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8.秘密の書類

いつの世も、人は美しいものを好み、魅了されてきたという。


それは時に人を癒し、時には争いの火種ともなる扱いの難しい代物だが、使い方さえ知っていれば強い武器となる。



「あ、あの・・・」


「!?なんだ貴様は!?」


ローブを深々と被った人物が突然目の前に現れ、男は驚愕の声を上げる。


警戒心をむき出しにした表情で腰に携えている剣に手を掛け、今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。


「気分が悪くて・・・水を一杯貰えませんか?」


少し上擦った小声の人物は、弱弱しい動作でその細い指をローブへと掛け、ゆっくりとその顔を露わにした。



(よし!うまくいった!)


鼻の下を最大限伸ばした見張りの男がノアを引き連れてその場を離れていく姿を見て、エマが小さく拳を握る。


裏声で隠し通せるか疑問視していたノアだが、あの顔を目の前にした人間は他の事など気にする事も出来ない程その美しさに魅了されてしまうのだ。


相当な腕利きで信頼されていたのか、見張りは一人だけで、ノアへに連れ添った男がいた入り口は、無防備に開いている。


もちろんこの好機を逃すわけもなく、人の視線を気にしながらもテントへと身を滑り込ませた。


(暗いな)


やはり覆っている上質な布には遮光性があり、日中とは思えない程、室内は暗かった。


一見不便な環境に思えるが、湿度や光などの影響で劣化してしまう書類を保管する場に適しているのだ。


極力音を立てない様に気を配りながら、入り口の近くに置いてあった小さな燭台に火を灯し辺りを探索し始める。


しかし王都への流通を記録した書類はさすがに量が多く、全てを見て回るのは不可能に思えた。


(お父様ならどーする?絶対に人に見られたくない、でも使用頻度が高い書類・・・)


母よりも貧弱で繊細な父は、農業よりも書類仕事の方が適正とされ、今では領地に関する書類は全て父によって管理されている。


そんな父は領民よりも細身の体で頼りなく見える容姿とは異なり、誰よりも利に拘る性質を持ち、母からは『強欲な狐』と呼ばれている。


誰よりも小賢しく動き回る父が誰にも渡したくない書類を隠す場所。それは、


「・・・・・・・・・・っ!!」


小さな明かりを頼りに狭い室内を見渡していると、明らかに違和感がある個所を目に付いた。


【王都の楽しみ方】


【モテる男の心得】


【爆乳天国】


そこには、様々な趣味嗜好が混ざった明らかに個人用の棚が設置されていたのだ。


貴重な流通記録が保管される場所で、明らかに浮かれた題名の本が並んでおり、中には口に出すのも憚られる様なものまで置いてある。


だが、この光景は父が土地の権利書を他の契約書とは別に保管していた方法に似ている。


もちろんそこに飾ってあったのは農業に関する本のみであったが。


(これだ)


エマは綺麗に並べられた本をいくつか手に取り、ぺらぺらと捲っていく。


中身は題名通りの内容の様だが、そのページとページの間に二つ折りにされた王都と領地間の流通記録が挟まれていた。


(あった!が・・・少ない)


日付を確認してみると、ここに保管されている記録は一週間程のものしかなく、それ以降の書類が見当たらない。


また、記載されている内容は、大した知識のない者でも理解できる程わかりやすい記載がされており、あの野蛮な男達も目を通している事が窺える。


(まるでいつでも切り離せる様な手順が最初から組まれている様だ)


このアジトでは真犯人まで辿り着けないのではないかと判断したエマは、取り敢えず手にした書類を王家へ届けるためアジトを後にする事とした。


しかし。


「何をしている!?」


ッドゴ!!


書類探しに集中してしまったエマの背後から、怒号が響き、それと共に頭部へと激痛が走る。


殴られたことを自覚した時にはもう遅く、下卑た笑みを浮かべる屈強な男達に羽交い絞めにされていた。


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