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7.アジト

ノアの顔面攻撃を受けた賊どもは、先程とは打って変わって友好的な態度を取り始めた。


「いやぁ、貴方の様な美しい女性を手放すなど、罪な親もいたものです」


特に最初に歯抜けのデブに気に入られたノアは、しきりに慰めの言葉を投げかけられその度に腰や肩に触れてくる男を射殺しそうな目で見ている。


幸い男は鈍感な様で、殺気に気が付く事はなかったが、エマの目からはノアの怒りが凄まじいものに見えた。賊へ取り入るための餌にされ屈辱を受ける騎士から、今後どの様な報復を受けるのかと想像するだけで背筋に冷たいものが走る。


馬車は市場を抜け、王都への出入りを記録する管理所から数百メートル離れた場所で停車した。


恐らくアジトであろうその場所は、鉄の柵で囲まれ、屈強な男達が入り口に待ち構えている。


特に証明書など必要とせず、顔を確認する事で門が開かれる様で、エマ単体では潜入不可能に思われた。


「ここで待ってろ」


アジト内の敷地は広く、門を入ってからも荷台に乗せられ移動した。


中には移動式と思われるテントが張られていて、いつでもこの場所から逃走できる使用になっている様だ。


「・・・はい。貴方には大変感謝しております」


男の命令に瞳を潤ませながらエマが応える。


ノアの容姿の影響で防御力がだいぶ下がった賊達は『親に捕まったらまた売り飛ばされる。どうか王都から出してほしい』という要求に快く了承してくれたのだ。


男を見送りながらこの大規模なアジトの存在について思考を巡らせる。


王都ではリアム王の指示により王城さながらの物流の管理が徹底されているため、何がいくらで入荷したのかが詳細に記録される。


王族を騙す事など平民に出来るはずがない。


だとすれば、王族もしくは、王に繋がる貴族の存在が必要不可欠だとエマは踏んでいた。



「誰が姉ですか」


見張りが消えたため身を潜めながらアジト内を詮索していると、ノアが開口一番に不服の声を上げた。


男に尻を撫で回されながらも殴らずに耐え忍んだ騎士には頭が上がらないが、それを態度で示せば大きな貸しを作る予感がしたエマは気丈な態度で対応する。


「ノア様は老若男女を魅了するご尊顔をお持ちです。利用しないのは創造して下さった神に対して失礼です」


ずけずけと言い訳をするエマに不快な視線を浴びせながらも、今はエマに従う事しかできないノアは無言で後ろをついていく。


エマが探しているのは物流の記録が残った書類だ。例え騙していても自身が把握する必要がある書類は残しているはず、それを王へ提出すれば問題は解決だ。


広い敷地内ではあるが、重要な書類を保管する場所は敷地内で一番安全な場所と決まっている。


つまりは一番入り口から遠く、人目につかない場所。暴れ馬レタスンを人目に触れぬよう隠していた厩舎同様、人の考えることは身分関係なく似ているのだ。


アジトの入り口から遠く離れた暗がりに、こじんまりとした汚らしいテントが張られている。


見た目は汚れが目立つテントであるが、その布地は重厚で光を遮断できる仕様となっている事が窺えた。


確実に怪しい場所ではあるのだが、やはり無人と言うわけにはいかず、屈強な体を持つ見張りが張り付いていて中に入る事は困難に思えた。


「見張りが邪魔ですね」


「私が口を塞ぎましょうか?」


後ろから付いてきたノアが協力的な姿勢で提案してくる。


だが、『塞ぐ』という言葉が、実際に口に手を当てる事なのか、息の根を止める事なのかが判断できないエマは素直に頷く事が出来ない。


「・・・・いえ、ですが協力はして頂きたいです」


極力存在を認識されず、穏便に目的の書類を手に入れたいエマは『ノアへ協力を要請する』という苦渋の決断をするのだった。


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