5.初めての外出
王都には自分の可能性を信じた血気盛んな者達が意気揚々と足を踏み入れる。
その中には、リアム王が与えてくれた環境を十分に生かし、国へと貢献する者もいれば、思うような成果が出ず裏道へと誘い込まれてしまう者もいた。
しかし、民のためを思い、日夜公務に明け暮れる若き王は、その裏切りに気が付くことが出来ないのだ。
(お、野菜が売っている)
「お待ちください」
賑わう商店街で野菜売りを見つけたエマは、一目散に店へと走りだそうとしたところを護衛のノアに腕を引かれ止められてしまう。
ここは王都フィラデルフィアの中心にある商店街。
多くの商人が店を広げ、貴族平民問わず足を運ぶ栄えた場所だ。
商売は王の許可さえ得られれば年齢性別問わず行える様で、多様多種な人間が活気のある声を道行く人々へ掛けていた。
「いいですか。ここは道が複雑で迷子になりやすいのです。私から決して離れないで下さい」
眉間にたっぷりと皺を刻んだノアは、そう言うとエマの腕を掴んだまま人ごみの中を歩き始める。
以前は選ばれし者しか足を踏み入れる事が叶わなかった道も今では大勢の人間が行きかい、気を抜けば人ごみに流されてしまう。
(連行されてるみたいだ)
なぜノアと城外へ出ているかというと、先日行われた王妃との茶会が関係している。
カールソン領の生産物が王都へ出回っている事に興味深々なエマを気遣い、心優しい王妃が王へ外出の許可を取ってくれたのだ。
もちろん一人での外出は許可されず、出来るだけ距離を置きたいノアとの動向を余儀なくされた。
「あの、なぜその様な格好をされているのですか?」
腕を引き続けるノアは、大きめのローブを頭から被り口元しか見えない姿をしていた。
「以前、素顔をさらして歩いたのですが、女性に囲まれ身動きが取れなくなりましたので」
相変わらずノアの人を引き寄せる力は健在の様で、麗しの騎士はエマと言う防波堤に加え、顔を覆いつくすローブを身に着ける事で鉄壁の守りを固めていた。
「お、お嬢ちゃん可愛いね。まけとくよ~」
主人の軽口に愛想笑いを浮かべながら、エマは並べられている食材たちを観察する。
色とりどりに揃えられた野菜たちは、今が食べごろとばかりに生き生きと自らの存在を主張している様に見えた。
「随分過保護にされてるね~」
野菜観察最中のエマから手を放す事がないノアを店主が不思議そうな目で見ていた。
どれだけ信頼がないのかわからないが、ノアは片時もエマから手を放す気はないらしい。
しかし、無礼とも捉えられるノアの態度など気にもならない程、野菜を目の前にするエマは衝撃を受けていた。
(なぜ、なぜカールソン領の野菜がない!?)
そう豊富に並べられた食材の中に、一つたりともカールソン領の食材が含まれていないのだ。
王宮では毎日の様に取り扱われている食材だが、決して高値で流通させていないため、資金を持たない民にも手ごろな値段で提供出来ていると自負していた。
「あ、あの・・・なぜカールソン領の食材はないのでしょう?」
声の震えを抑えながら、愛想のよい店主に質問をしてみる。
その途端店主から笑みが消え、商売には向かない険しい表情へと変貌した。
警戒したノアがエマの腕を引き自身の後ろへと隠したが、理由をどうしても知りたいエマが再度前へと躍り出る。
「なぜですか!?」
ローブの中からでも呆れた感情を感じ取れたが、構っていられない。食い入り気味に店主へと再度質問を投げかける。
「な、なぜって・・・あそこは王宮に気に入られてるのをいい事に値段をふっかけてくるのさ」
エマの気迫に圧倒された店主が一度肩を跳ねらせ、体を固くして回答する。
理由を話せば解放してもらえると店主は思っている様だが、それはエマにとって決して聞き流せる情報ではない。
エマの態度から、今後の嵐を予感したノアは、深くかぶったローブの中から疲労感たっぷりのため息を漏らした。




