表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/123

5.目を奪われて

ノロノロ更新で申し訳ありません^^

誤字脱字報告ありがとうございます!!

実質の当主であるイザベラの帰還に加え、ノアとその父親の急な訪問により屋敷内は慌ただしい雰囲気に包まれていた。


「次はこれね!東にあるお部屋へ飾ってきて!」


侍女として認識されたエマは先程から洗濯、掃除、荷物運びなど様々な仕事を任されていた。


新人として挨拶したのが間違いだったのか、作業を終えて姿を隠そうとすると必ず先程の侍女に捕まり、次の作業を任されてしまう。


基本的にカールソン領では侍女を持たず、家の事は全て家の者で行っていたため作業的には問題がないのだが、早々に戻らねばエマが不在であることがイザベラへ知られてしまう。


それに未だにエミリアへ持っていく薬も手に入っていなかった。


押し付けられた花瓶を手に、どうしたものかと考え事をしていると廊下の先から話し声が聞こえた。


「しかしここは中々侍女に出会わないね」


「彼女達も忙しいのだろう」


声が徐々に近づいてくるのだが、隠れるべきなのか遭遇して頭を下げるべきなのかが判断できない。


(逃げるのは失礼だよな?)


そう思い、廊下の端で待機していると彼らの声は段々と明瞭に聞こえてくる。


「はは、忙しいのは君だろ、イザベラ」


エマは瞬時に隠れるという選択へ変更した。が、隠れる場所が見つからない。


部屋は無数にあるが、エマは今花瓶を抱えているのだ。


(置いて逃げるか?いや、ばれるだろ)


イザベラの存在と腕に抱えた厄介物の存在をどう処理すれば良いか瞬時の判断が出来ず、思考が纏まらない。


そうこうしている内に声はどんどん近づき、曲がり角から女性の物と思われる靴の先端が見えた。


「それが私の日常だ。時々貴方が羨ましくなるよ」


「はは、相変わらず辛らつだね~」


楽しそうに繰り広げられる話し声が徐々に通り過ぎていく。


イザベラともう一人の男が誰なのか確認は出来なかったが、恐らく侍女が話していたノアの父親なのだろう。


そして、息子の方は・・・


「一体、何をしているのです?」


エマの口を押え恐ろしい剣幕で彼女に詰め寄っている最中だった。




「それで、精神安定剤を手に入れるために侍女に扮装した・・・と」


リアム王やノアが怒るとなぜ恐ろしいのか、エマは何となく理由が見えてきた。


その権威の高さからもあるが、両者とも容姿端麗であり、その美しさは良くも悪くも人の心を動かすらしい。


エマの説明に納得したのか言い訳に取ったのか分からないノアの顔は、怒りから見覚えのある呆れ顔へと変化していた。


「薬は私が持っていきます。貴方は服を早急に着替え、部屋に戻って下さい。大体その服はどうしたのですか?」


嘘を付こうかと思ったが、今更嘘を吐く無意味だと考えたエマは、服を手に入れた経緯をノアに話した。


上手くいけばノアが侍女に服を返してくれるかもしれないと一筋の希望を含んで話したのだが、失敗だった。


「何を考えているのです!?」


「お、お静かに・・・」


不機嫌なノアの口を今度はエマが塞ぐことになってしまった。


ノアに連れ込まれた部屋はあまり広くはない応接間で、ドアを挟んでいるとはいえ外に聞こえてしまう可能性がある。


(これだから隠密行動が出来ない奴は)


状況を考えずに大声を出したノアへ悪態をつきながら、大人しくなったノアの口から手を離した。


「アーチー様は女性との噂が絶えない不埒者です。もしもの事は考えなかったのですか?」


婚約者の父親を『不埒者』呼ばわりするノアもどうかと思ったが、彼の怒りを増幅させそうなのでエマは心の内に留めた。


「不埒者でも選り好みはなさるでしょう。私の様な貧弱な体はお好きではないと思いますが」


そう言うとエマは、胸元を指し、着ている服の胸部が合っていない事を示す。ノアも思わず胸元へと視線を落とすが、はっと我に返り素早く顔ごと目線を逸らした。


(そこまで拒絶しなくとも)


拒絶の姿勢を見せたノアが横を向いたまま黙り込んでしまったため、エマは更なる説得を試みる。


「それにもし変わった趣向をお持ちの方でも払い除けるくらいの事はできます」


日々肉体労働に明け暮れるエマにとって、身の回りの事は従者に任せ、仕事は妻へ丸投げし、体を動かすと言えば己の欲望を満たすためだけの男など急所を突いて逃げれば問題ない。


実際、カールソン領でも屈強な男どもの脛や腹、時には絶対に触れてはならない急所を蹴り上げて危機を脱した事もある。


「・・・では、払い除けてみてください」


そう言うとノアは、片手でエマの両手を頭上へ拘束し、もう片方の手で顔が動かない様に頭を掴み固定した。


なかなか真実を吐こうとしない罪人に対しよくノアが使う手で、実際は両手を鎖に繋いで頭上で拘束し、さらに無防備な相手の首を掴んで恐怖を与えながら詰問するのがいつものスタイルだ。


「あ、貴方は騎士ではないですか!?」


戦闘用に鍛え上げている人間は対象外だと訴えながら拘束を解こうとするが、エマの腕も顔も全く身動きが取れない。


拘束している本人はエマの抵抗など全く気にならない様子で、身動きが取れずじたばたと足を動かすエマの様子を愉快そうな表情で見ていた。


「お静かに」


先程受けた注意をそのまま返すノアの顔は『私が正しいでしょ?』と言わんばかりの勝者の顔になっていた。


(ねっちこい!!)


勝ち誇ったノアの顔を見るに堪えなくなったエマは、抵抗する動きを止め瞼を閉じた。


『貴方が正しい』と認めれば解放してくれるのだろうが、最初から勝負にならない戦いに無理やり参戦させられた悔しさにより、その言葉を口にする事がエマには出来なかった。ならばせめて態度で示そうと猛獣に捕えられた獲物の如く体を脱力させた。


しかし、一向に体は解放されず、不思議に思ったエマがうっすら目を開けると真剣な眼差しをしたノアの顔がそこにはあった。


すっかり開いてしまった瞳とノアの視線がぶつかり合い、そして少しずつ美しい顔が近づいてくる。


(きれいだ)


段々と青い瞳が瞼に隠される光景に目を奪われたエマは、ただぼんやりと、それを受け入れようとしていた。




ッガシャーン!!!


「だからどこにいるって聞いてるの!!!」


「っきゃああ!!」


何かが割れる音と共に叫び声が響き渡る。


「泣いてる場合じゃないでしょ?ノアが来てるなら会わせなさいよ!貴方まで彼と私の仲を割く気なの!?」


怒号を飛ばしているのは我儘姫デイジーの様で、屋敷内にいるはずのノアの姿が見当たらず、運悪く出くわしてしまった侍女へ八つ当たりしている様子だった。


「そ、そのような事は!?ただ、婚約者様の居場所は私には・・・っああ!!」


デイジーは怯える侍女の髪を乱暴につかみ上げ、すでに痣が出来ている顔へ拳を振り上げた。


ッパシ!


「デイジー様。おやめください」


振り上げられた拳は侍女に当たる事はなく、間一髪で現れたノアによって阻止された。


「ノア!」


先程まで恐ろしい形相だったデイジーが婚約者の存在を目にした途端、花の様な可愛らしい笑顔へと変わる。


しかし、彼女の乱暴の痕跡は無残にも残っており、割られた花瓶に幾度か殴られた痕のある侍女がそれを物語っていた。


デイジーは嬉しそうにノアへと駆け寄り険しい表情の彼へ抱き着く。


デイジーの抱擁を受け入れたノアは、背後に控える侍女へと目配せを送り、この場を立ち去る様に指示を出した。


「ねぇ、ノア。ずっと会えなくてディ寂しかったよ」


王宮での事件以来デイジーとは会っていない。


基本的にデイジーが王宮に来ない限り、彼女と接触する機会ない。マリアーノ邸へ来たのもデイジーが婚約者となり、正式な挨拶をする際に訪れただけで、それ以降はこの屋敷に寄り付くこともなかった。


しかし、平和な日々を過ごしていたノアとは反して、デイジーの怒りは屋敷内で爆発していたらしく、それらは屋敷の者達へ多大なる被害を与えていた様だ。


「屋敷の者へ手を上げるのはお止めください」


「え~、だってノアと会えなくて寂しかったのよ」


言い訳にならない返答をするデイジーにとって先程の侍女など過去の話、今は目の前のノアに可愛がってもらう事しか眼中になかった。


いつもなら拒絶される抱擁を許してもらえたデイジーは、小さな腕をノアの背中へ回し、自信があるのか胸をわざとらしく押し付ける。


「デイジー様、話をお聞きください」


しかし、精一杯誘惑しているにも関わらずノアの反応は変わらない。先程から従者の事に関して真剣な表情で話すのみだ。


期待通りの反応を示さない婚約者に苛立ったデイジーは、最大限つま先を立たせて顔を近づけた。


「じゃあノアがキスしてくれたら止めるわ」


「いけません、この様なところで」


デイジーの可愛らしい提案は、先程まで許されていた抱擁すら拒絶される結果となった。


無抵抗な相手を殴りつける力はあるが、騎士の制止を払い除ける程ではないデイジーは両肩を掴まれ身動きが取れなくなってしまう。


「もう!なんでよ!私達婚約者なのに一度もキスした事ないなんて変よ!!」


デイジーの言う通り、婚約段階でも手を握り、抱擁しあい、口づけをする事など当たり前だ。それ以上の行為は互いの親密度によるが、婚姻を結ぶ間に互いの愛を深めあう行為は行われるのが当然だ。


「まだデイジー様は幼すぎます。どうかもう少し大人になられるまで・・・」


「そればっかり!もういい!」


幾度となく拒否されてきたのだろうか、ノアが優しく説得をし始めた途端にデイジーの怒りは爆発した。


しかしその怒りを鎮めてくれる侍女はおらず、だからと言ってノアに当たることも出来ないデイジーは先程ノアが出て来た部屋へと駆け込むことにした。


「デイジー様!!」


だが、ドアノブに手を掛けた途端、強い力で体が引き寄せられる。


「ノ、ノア?」


初めての婚約者からの抱擁に鼓動が凄まじい速度で高まっていく。


ノアの顔を見る事は出来ないが、確かに背後で自身の腰へと手を回し、耳元で囁いてくれるのだ。


「もう少しだけ待ってください。私が覚悟できるまで、もう少しだけ・・・」


その言葉が女性に口付けをする覚悟なのか、厄介なデイジーを婚約者として受け入れる覚悟なのかノアの言葉は判然としないが、自己愛の強いデイジーは自身の婚約者を初々しいと捉えた様だ。


「うん、いいよ。っくす。ノア可愛い!」


そう言うと耳元で囁くノアの顔に自身の頬を摺り寄せるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ