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20.企て

イザベラ・マリアーノを処分出来なかった理由は、王族、貴族問わないその人脈の広さにあったが、それ以上に若き王を悩ませたのは、彼女の定まらない思想だった。


前国王の様に贅を尽くし、民を差別的な扱いをしていた訳ではないが、王の傍若無人な行動を止める事もなかった。


国の政策に目立った介入を見せないものの、彼女が一度敵だと判断した人間はその立場問わず秘密裏に処理されその四肢を自身の庭にばら撒き、庭の肥料にするという残虐性を兼ね備えている。


民を思いやる事もひれ伏させる事もしない彼女は、リアム王にとって敵とも味方とも取れない扱いにくい存在だった。



「いやぁ、面白いものを見たなぁ」


大量の書類が積み重ねられた執務室にリアム王の豪快な笑い声が広がる。


いつもなら、息つく暇もなく仕事を携えた役人達が部屋を訪れ王の指示を求めに来るのだが、今は人払いをしているためノアとリアム王の二人きりだ。


「笑い事ではありません。デイジー様の行動も難がありますが、カールソン嬢の人心掌握術は目に余るものがあります」


ため息まじりに王の目の前に腰を下ろす専属騎士は、足を組み傲慢とも捉えられ態度で苦言を呈す。


エマの策略により、デイジーを王城から追い出す事は出来たが、あからさまに『償い』を目当てにしたエマの行動はノアの顔を曇らせた。


「確かにカールソン嬢は賢い。あの話術を悪用すれば国の脅威となりえるが、彼女の目当ては領地の利益のためと一貫している」


デイジーの償い、エミリアが起こした王家に対する侮辱罪への賠償と、聡いリアム王にはエマの取る策略がエマ自身のためだと気付いていた。


しかし、その目的は決して悪とは思えず、むしろ家族や領民を思う行動に好感すら持っている。


「っしかし!」


「それに、今回のカールソン嬢の『償い』は、我々にとっても好都合だ」


「…どういう事でしょうか?」


机に肘を突き、顔の前で手を組むリアム王の口元には不穏な空気を孕んだ笑みが湛えられている。


不吉な予感がしたノアは、嫌そうに眉を寄せながら話の続きを促した。


「カールソン嬢は今回の件を『デイジー嬢のみ』に留まらせるつもりの様だが、イザベラは家族が受けた屈辱を決して見逃さない」


今回の償いは『デイジーの資金と権力』を使用して行われたため、個人の償いがマリアーノ家全体を巻き込むものだとエマは知らない。


むしろ、償いを要求する令嬢達には、事前にその内容を教えてもらい、王族の娘個人が対応出来る事柄か事前に確認する程、細心の注意を払っていた。


「あの方を巻き込むのですか?」


「俺はあの女狐を処分するためなら何でも利用する考えだ」


デイジーとノアとの婚約を結び、表面上はいい関係を取り繕っていたが、その関係もエマの策略でヒビが入った。


「ノア、以前とは状況が違う。前国王を支持する者達はその影を潜め、我らの味方と呼べる者達が増えている。それに今回はマリアーノ家のご令嬢がきっかけで起こった諍いだ。奴らが必死で隠していた御息女の傍若無人な振る舞い、先日お前たちが制圧した賊との関り、王族間の不評を買うには十分な材料が揃っている」


依然として釈然としない表情のノアに対して、リアム王は勝算がある事を伝え、争う姿勢を崩さない。


「…せめて、巻き込まれるカールソン嬢に多少の説明をして上げて下さい」


いつもなら主人の考えに従順な目の前の騎士が、頑なに自分が語る策に乗らない姿勢が不思議に思えた。


「!!…あ、ああ。わかった」


前国王を討伐すると決めた時も、デイジーを婚約者にさせた時も、決して拒む事なく従ってきたノアが、主人である王に対して忠告をする事などなかった。


だからこそリアム王は驚きの表情を隠せず、瞠目したまた口を開いてしまう。


しばらく戸惑いの表情を浮かべていた王だが、はっと閃いた後にニヤニヤと含みのある笑みをノアへと向けた。


「…何を勘違いされているか知りませんが、他意はありませんよ?彼女は頭が切れるので放っておけば何を企てるか分かりません。放置するよりも意思疎通を図って味方に付けた方がよいと思ったので提案したまでです」


揶揄する雰囲気の王に対し、いつも通りの凛とした態度で誤解を解く。


いつもと変わらぬノアの反応に、王の表情が詰まらなそうものへと変わる。


「お前な、そーゆう態度気をつけろよ?」


「何か失礼がありましたか?」


半眼で睨むリアム王に対し、先程の会話を頭で反芻するノアが疑問の表情で問う。


カールソン嬢を特別扱いする態度に勘違いしてしまったのは自分自身だ。


気を付けろとは言ったものの、自身の浮ついた思考が招いた勘違いに対し、八つ当たりとも取れる発言をしてしまったため、思わず言葉が詰まる。


「…だから!お前はカールソン嬢と距離が近すぎる!令嬢とは適度な距離を取れ!」


長すぎる沈黙に口を開けようとしたノアを制すため、若き王は心にもない命令を下したのだった。

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