表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/51

第二章 旅立ちの朝と白竜の聖域 第六話 はじまりの扉 パート1

第二章 旅立ちの朝と白竜の聖域


第六話 はじまりの扉


パート1




翌朝。銀葉ぎんようの森は、昨日の冷たい雨が嘘のように、すっきりと晴れ渡っていた。

木々の間から差し込む朝日が、雨露に濡れた葉をきらきらと輝かせている。


猫カフェ『ルナ』の店内は、いつもの穏やかな空気に満ちていた。

キッチンからは、ベーコンを焼く香ばしい匂いと、スープの温かな湯気が漂ってくる。


「ノアくん、おかわりあるからね。いっぱい食べて!」


「うん、ありがとう……エリアお姉ちゃん」


カウンター席で、ノアは大きめのマグカップに注がれたミルクティーを両手で持ち、嬉しそうに微笑んだ。


昨日の恐怖に怯えていた影は、少し薄れていた。

そこにあるのは、温かい食事と安心できる大人の存在に支えられ、少しずつ本来の姿を取り戻し始めた、子どもらしい笑顔だった。


その足元では、三毛猫のニケが満足そうに喉を鳴らし、茶トラのマロンは「俺にもご飯をくれ」とばかりにレオンの足首にすり寄っている。


「ノア、帰る場所のあてはあるの?」


カウンターの中から、レオンが静かに尋ねた。


昨夜、ノアはぽつりぽつりと自分のことを話してくれた。

親戚の家を転々とし、どこにも自分の居場所がないと感じ、森へ逃げ込んでしまったこと。


だが、ノアはもううつむかなかった。


「……うん。遠くの町に、昔よく遊んでくれたおばさんがいるんだ。僕、そこに行ってみる。今なら、ちゃんと『助けて』って言える気がするから」


ノアの言葉に、レオンは目を細め、深く優しい微笑みを浮かべた。


調律の魔法を使わなくてもわかる。

少年の心に響いていたあの痛々しい不協和音は、穏やかな音へと変わり始めていた。


「そっか。気をつけてね。もしまた雨宿りしたくなったら、いつでもおいで」


「うんっ!」


朝食を終えたノアは、元気に立ち上がった。


エリアが「これ、道中のおやつ!」と、バスケットいっぱいのクッキーを手渡す。

ノアは何度も何度もお辞儀をして、カフェの重い木の扉を開けた。


――からん、と澄んだベルの音が鳴る。


光の差し込む森へと駆け出していく少年の背中を、エリアとレオンは並んで見送った。

扉が閉まり、再び店内に静寂が戻る。


「……よかった。ちゃんと笑えるようになって」


「そうだね。エリアが勇気を出してくれたおかげだよ」


「もうっ、レオンさんってば、すぐそうやって褒めるんだから」


エリアは照れくさそうに笑いながら、自分の両手を見つめた。


手袋をしていない、素手。

けれど、以前ほど、自分の力を恐ろしいとは思わなかった。


『――別れの挨拶は済んだか?』


不意に、二人の頭の中に、澄んだ思念の声が響いた。


振り返ると、カウンターの上で黒猫のルナが、静かに尻尾を揺らして二人を見据えていた。

その金色の瞳には、これまで以上に強い意志が宿っていた。


『二人とも、昨日はよくやってくれた。だが、ノクスの脅威はまだ終わったわけではない』


ルナは、店内の奥――昨日開いた『秘密の部屋』の方へ顔を向けた。


『お前たちに、紹介しなければならない者がいる。我についてこい』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ