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25.待ち望んだ過失

オリビア自身、表通りに足を踏み入れるのは抵抗があった。


幼い頃から『平民』であるために差別を受け、金を持っているにも関わらず商人から蔑まれる父の背中を見てきたからだ。


自身が持っている中で一番清潔なローブを身に纏い、つけ込まれないためにも背筋を伸ばし堂々と歩くのだが、それでもすれ違う人間の視線は冷たい。


それでもオリビアは歩みを止めるわけにはいかない。


教会で保管していたロウソクが底をついてしまったからだ。


冬場は余りを火を使いたくはないのだが、冬の日の入りは早く明かりを照らすためにもロウソクが必須となるのだ。


殆ど自給自足の生活をしているのだが植物の種であったり、病人が出た時の薬であったりとどうしても金が必要になるときはある。


そのためにも、修道女達は教会が閉まる夜を利用して商人達から依頼される仕事をこなしているのだ。


払われる給金は微々たるもので、全員で力を合わせても冬を越せる薪すら手に入らない程少ないがそれ以外に金を手に入れる手段がない。


ロウソクの小さな灯りで暖を取りながらコツコツと皆で貯めてきたお金を握りしめ、オリビアは目的の店へと向かった。





(前回よりも高かった。店主は需要が高いと言っていたけれど、本当かしら)


買い物を終えたオリビアは、ロウソクが入った袋を手に持ち深い溜息を吐く。


渡した金では十分な量を買うことが出来ず、迷惑がる店主から提供された分のロウソクしか手に入れることが出来なかった。


店主の言葉が事実であるのか、それとも貧困街に暮らす人間への嫌がらせなのか、真意が分からないオリビアは行きよりも頼りない足取りで帰路に付いていた。


(これでは足りないわ。倉庫にある薪を使おうかしら、でもあれがないと芋を煮る事が出来なくなる。可能性は少ないけれど、イザベラ様に便りを出して・・・)


今後の事を考えながら歩みを進めていると、


「一体何するんだい!!」


教会の方から女の金切り声が響いた。


恐らく修道女の一人だと思われるが、荒くれ者の対応に慣れている彼女達が切迫した声を上げるとは珍しい。


仲間の危機を感じ取ったオリビアは声のする方へと駆け出した。


「何って、こちらのセリフですよ?こんな怪しい物を一体どちらから手に入れたのです?」


そこには、教会の様子を観察していた男二人組と彼らを憎しみのこもった目で睨みつける修道女が対立していた。


一人の男は先日業者から仕入れた『さつまいも』を手にしている。


周辺を見回すといくつもの『さつまいも』が散乱しており、それが入れられていたであろう籠も空の状態で転がっていた。


「何をされているのですか?」


薄々と状況を把握しながらも冷静な声でオリビアが男達に声を掛ける。


オリビアの存在を認知した修道女は安心した様子で肩を下ろしたが、二人の男は怪し気な光を目に宿し笑みを浮かべている。


まるで目的の獲物が現れた様な反応だ。


「何って、この方が怪しい物を手にしていたので取り締まっていただけですよ」


そう言う男は興味なさそうにさつまいもを地面へ放り投げるとオリビアの方へ一歩近づく。


男の話し方や身なりからして貧困街の者ではないと判断できるが、彼らの正体が分からない以上、オリビアは下手に口を開かない。


無言でこちらを観察するオリビアに眉を顰めながら、男は話を続けた。


「私達は国王様から命を受けた騎士です。この教会で何やら怪しい動きがあると方向を受けやって参りました」


いつもはローブで隠されていたので気が付かなかったが、男達の腰には立派な剣が差されいた。


己の身分を明かすと同時に脅迫の意味も込めて見せているのだろうとオリビアは思った。


(業者が『さつまいも』を持って来たのはこの男達が来る前。きっと取っ掛かりは何でも良かったのでしょう)


自分達からは一切こちらに接触をしてこず、ずっとこの教会の過失を探していたのだ。


(だけど、目的は・・・?)


男達が何を求めているのか分からないオリビアは、事を荒立てない様に穏やかな口調で語り掛ける。


「何かの間違いです。これは業者から先日仕入れた『さつまいも』と呼ばれる食料ですよ。怪しいと思われるのでしたら、こちらを幾つか王城へ持ち帰って頂いても構いません」


地面に落ちてしまった『さつまいも』を拾い上げ、土を軽く払うと、男達へと差し出した。


貴重な食料を渡したくない気持ちはあったが、国王の使いと対立する訳にはいかない。


オリビアの手にある細長い芋をじっと見つめると、男はオリビアの細く白い手首を強引に掴んだ。


「な、何を!?」


「貴方もご同行願えますか?こちらの責任者は貴方なのでしょう?」


男は『さつまいも』に目もくれず、オリビアの体を強引に引き寄せる。


「何をするのよ!!」


見かねた修道女が金切り声を上げ止めに入るがもう一人の男に止められてしまう。


「ですから、私達は国王様の命に従っているまでです。それとも貴方は王に背くとでも?」


(もしかして、これが目的?)


国王の名を出され戸惑う修道女の顔を見て、オリビアは男達の目的が自身だという事に気が付いた。


あえて教会の過失を見つけ出そうと時間を掛けたのは、この教会の責任者であるオリビアを教会から引っ張り出すための理由作り。


理由もなくオリビアを連れ出そうとすれば教会の人間から非難を受けるだろう。


平民の言葉など権力を持つ者には意味のない事だが、教会にはイザベラの様な貴族の信徒もいる。


だからこそ彼らは貴族達にも言い訳が付く理由を欲しがっていたのだ。


「は、離してください!」


理由もわからず王城へ連れ去られる恐怖とここで国王の騎士に反抗した際に受ける報復への不安とが入交り、オリビアから混乱した声が漏れる。


ただ理解不能な状況の中、オリビアには一つの確信があった。


きっとここで連れて行かれたら二度とここには戻ってこれないと、そう強く感じたのだ。


頭が混乱しながら悲痛な表情を浮かべるオリビアを強引に騎士が連れ出そうとした時。


「何をしている!!」


聞き覚えのある凛と通る声がオリビアの耳に入る。


それは自分が追い出してしまった心の優しい青年であり、そして、唯一この場で男達を制止できる存在。


「リ、リアム王子!?」


数カ月ぶりに合うリアムの姿を目にした途端、堪えていた涙がオリビアの頬を伝った。


冬を越すための金が足りない事や理由もわからず王城へ連れて行かれそうな事。


表通りを歩く人々のゴミ屑を見る目や、金を払った店主の物乞いを相手にする様な対応など、零れだす涙には沢山の理由があったが、その中でも一番は、


『ただ、会いたかった』という気持ちだった。


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