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4.花街

面白味もない田舎町。


カールソン領をそう称する者は多い。


何処までも続く農地や季節ごとに色を変える自然の豊かさをこよなく愛する人間でない限り、王都から丸一日掛かるカールソン領にわざわざ足を運ぶ者はいない。


人々の関心は煌びやかな洋服や高級な宝石などに注がれているのだから。


だが、殆どの人間は本当のカールソン領の魅力を知らない。


それはカールソン領が抱える莫大な労働力や王家にも気に入られる程の良品質な作物たち。


ではない。


男の欲と夢が詰め込まれた理想郷。


規制の厳しい王都では実現不可能な花街の存在を知る人間は、口を揃えて言うのだ。


カールソン領にこそ『神の国』がある!っと。




(連れて来いとは言われたが)


真昼間であるにも関わらず花街は賑わいを見せていた。


父の言う『衰退』の影すら見えない街並みは、貢献などしなくとも十分潤っているように思える。


カールソン領であるとは言え、花街に足を踏み入れた事のないエマは、見慣れない光景に少々戸惑っていた。


王都の表通りでさえ、ここまで贅を尽くしていただろうか。


真っ白な壁に金の装飾が施された建物が建ち並び、至る所に美しい生花が飾られていた。


5,6階はある建物の窓辺からは胸元の大きく開いた服を身に纏い、柔らかな笑みで男達に手を振る女達の姿が見られる。


飾られた花々と女達から香る甘い匂いに包まれ、なぜか街の中に響く小鳥のさえずりを耳にすれば、そこは男達にとって『神の国』となるのだ。


先ほどから窓辺から手を振る女達に見とれて歩く男達の顔を確認しているが、目的の人物には中々見つからない。


人通りが多いうえに建物の中に入られては見つけようもないのだ。


(仕方ない。虱潰しに聞いていくか)


これでは埒が明かないため、手当たり次第に娼館を尋ねて回ろうと踵を返す。


「っうわ!」


「あ、すみません」


急に方向転換したエマと上方しか目に映っていなかった男が衝突した。


先程まで窓辺の美女に魅了されていた男がエマによって至福の時間を遮られたため、顔が不機嫌に歪んでいく。


「ガキが!こんな所でなにしてやがる!」


エマの幼児体系を目にした男達は、瞬時に彼女を子ども扱いする。見慣れた光景であるため咎めはしないが、やはり不愉快である事に変わりはない。


「申し訳ありません。直ぐに帰りますので・・・・・・あの・・・?」


無意味な小競り合いはごめんだと男の横をすり抜けようとすると、男はエマの細い腕を取り行く手を阻む。


平凡な容姿の男で基本は根のよさそうな顔をしているのだが、女で溢れかえる花街を前に気が大きくなっているのだろう。


エマの腕を掴みながら舐めるように全身を見ると、不遜な態度で言い放つ。


「まあ、今日はお前くらいでいいだろう。いくらだ?」


「は?」


「だから、いくらだ?さっきの謝罪も込めてまけてくれよな」


どうやらエマが大人の女性である事を把握した男は、娼婦だと勘違いをしている様だ。


『どうせ売れ残っているのだろう?』と上から目線で見てくる男は自信満々な様子で財布を取り出している。


「・・・・いえ。結構です。先を急ぎますから」


「っな!!?いいからいくらだ!?どうせお前みたいな貧相な女など早々に売れないのだろう?俺が同情して買ってやるって言ってるのだよ!!」


断られるなどと想定していない男はひどくプライドを傷つけられた様子だ。顔を真っ赤に染め、街中に響き渡る声でエマを怒鳴りつける。


その怒号に娼婦を見上げていた男達も足を止め、何事かと注目が集まり始めた。


「いえ、ですから私は」


「値段をいえ!!」


人々の注目の中、女に振られるなどという醜態を晒したくない男が語気を強めエマに迫る。


(取り敢えず急所を突いて逃げるか)


興奮する男に反して冷静なエマが拳を固めようとした時、


「っうわ!!なんだ!?」


男がエマから手を離し、頭を擦っていた。


ッチリーン・・・・


「・・・硬貨?」


男の頭に当たり、地面へと落ちたそれは一枚の硬貨だった。


「お兄さん。金なんて要らないから帰りなよ」


「っな!?」


声の先に目をやると、先ほどの窓から美しい微笑を見せていた娼婦が厳しい視線で男を睨みつけている。


ッチリーン・・・・ッチリーン・・・・ッチリーン・・・・


「っうわ!いたたたた!!」


「花街には腐るほど金があるのだよ」


辺りを見れば窓から身を投げ出し、男を目掛けて硬貨を投げつける娼婦達と、その光景は珍しくもないのか、面白そうに見物する男達の姿が見える。


「女を抱きたいなら頭地面に擦り付けて懇願しな!」


娼婦達が投げる硬貨は見事に男の頭に命中し、男は逃げるように花街を追いやられていく。


情けない男の背中と何処までも続く硬貨の音が過ぎ去り、町は先ほどの華やかさを取り戻す。


何事もなかった様に女達は微笑を作り、男達は鼻の下を伸ばしながらゆったりと街を闊歩するのだ。






(カールソン領はどの町でも女が強いな・・・)


娼婦に救われたエマだったが、当初の目的である兄弟探しは完了していない。


帰るわけにもいかず、鼻の下を伸ばした男達を避けながら娼館の入り口を探しているのだが、一向に扉が見つからないのだ。


(どうやって客を受け入れてるのだ?)


まさか梯子を使って窓から入るとは思えないが、男達のいる通りから女達が顔をのぞかせる窓への移動手段が不明である。


娼館の入り口を探せないエマが、通りの邪魔にならないようにと白壁に背中を預けていると、


「さっきは嫌な奴に絡まれたね」


どこからか女性の声がした。


「あの、一体どこから?」


辺りを見渡しても女性の姿は見えない。試しに上へと視線を移動させたが、こちらに注視する者は見当たらなかった。


「こっち」


「はい?」


再度辺りを見渡すが、やはり女の姿は見えない。


「もっと下だ。こっちだよ」


「下って・・・っえ!?」


言葉の通り視線を下げると、いつの間にか白壁に真四角の小窓が出現しており、そこから女の白く美しい手が手招きしている。


「野郎に入られても面倒だから、早く入っておいで」


野郎とは通りを歩く男達の事だろうが、窓辺の美女たちに夢中な男達はこちらを見向きもしていない。


「し、失礼します」


怪しい誘いではあったが、やっと巡り合えたチャンスを逃したくないとエマは背を屈め女の誘いを受けいれる事にした。


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