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18.躾

エマに続き無礼な態度を取るアイラの登場に、デイジーは今更ながら自身に味方がいない事に気がつく。


殴られた鼻からは手で押さえきれない鮮血が垂れているというのに、侍女どころか自身の婚約者すら手を差し伸べようとしないのだ。


その異常な状況を目の前のエマが作っている事を恐ろしく感じながらも、王族であるプライドを奮い立たせ真っ向から糾弾する。


「嵩にですって?貴方達は何も理解していないのね!王家がどれだけ偉大で絶対的な存在かを!何百年と続く歴史の中で国を治めた高貴な血筋を私は受け継いでいるのよ?つまり生きているだけで価値があるのよ!税を納めなければ価値を見出されない貴方達と違ってね!」


自身のハンカチを鼻に当て、整えられていた桃色の髪を振り乱しながらエマ達へと詰め寄る。


きっと今までそう言い聞かされて育ってきたのだろう。


『私達は他の人間よりも偉い』


『私達には存在するだけで人を服従させる権利がある』


だからこそ前国王は平民を奴隷扱いし、リアム王は令嬢の首を刎ねることに躊躇がない。


目の前で喚くデイジーだけではない。


王族という生き物は常々傲慢で自身の欲望や理想に貪欲になれるのだ。


しかし、その分かりやすい欲は泥臭い汗をかき、決して生き易くない環境で育った人間に容易く利用されてしまう。


そう例えば、


女の身でありながら屈強な男達に囲まれ、弱音一つ溢すこ事の出来ない環境で育った令嬢に。


生まれた土地が貧困であったがために、空腹や疲労に負ける事が許されない過酷な環境で育った令嬢に・・・だ。


「まあ、私達は税を納めなければ価値がないのですって」


困った様に口元へ手を当て、淑女さながらの動作で大袈裟に驚いた振りをするエマの瞳はさらに冷たさを増す。


「あら、でしたら税を納めて貰えない王族は生きる価値を持ちながら死んでいくのですね。不思議です〜」


アイラは淑女というよりもお馬鹿な令嬢役として参戦する様で、あれ〜?と指先を頭に当て不思議そうな表現を見せた。


王族への侮辱的な発言ではあったが、その場を見守る王や王妃が口を挟む事はない。


「な!?」


二人の挑発的な態度に目を釣り上げるが、半ば正論を述べているためすぐには言葉が見つからない。


そんなデイジーを待たず、エマは矢継ぎ早に言葉を投げかける。


「どうやらご自身の生活が貴方が軽視する貴族に支えられている事をご存知ない様ですね」


「デイジー様には王家の教育方法が合わないのでは?そうです!私達の領地で取り入れられている教育を施してみては?」


決して打ち合わせをした訳ではないのだが、二人は息の合ったやり取りを見せる。


そうまるで、エマがデイジーを殴った時点で決められていたゴールへと導く様に状況が展開していく。


「それは良い考えです。では、ノヴァック嬢」


そうエマが声を掛けると鞭を手にしているアイラがデイジーへと一歩近づく。


「い、一体何を?」


宙へ鞭を振るい、わざとらしく音を鳴らしながら、無言で近づいてくる危険人物を目の前にして、デイジーは声を震わせながら疑問を投げかける。


「先程説明したじゃないですか〜。教育ですよ〜?」


アイラの言う教育は、基本家畜に対して行われる躾なのだが、田舎の土地では素行の悪い人間も多く、行き過ぎた行動を取る領民に対して時々行われる体罰でもあった。


学もなく道徳を学ばなかった輩に対しては、口で正しさを説くよりも効果があるのだ。


エマの相手の顔面を殴る行為は、暴れ始めた罪人を大人しくさせるために『躾』の第一段階として採用される事が多く、それを見て合点のいったアイラが今回の躾に参加した形が今の惨状だ。


「し、躾って!!私は王族よ!貴方達が飼ってる汚い家畜と一緒にしないで!!」


••ッピシィ!!


「ひぃ!」


予告もなくアイラが地面を叩いたため、デイジーは思わず身を縮める。


「家畜の方がよっぽど貴方より価値がありますよ?」


先程のお馬鹿はどこに行ったのか、牛をこよなく愛するアイラには『汚い家畜』発言に激怒し低い声で脅しをかける。


(頼むから暴走するなよ)


躾は感情的に行う行為ではない。


ちゃんと意図を持ち冷静な頭でやらなくては只の暴力になる。


予想外にヒートアップしそうな相方の肩に手を掛け、後ろへ下がらせる。


アイラの豹変に恐怖し、腰を下ろしてカタカタと震えるデイジーの肩に優しくエマの手が添えられた。


「私共は意地悪でこの様な行為をしている訳ではありません、ただマリアーノ嬢に理解して欲しいのです」


「理解?」


余りの恐怖を感じたデイジーは優しく語りかけるエマの言葉を大人しく聞き始める。


自身を殴った張本人である事を忘れこの場で唯一の味方を目の前にしたが如く、粗暴な輩は飴と鞭を駆使したこの『躾』に懐柔されてしまうのだ。


「はい。私達の存在は決して軽視して良い者ではない事を。そして、約束して下さい。被害を被った令嬢達に償いをする事を」


どうか。


この国王の目の前で。

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