯一の鍵であり、同時に、封じられた過去の痛みと向き合うための扉だ。

あの部屋を開ければ、もう、ただの「温かい猫カフェ」には戻れない。


長い沈黙が、二人の間に落ちた。

やがて、ルナはゆっくりと立ち上がり、鏡のように静かな記憶の泉へ背を向けた。


「……老竜よ。お前たちが残した後悔は、ひどく重いな」

「ああ。すまない、小さき守護者よ」

「謝るな。我は、我が愛する場所を守る。それだけだ」


振り返ることなく言い残し、黒猫は再び、白い石の階段へ足を乗せた。

一人で抱え込む時間は、終わったのだ。

明日、太陽が昇ったら、彼女は二人に真実を告げなければならない。世界の危機と、この店に隠された本当の秘密を。


地上へ続く階段を上るルナの首元で、青い首輪の鈴が、ちりん、と静かな覚悟の音を立てた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ