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3.茶会

王城での暮らしが濃厚だったせいか、この美しい庭園で開かれた歓迎の宴が随分昔の事に思えた。


春の暖かな日差しの元咲き誇っていた花々は影を潜め、代わりに生命力の溢れる新緑が訪れる者の心を癒してくれる。


以前訪れた時は100人規模のテーブルセッティングがされていたが、今は数人の侍女を引き連れたオリビア妃とここまで案内人を務めたノア、そして招待を受けたエマしかいない。


「本当に感謝しております。あの時、王を止められる者はおりませんでした」


「いえ。国王様が寛大で在られたからこそ、このような結果になったのです。私はそのサポートをさせて頂いただけです」


用意された紅茶や軽食に舌鼓を打ちながら、謁見の間で行われた裁判に関して王妃と振り返っていた。


さすが王妃の茶会。手触りの良いシルクのテーブルクロスの上に、王族御用達と名高い茶器が置かれ、今の季節では手に入れる事が困難と思われる食材を贅沢に使用した料理が並べられている。


女の子が好む愛らしい雰囲気のサロンとは異なり、洗練された淑女が好みそうな上品なデザインは、美しく気品のあるオリビア妃に相応しく思えた。


「カールソンでは、領民が減少しているのかしら?」


「いえ。まだ目に付くほどには。ですが、おそらく時間の問題かと危惧しておりました」


話は王の話題からエマが問題提起した『領民の流出』問題へと移る。リアム王同様、この問題に関しては周りから報告を受けていない様で、現状を知らないオリビア妃から領地を憂慮する声が掛けられた。


しかしその心配が杞憂である事をエマは知っている。確かに若者達が都心に憧れ数人が領地を離れたとは耳にしていたが、領内では全く問題視されていないのだ。むしろ血気盛んな男が多いおかげで年々出産数が増加しているカールソン領では、人口増加に伴い領地開拓を求める声も上がっている程だった。


そんな状況を知らないオリビア妃の慈愛に満ちた眼差しを受けたエマは、有利な貿易が欲しいがために虚言に近い問題提起を行った事を少し反省した。


「・・・そう。カールソン領の食材はどこの領地よりも質がいいから、それが手に入らなくなったら私は悲しいわ」


「ご存じでしたか」


王宮ではかなりの頻度でカールソン領の食材を使用しており、エマも領地の品質を確かめるため必要以上に口にしていた。


その弊害で美貌の騎士に恥をさらす事となったが。


元平民であるオリビア妃が他の領地に関して元々知識があったとは思えない。ましてや前国王の支配下にあった王都フェランデリアで平民に学びの場など設けられてはいないだろう。


おそらくこの王妃は高い地位に驕ることなく、王族として必要な知識やマナー、教養を身に着けるため勤勉に学んできたのだ。


(これこそ女神だ)


直向きに努力をしながらもそれを周りに見せる事はなく、与えられた権限に甘えず、春の日差しの様な暖かい慈愛の光を分け隔てなく与えるオリビア妃は、邪心ごと自身が昇天するのでは?と心配になる程神々しく見えた。


オリビア妃との茶会は大変盛り上がり、領地の事、最近できた友達の事、馬や調教薬についてなど話題は尽きなかった。


「あら、もうこんな時間」


気が付けば日が傾き、茶会は終わりへと向かう。


「とっても楽しい時間だったわ。また、いらしてくださいね」


「はい。喜んで」


短い時間ではあるが濃厚な時を過ごせたエマは、オリビア妃に心地よい返事を返す。


その返事に満足そうな笑みを浮かべ、その場を後にしようと腰を上げた時。


「王妃様。一つだけよろしいでしょうか」


着席したまま腰を上げようとしないエマから声が掛けられる。


周囲はオリビア妃の離席と共に茶会の終わりに向けて動き始めていたのだが、その一言で作業は中断されてしまう。


オリビア妃の背後には離席のサポートをするため王妃の椅子に手を掛けたノアがおり、怪訝そうな表情で腰を下ろし続ける令嬢を見ていた。


「何かしら?」


それはオリビア妃も同じで、ノアと同じ表情をして話の続きを促す。


夕日に色を染められた庭園を背景にして、誰もが圧倒する美人が並ぶその姿は一枚の絵の様で、これを市場に出したら・・・つい邪な考えが浮かんでしまう。


「・・・こほん」


場を中断させていいる立場を忘れ、脳裏で金勘定をし始めたエマをノアの咳払いが現実へと引き戻した。


っはっと我に返るとオリビア妃の後ろで待機しながらも呆れた視線を向けてくるノアの顔が夕日に照らされはっきりと伺える。


「・・・失礼。王妃様にお伺いしたい事がございます。不敬と感じられないと良いのですが」


「構いません。続けなさい」


一度立ち上がったにも関わらず、再度椅子へ腰を下ろして話を聞こうとするオリビア妃の姿勢は、『優しい平民』ではあるが『気高い王族』ではない。


王妃の柔軟な対応に周囲も戸惑っている様子が窺える。だが、これだけは聞かなくてはいけないのだ。今後の自身の未来、さらには領地の未来にも関わる重要な事柄だ。


緊張で乾く喉で唾を飲み込み、そしてゆっくりと口を開いた。


「はい。国王様はなぜ令嬢を集めたのでしょうか?」


それはずっと抱いていた疑問だった。


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