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15.成長する友人

「ご機嫌麗しゅうございます。国王様。私共はノヴァック嬢に乗馬の指導を行っておりました」


リアム王の前では声を出すことが出来ないエミリアに代わって、エマが状況の説明を行った。


アイラも怯えながらではあるが同調してくれるため勘違いを起こす事はなさそうだ。


「まぁ、素晴らしいわ!ノヴァック嬢。領地のために努力をなさっていらっしゃるのね。」


リアム王から事情を聞いているオリビア妃が関心の声を上げ、アイラの肩に優しく手を乗せる。


「怒鳴り声が聞こえたようですが・・・」


疑いの表情を浮かべたノアがその端正な顔を近づけ、そっとエマへ近づき耳打ちする。


「痴話喧嘩の様なものです」


ノアは納得できない様子だったが、これ以上答える事はないとエマは冷たく突き放した。


その必要性が、ノアの背後に見て取れたからだ。


(あれがデイジー・マリアーノ)


ノアが近づいただけでも目を吊り上げ、嫉妬にまみれた視線を浴びせてくる少女は恐らく噂の婚約者なのだと思われた。


ここまでの移動手段は不明だが、乗馬には適さないフリルのドレスを身に纏い、緩く結い上げられた桃色の髪には白いバラが飾られている。


オリビア妃でさえ動きやすいシンプルなドレスを着ているため、一人だけ飾り立てたその装いに違和感を覚えざるを得ない。


「クラウディン嬢もノヴァック領のために力を貸して下さるなんて、大変感動しました」


ノアとリアム王を前に身を隠してしまったエミリアを見て、オリビア妃は優しい笑顔を向ける。


聡いオリビア妃の事だ。


自身を仲介にリアム王との間に生じた亀裂を修復したいと自ら声を掛けたのだろう。後ろに控えるリアム王もエミリアに対して敵視している様子もないため、しこりを残しているのはエミリアだけの様に見える。


「あ、いえ。そんなっ!ととと、当然の事をしたまでですわっ」


オリビア妃から直接感謝を伝えられるという稀有な場面に対応できないエミリアは、顔を赤くしながら徐々に体を後退させていく。


「謙虚なのですね。貴方の行動は大変誇らしい事ですよ」


朗らかな笑顔を浮かべながら後退するエミリアへ一歩近づく。


まるで怯えた野良猫が保護される光景を見ている様で、心を絆された周りの人間はただ温かい目でやり取りを見守る。そのため、エミリアが湖に近付いている事に気が付けなかった。


「っあ!!」


足を踏み外してしまった事に気が付いた時にはもう遅く、エミリアの体はゆっくりと湖へと倒れてい行く。


ッダ!!


それにいち早く反応したノアは、エミリアの腕を掴むと思いっきり自身へと引き寄せた。


「・・・・っ!大丈夫ですか!?」


力任せに腕を引っ張ったため姿勢を崩したノアは、崩れ落ちるエミリアを己の胸で受け止めた。勢いよくノアの腕の中に入ったエミリアは、鍛えられた胸板に顔面をぶつけ、声にならない声を上げている。


(本当に不幸だ)


本来であれば麗しの騎士に抱き留められた令嬢は頬を赤らめ夢見心地になるのだろうが、不幸な友人の手に掛かればそれは単なる事故となる。


周囲が気まずい雰囲気となり、ただただエミリアの回復を待っていた時。


「ねぇご存じ?」


先程まで口を開くことがなかったデイジーが可愛らしい笑みを浮かべながらエミリアへと近づく。


手にはいつの間にか水に濡らしたハンカチが握られており、それをエミリアが抑えていた鼻へと優しく押し当てる。


「はえ?あ、ありがとうございます」


行き成り登場した愛くるしい少女を目の前にしたエミリアは、動揺しながらもその手当を受け入れる。


珍しく気遣いの姿勢を見せるデイジーに怪訝な表情を浮かべたノアだったが、優しくエミリアへ触れるその対応を止める事はなかった。


「動物はね。圧倒的な力を持つ者を目の前にすると、躾をしなくとも従うそうよ」


丁寧な手つきでエミリアを手当てしたデイジーは、ノアの腕の中にいるエミリアをゆっくりと立たせ手を引く。


「圧倒的ですか?それは・・・力を使って調教するという事でしょうか?」


突然手を引かれ歩かされている事を不思議に思いながらも、素直なエミリアはデイジーに従い歩調を進める。


周囲も自然な流れでエミリアを誘導するデイジーに特に声を掛ける事はない。


(なんだ?)


噂とは異なる優しい態度を取るデイジーにエマは得体のしれない胸騒ぎを感じた。


デイジーは近くにあった切り株へとエミリアを座らせると、優しい笑みを浮かべレタスンの隣につないだエミリアの馬へと近づく。


「ええ。王家ではそう教育を受けるの。当り前よね。だって絶体的な力を実際に持っているのだもの」


偏った意見ではあるが真実だ。


先程から寡黙なリアム王が眉間に深い皺を刻みデイジーを睨みつける。


「お、王家の力は確かに圧倒的ですわ。・・・ですが、力で抑えつける事が物事を解決するとは思えません・・・」


デイジーに対する回答であるのだが、エミリアは誇らしげな視線を讃えながらエマの方を見つめていた。


トラウマを生んだ裁判であったが、エミリアにとって学びの場ともなった様だ。


成長を遂げたエミリアに事情を知る者達が誇らしげな視線を送る中、笑みを消したデイジーが不穏な動きを取る。


「それは力を知らない者の発言です」


「は?」


愛らしい容姿から想像がつかない程冷酷な声色で近づくデイジーの手には、馬の調教用に使われる鞭が握られていた。


「身の程を知りなさい!!」


そして、その鞭は無防備なエミリアへと振るい上げられた。


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