14.不幸な友人
「なんだか外が騒がしいですわね」
口元まで運んだ紅茶には口を付けず、不機嫌そうな声でデイジーが呟いた。
「どなたか湖にいらしてるのでしょうか?」
デイジーの独り言とも取れる発言に優しいオリビア妃が反応を示す。
ここは王族が避暑地として利用する湖の近くに建てられた別館だ。
王城に居座ったデイジーはわがまま放題に城を荒らした後、城内で過ごすのが飽きた様でこの別館で涼を取る事を提案したのだ。
実際に誘われたのはノアだけだったが、デイジーに振り回され疲労を顕わにするノアを懸念したオリビア妃がリアム王と共に同行した。
「貴方には聞いていません。ね?ノア?誰か来たのかな?」
目の前に座るオリビア妃の存在を目にも入れず、上目遣いで隣のノアの腕に寄り掛かる。
「存じ上げません」
話し掛けられたノアの態度は冷たい。
職務があるノアを無理やり連れ出し、あろうことか王や王妃の時間までを奪うこの少女はノアの怒りを増幅させる。
元来マリアーノ家を敵視するリアム王にとっても招かざる客であるデイジーは煩わしい存在であり、さらには唯一気遣いの態度を見せるオリビア妃を軽視する態度に王の機嫌は悪くなるばかりだ。
「皆で見に行ってみましょう。きっといい気晴らしになりますよ」
無礼な態度を気にする事無く、オリビア妃は朗らかに提案する。
その提案は、凍てつく空気の中、従事する侍女や執事たちの胸をほっと撫で下ろさせた。
元平民の王妃を快く思わないデイジーはその提案を却下しようとしたが、ノアとリアム王が同時に腰を上げたため同行せざるを得なくなる。
明らかに差を見せる二人の態度といくら攻撃しても柔和な態度を崩さない王妃を目の前にして、デイジーの不満は積み重なっていった。
「ですから!牛も興奮すれば人に危害を加えますし、狂暴ですのよ!馬だけを敵対視しないで下さいませ!」
「無理です!怖いです!ああ、また鼻を鳴らしましたよ!威嚇してきました!!」
乗馬練習のために湖へと到着したのだが、アイラは馬に跨るどころか近づく事さえ出来ていない。
最初は優しく問いかけ、誤解を一つ一つ説いていたエミリアだったが、頑なな馬への拒絶を見せるアイラに対し声を荒らげてしまう。
馬は威嚇以外にもおねだりする際に鼻を鳴らすのだが、アイラにはその違いが判別できない。
「もっと太らせて、見た目だけでも牛に近づけてみますか」
鞄に入れていた人参を鼻を鳴らした馬へと与えながら、エマはやる気のない提案をする。
「もっと真剣に考えて下さいまし!!」
真剣にと言われても馬に近付く事さえ出来ない人間がそう簡単に馬術を習得できるとは思えない。
領地のためにと安請け合いしてしまったが、アイラの状態を見るに根気のいる作業だと察したエマは匙を投げていた。
「太らせてくださいー。そして暴れられない様にお肉で体重を重くして・・・行く行く牛の様に」
「馬に乗る意味がありませんわー!!」
「何をしている?」
威圧的で凛と通る声が耳に入った途端、エミリアは素早くエマの後ろへと駆け込んだ。
見覚えのある体験に思わず体が反応してしまったようだ。
(この子は、生まれ以外は基本不幸体質だな)
友には恵まれず、恋仲になる予定の王からは叱責を受け、改心した後に友のためを思い上げてしまった怒号を再び王に聞かれてしまうというタイミングの悪さ。
友情と言うよりも同情に近い感情が自身の背に隠れるエミリアに対して湧き始めた。




