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4.心優しい王妃

王の側室として入城してから3カ月が経つが、未だに王から夜伽を求められた令嬢はいない。


茶会や領地の散策、乗馬や食事会など度々時間を共にする機会が与えられるのだが、その際は必ず王妃も同行していた。


その状況を『王を奪われる事を懸念した王妃の嫉妬』と捉えた令嬢達は、元平民である王妃の悪意ある噂を流し始めたのだった。



日が傾き、徐々に日の光が弱くなる庭園で、美しい王妃が険しい表情をしていた。


「王の側室として・・・という説明では満足しませんか?」


「はい。残念ながら」


王妃を見返すエマの表情は逆光の影響で判然としないが、その紫色の瞳は無く真っすぐ王妃を捉えている事が窺える。


そして、そのエマの様子をノアは不思議そうに観察していた。


王との初めての顔合わせで疑問一つ口にしなった令嬢が、譲らないとばかりに王妃に答えを求める姿に疑問を抱いているのだ。


エマ自身、出来る事なら王とも王妃とも距離を置き、帰還命令を待っていたかったが、自身が置かれる不可思議な現状は看過出来ない程の違和感があった。


(あの貴族嫌いの王が令嬢を側室にするか?)


度々貴族を毛嫌いする態度を見せる王が『側室として』という理由で招集命令を下すなど疑問を抱かずにいられない。


子を成す事が目的ではないのならば、何を求められているのか。平然と領主の娘を罰する残虐王の意図はエマの中で『知らなくてよい事』ではなくなっていた。


「なぜ・・・そう思われるのです?」


エマの様子を伺い、言葉を選びながら探っている様子だ。いつもの朗らかな雰囲気とは異なり、張り詰めた雰囲気のオリビア妃がエマを真っすぐ見返す。


王専属騎士という立場だけあって事情を知っているのか、無言を貫くノアも厳しい視線でエマを見据えていた。


「理由は多々ありますが・・・特に強い意図を感じたのは顔合わせです」


突然の招待に執務室という令嬢を招くには不躾な場所。


短い時間に不愛想な王の態度と来れば、エマの様に身支度が嫌いな令嬢を覗けば殆どの令嬢は不愉快に思うだろう。


「側室として招待した令嬢をわざと怒らせようとしている様に感じました」


「そうですか、そんな態度を・・・」


実際に顔合わせの現場を知らない王妃は事実を聞かされ少々呆れている様だった。


「リアム王は・・・・貴族を好いてはいないのです」


(むしろ嫌っているのだろう)


理由は教えてもらえなかったが、その顔合わせの意図はリアム王の貴族嫌いにあると言われた。


貴族はプライドが高く、それを傷つけられる事を最も嫌う。そこに狙いを付けた。


あからさまに憤慨し、王に敵意を見せた者達はその段階で領地へと帰された。貴族ではあるが貴族特有の傲慢な態度を取る者をふるいにかけた様だ。


「貴方の話は王から聞いております。怒る事もなく、戸惑う事もなく。礼を尽くし続けたと」


(早く終わらせたかっただけだが)


王を敬遠したエマの行動は、貴族嫌いの王にとって好感を持たれるものだった。


ノアもそれを察して『合格』といった称号をエマに与えたのだ。


「王はなぜそのような行動を?」


真実を知りたいエマに対し、王妃はいつもの困った様な笑顔を向ける。


知ってはいるが彼女も口に出す事を止められているのだろう。


「王は新しい時代を作ろうとしています。そのために貴方達のお力は必要不可欠です。その事だけはどうか忘れないで下さい」


申し訳なさそうな表情でそう言い残すとオリビア妃は侍女たちを連れて去っていった。


(一介の令嬢などに心を痛める必要はないのに・・・そうか、だから国王は)


質問に答えてあげられない罪悪感からか愁いの表情を見せたオリビア妃は、きっと貴族らしい貴族とは折が合わないだろうと思えた。


度々見せる優しさや気遣いからは王族らしい気高さは感じられず、いつもは気を張って『王妃らしく』振る舞っている様だが本来彼女は平民なのだ。


リアム王の無礼な顔合わせは、傲慢な令嬢達から王妃を守るための不器用な策だったのかもしれない。


合点がいったエマは、若き王への評価を少しだけ上げたのだった。


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