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10.みんな集合

王都は相変わらずの賑わいを見せていた。


自由を求め、金を求め、様々な夢を持つ者達が押し寄せるのだから、人口過多になる事など容易く予想が出来る。


だが、現在はエマ達が置かれている状況は異常に思えた。


「なんでこんなに遅いのかなぁ?お祭りでもあるの?エマタン」


王都の入り口付近で馬車を止められ、中々移動できない状況下でエマの父であるグレルが欠伸をかみ殺す。


「そんな話は聞いてませんが、確かに遅いですね」


退屈を紛らわせるためにと持ち出した本も王都に入るための待ち時間内に読み終えてしまった。


エマ達が王都に到着したのはもう数時間。


本来であれば、あっさりと入場できるはずなのだが、王都の前では馬車が列を作り、そして一向に進まない。


「これじゃ日が暮れちゃうよ。交渉の時間にも間に合わなくなっちゃう・・・ちょっと君!僕達は歩いて行くから!馬車はよろしくね!」


「は?歩くとは・・って、っわ!!」


考えだしたら即行動のグレルが手荷物とエマの手を取り、勢いよく馬車から飛び出した。


王都まで送ってくれた御者は呆気にとられた様子でこちらを見ており、ぐんぐんと引っ張られていくエマは礼の一つも口にする事が出来なかった。


「っちょ!無理ですよ!皆さん並んでますし!」


「大丈夫、大丈夫。皆も早く入りたいなら馬車の一つや二つ捨てていかないと」


上機嫌な声で直進し続けるグレルには、列をなして順番を待つ馬車が目に入らないらしい。


皆、寛大な人々なのか、それとも徒歩で王都に入る人間などいないのか、誰一人エマ達の行動を咎める者はいなかった。


何台もの馬車を追い越し、王都の入り口へと向かうと、そこにはいつも以上に警戒態勢をとった騎士達が入り口を塞いでいた。


「さすが若き王。以前行った時よりもすっごい警備だねぇ」


グレルが最後に王都に入ったのは前国王が健在の時。


王都を訪れるのは貴族か裕福な商人だけだったため、大した警備も敷かれていなかった。


「いや、これはいつも以上です。王城ならともかく、王都内に入るのにここまで厳重な警備はありませんでした」


そう、以前であれば、積み荷の確認と王都の入場理由を聞かれるのみで、入り口には警備用に1、2名の騎士と物流を管理する管理所の役人しかいなかった。


だが今は数十名の騎士達が王都の入り口を塞ぎ、何やら険しい顔で馬車の人々に話し掛けている。


「やはり様子がおかしいです。一旦馬車に・・・」


「やあ!こんにちは」


異常さを感じ取ったエマは父の手を引き馬車に戻ろうとしたが、肝心の父がいない。


あろうことか、険しい顔の騎士達に明るい挨拶を交わしているところだった。


(あの狐。いつか捌く!)


父の喉元に刃物を向ける想像をしながら、エマはグレルの回収に向かった。


周りを見ると、どうやら手荷物検査というよりも身分の証明を要求されている様だ。


自身の家紋を見せる者や何かが記載された書類。おそらく権利書、もしくは招待状等だろうか。


状況確認を行いながらも父の下へと駆けつけると、


「なぁるほどー!じゃあ、僕達が敵ではありませんって証明できればいいのだね」


さすがと言うべきか、口達者なグレルは険しい顔をしていた騎士と談笑していた。


「そうなんですよ。これは王の命令でして、どうかご協力ください」


「うん。わかった」


それだけ話を聞くとニコニコと微笑みを浮かべ、エマの元へと帰ってくる。


敵ではないなどと、どう証明するのか。


カールソンの家紋を提示した所で証明になるとは思えない。やはり今は王から派遣された馬車に戻り、気長に順番を待つ他ないとエマは踵を返す。


「どこ行くの?」


「理由は知りませんが、私達は『敵ではない』などと証明できる物がありません。まずは馬車に戻りましょう」


話は聞こえていたので問題ないと再び馬車へ戻ろうとするが、なぜかグレルに腕を強く掴まれる。


「なんです?」


振り返ればあの嫌な笑みを見なくてはならないと思い、エマは顔を向けずに尋ねた。


「持ってるでしょ?」


「何も持ってません」


「持ってるよ。エマタンが寝てるとき見たもん」


どうやらこの狐はエマが長旅の最中に居眠りをしている間、勝手に人の荷物を漁っていたらしい。


しかも、それを隠そうともせず、堂々と要求してくるところがエマは気に喰わない。


「証明できるような物など、何も・・・あ」


エマの目の前に、金色に光る物体がぶら下がっていた。


それは以前、ノアがエマを心配するあまり渡してきた呼び笛。


純金で出来たそれは、首に掛けるには重いため鞄の中に入れておいたのだ。


そしてそこには、王家の紋章が刻まれている。


それを目ざとく見つけたグレルが、あの嫌な笑みを浮かべながらブラブラとエマの目の前で揺らしているのだ。


「それは賛成できません。他人からの貰い物ですし、何よりも私達の様な人間が王族の紋章を持っていたら怪しく思われます」


一応抗議はしたものの、人の話を聞かないグレルが耳を傾けるはずもなく。


王家の紋章と彼の話術を武器に、無事王都へと入ることが出来たのだ。





王都の入り口を厳重に警戒しているせいか、王都内はいつもより人が少ない。


だからと言って活気がない訳ではなく、夢と希望を頂いた人々が今日も元気に金を稼いでいた。


そんな活気のある市場から少し抜けると、平民も出入りは出来るが、少々値の張る品を扱う店が並んでいる。


ごちゃごちゃと様々な店が並ぶ市場と比べ、綺麗に整備された街並みは土地価格も高い。


そのため必然的に高級店が並ぶ事となるのだ。


「嬉しいわ!ノア!また一緒にお買い物が出来るなんて!」


嬉々としてノアの腕にしがみつくデイジーは、幸せそうな笑みを浮かべている。


本来であれば貴族との交流は禁じられているのだが、最近のデイジーは勉学に励み、ソフィアの教えを忠実に聞き入れていたため、ソフィアからアーチーへ提案し、ノアとの接触許可を取ったのだ。


さらにはソフィア直々にオリビア妃へ頼み込み、ノアをデイジーの元へ向かわせたのだから、彼女の労力は凄まじい物だっただろう。


だが、そのデイジーへの思いやりは、デイジーに希望を与え、そしてその希望がさらに彼女を苦しめていた。


(お父様は私に頼み事をした。でも本当にそんな事していいの?もし、私が舞踏会でリアムの噂を流したら、お母様やソフィアにも迷惑が掛かるかもしれない)


アーチーがデイジーへ提案した計画は容易い。


デイジーの権力にしがみ付く者達に噂を流すだけなのだ。


だが、今の彼女は以前の様な、『父親の操り人形』ではない。


愛情に飢えていた彼女は『ソフィア』という存在から少しずつ愛を貰い、そこから出来た心の余裕がアーチーの頼み事を判断しようとしている。


「・・・デイジー様?デイジー様、聞いていますか?」


「っ!あ、ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃって・・・なぁに?ノア」


アーチーの計画で頭が一杯のデイジーは、愛おしいノアの声さえも耳には入っていなかった。


気を取り直し満面の笑みで婚約者に笑いかけるが、いつも通りの張り付けた笑みが返ってくる。


「いえ。どちらに向かわれるのですか?宝石店は通り過ぎましたが・・・あれ」


いつもだったら必ず入っていた大好きな宝石店を通り越し、無言で歩くデイジーに疑問を抱いたようだ。


だが、そんな彼の関心もすぐに他へ向いてしまう。


「なぁに?・・・あ」


ノアが向ける視線の先を見ると、そこには、見覚えのある。そして思い出したくもない太々しい顔が。


デイジーを躾と称し乱暴を働き、理不尽な契約を王の前で結ばせた憎々しい女が一人で佇んでいた。




王家から王都民の管理を任されているバートンは、自らも王都へと店を出し、そして繁盛させている様だ。


土地価格が高額な場所に、他店よりも大きな店を構えているのがその証拠だ。


エマを連れバートンの店へと到着したグレルは、エマを一人店の前に残し交渉へと向かった。


王都を出入りする際は、先程使用した金の呼び笛が必要となるらしく、エマはグレルの帰りを待つしかなかったのだ。


(あの狐。笛を売ろうとか言い始めそうだ。念のため首に掛けておこう)


金の呼び笛はグレルを王都から出せば不要になる。


あの強欲な男が純金の笛を易々と手放すとは思えなかった。


以前はエマも領地に戻った際に売り払おうと考えていたが、今はなぜか手放せないでいるのだ。


(首にするか?いや、あいつなら器用に奪っていきそうだ。手首にでも巻いて・・・)


エマが笛の隠し場所を試行錯誤していると、


「何をしているのですか?」


聞き覚えのある凛と通る声が耳に入る。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・人違いです」


熟考した挙句、フードを深々と被りやり過ごす事にした。


もちろん。そんな手は通用せず、無遠慮に被っていたフードを取られてしまう。


「何をしているのですか?カールソン嬢」


そこにいたのは美しい顔と水色の髪を持つ男。


金の呼び笛を渡し、何度もエマを窮地から救い出し、そしてマリアーノ邸や馬小屋で不埒な行為をしようとしてきた男・・・。


「人を待っています」


「人を?こんな場所でですか?」


カールソン領の人間がバートンの店で買い物など出来るはずもないと思っているのか、待ち人が店の中にいるとは考えないらしい。


「あの、お二人の仲を邪魔したくはありませんので、私の事は放って置いて頂けますか?」


ちらりとノアの隣を見ると、桃色の髪をした女の子が半歩引いてこちらを睨みつけていた。


(この人も騎士だ。もし父が指名手配犯にでもなってたら、会わせるのはまずい)


グレルが王都で起こした犯罪がどのように騎士達の中で知れ渡っているか把握できないエマは、ノアに対して警戒心を高めている。


さらには厄介な人物、デイジー・マリアーノまでいるとなれば、関りなど持ちたくはない。


「いえ。一体だれを何故待っているのか把握してから帰ります」


(なぜ!?)


何を勘違いしたのか、半眼でこちらを怪しんでくるノアがその場に居座り始めた。


その反応にデイジーも驚いたらしく、狼狽えてはいるが決して割って入ろうとはしない。


以前よりも大人しくなったデイジーの存在も気になったが、それ以上にこの場を早々に切り上げたい気持ちが勝った。


「か、買い物です!」


「はい?」


「私はこの店で買う物があるのです!それでは!失礼します!」


とにかく彼らから距離を取ろうと、バートンの店の扉を開こうとしたところ、


ッガン!


「いやぁ、遅くなったねぇエマタン。それじゃあ帰ろうかぁ・・・って、え!?エマタン!?頭ぶつけたの!?」


タイミング悪く登場した狐男にその機会を奪われた。


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