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22.策士達

知っているのだ、この若き王は。


エマが社交界などには一切関心を持たず、その中で流れる噂など耳に入ってこない事を。


そして知っていたのだ。


マリアーノ家の女主人。イザベラ・マリアーノが『家族』に最も重きを置いている事を。



(知っていて『償い』を了承したのか・・・やられた!!)


すまし顔のリアム王は怒りに震えるエマなど見えていない様子で優雅に紅茶を嗜んでいた。


だからエミリアは必要以上に怯えていたのだ。


社交界に対して共に疎いアイラも知らなかったのだろう。マリアーノのご息女を敵に回せば、それはイコール、マリアーノ家を敵に回す事など。


「さすがに、荷が重いです。王族の争いに巻き込まれれば私など生きて帰れるとは思えません。どうか国王様から私が反省している事をお伝えいただけませんか?」


シクシクと痛む胃を押さえながらも振り絞るように抗議の声を上げる。


『躾』を行ったのはエマだが、それを了承し傍観したのは王だ。その時、王が自ら暴力行為を止め、自身の側室を咎めていればマリアーノ家を敵に回す事はなかっただろう。


だがそれが叶わぬ今、王自ら『令嬢が反省している事』と『令嬢は王城内で罰する事』を表明してもらう必要がある。


ここで抵抗しなくては、この厄介事は必ず『自身に牙を剥く』と、無礼を承知で王へ反抗の態度を見せた。


「はは!何を言っているカールソン嬢。其方ほど豪胆で逞しい令嬢を見た事はない。我らが屍になろうと其方だけは無傷で領地に戻りそうだ」


愉快な声を上げ、褒めているつもりかエマの発言を冗談で受け流そうとしているのか、悲痛な叫びは受け取っては貰えなかった。


「いいえ。それでも私はただの領主の娘です。私の命を奪う事などマリアーノ家を目の前にすれば花を手折る程に容易いでしょう。どうかお考え直し下さい」


あの傲慢で暴力的なデイジーの母親の事だ。


難癖をつけて公開処刑か、暗殺者を雇って秘密裏に処理をするのか。どちらにしても話し合いの余地なく殺しに掛かるのだろう。


王の裁きを受けた者にそれ以上の罰を与える事は出来ない。王宮内でエマに罰を与えれば、マリアーノ家も容易には手出しできない上に、彼らに対して謝罪の姿勢を見せることも出来る。


しかしリアム王はわざと罰を与えず、その不条理な状況をイザベラに突きつける事で女狐を戦いの舞台へ引きずり出そうとしていた。


(なぜそんな遠回りな事を、利用されてたまるか!)


過去のイザベラと王との抗争を知らないエマは、頭をフル回転させて争いの火種となる事を断り続ける。


実は今回の事件がショックで眠れぬ日々を送っているとか、王族を怒らせたと知れれば厳格な父に離縁されてしまうとか、カールソン領は軍に匹敵する程の強靭な男共の集まりで、領主の令嬢である自分に何かあれば反乱が起きる可能性があるなど、ぎりぎりの嘘まで吐いても王の態度は変わらなかった。


「其方の言い分はわかった。だが我がローゼンタールは全力でお前を警護する。みずみず殺させはしない。それに、其方は私の側室であろう?王の利となるため尽くすのも側室の立派な務めだぞ?」


(側室など名ばかりのくせに!!)


側室の大きな役割である行為を致す事もなく、その地位だけを主張する王に思わず突っ込みを入れそうになる。


予期せぬ出来事に頭をフル回転させ続け疲労しきった脳では、目の前の謀略家を倒す事は出来ないと悟ったエマは、痛みを発し続ける胃を押さえ項垂れる。


「まぁそう落胆するな。何事も経験だ。それにタダとは言わん」


「へ?」


報酬がもらえる?と俯いていた顔を輝かせながら勢いよく上げる。


「あ、ああ。其方が望むものを与えよう。金でも権力でも、商売の権限でも構わん」


エマの代わり様に再び引き気味の王からは、一生に一度もないであろう王族の、且つ限度なしの報酬を与えると提案された。


金ならばいくらが妥当なのか?


商売の権限は独占的な契約でも結べるのか?


胸を高鳴らせながら思考を巡らせていたが、はっと我に返り神妙な面持ちで顎に手を当てた。


(冷静になりなさいエマ・カールソン。目の前の人間は知略と統率力を用いて実の父を亡き者にした残虐王。その人物に多大な報酬を頂くという事は自身の利となるか?むしろ足枷でしかない!!)


よだれが出そうな報酬は、求める物によって自身の利とも害ともなると判断したエマは、再び頭を冷静に戻した。


今の現状に適当と思える報酬。形に残らず、王が後々それを餌に自分を脅すことが出来ない報酬を見つけるため疲れた脳を回し始める。


せめてご令嬢や王妃様との茶会の様に甘い菓子が用意されていれば栄養補給できたのだが、むしろそれすら戦略の内なのではと思うと益々慎重にならざるを得ない。


「では・・・教えて頂きたいことがあります」


すっと視線を上げ、顎に添えていた手を膝の上に置き真っすぐ若き王を見つめる。


「ほお。情報を望むか。・・・いいだろう。何が知りたい?」


覚悟を含んだエマの視線に一度考える姿勢を取ったリアム王だったが、同様に覚悟を決めた顔つきで真摯に向き合った。


王族が持つ情報は札束の山よりも価値がある。物によっては墓まで持ち帰る覚悟が必要な情報もあるため、エマが何を質問するのか後ろに控えるノアも緊張した面持ちで言葉を待つ。


「はい。国王様はなぜご令嬢を集めたのですか?」


それは王妃にも聞いた質問。


国にとっては大した情報にはならないかもしれない。だが、王城で人生が狂わされそうなエマにとっては宝の山よりも欲しい情報だった。

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