21.ばつ
初めての連載でサイトの見方がわかっておらず、今気が付きました(^^;
誤字脱字報告ありがとうございます!
エマの提案した交換契約を結ぶという条件で、エミリアと事件に関わる令嬢2人の処分は取り消された。
心優しい(民だけに)リアム王が大賛成してくれたので、クラウディン領と他2つの領地との有益な商権を手に入れることが出来た。
(命を脅かされたのだ、この位の償い当たり前だ)
正直、国王様の望む『令嬢達の諍いを止めるための見せしめ』は実現されなかったので、これからも令嬢達は醜い争いを繰り返すのだろうが、自身の思惑通りに事を運べたエマにとっては満足な結果と言える。
さらにエマの演説に感動したリアム王が他の領地とも契約を結べるよう手回しをしてくれるようで、取り敢えずその場にいたアイラの領地、ノヴァック領との契約も締結することとなった。
具体的な内容についてはこれから決めるが、互いに損をする話にはならないだろう。だが、わざわざ田舎町に足を運ばなくとも潤っているクラウディン領にとっては、利にもならない契約を結ばされる事だろう。
思わず鼻歌交じりに帰り路を歩いていたら、行き同様に護衛に付いてくれたノアから不審な目で見られた。
「素晴らしいご提案でした。貴族の方が皆、慈悲深いカールソン嬢のような方でしたらいいのですが」
「そんな、私は当然の提案をしたまでですわ」
おほほっと上品に笑みを浮かべる。正直らしくない仕草だが、これ以上他の令嬢より浮いてしまう事は避けたいため、演技を続ける。
「王もいたく感銘を受けておりました」
「私も国王様の寛大なお心に大変敬服いたしました」
民を思うリアム王。
強い者には厳しく、弱い者にはとことん優しい。
その弱者の手にナイフはないのか、その強者の存在は軽視していいものなのか。
王族という恵まれた環境で育ったせいなのか、リアム王の正義は真っすぐすぎる。世の中の理不尽さと、その必要性を見ようともしない。
(側近も大変だな)
王が軽視する領主の権利が未だに保たれているのは、王を取り囲む側近や王妃の存在があるお陰かもしれないと、エマはそっと感謝の念を送った。
「調教薬なる物をあの馬に使われたのですね」
本館を出てから特に話す事もないため無言で歩いていると、前を歩くノアから話し掛けられた。
「?はい、馬に乗ると聞いていたので念のため持っていきました」
質問されたので返答したのだが、ノアから返事がない。横に縛った水色の髪が背中へと落ちて歩くたびにサラサラと揺れているのが見える。
「あの、それがなにか?」
黙ったままのノアに不信感を抱き、話の続きを促す。
「なぜ、黙っていたのですか?」
「はい?」
ノアの声色が先ほどよりも低くなり、背中から異様なオーラを放っている。
「なぜ、調教薬の存在を教えて下さらなかったのです?」
「あ、ああ」
(なんだ、レタスンをあっさり手懐けた事が気に障ったのか?)
ねちっこいなと心の中で悪態をつくが、いつこちらを振り返るかわからないので笑みは貼り付けておいた。
「ズルをしてしまい申し訳ありません。少々扱いが難しいのですが、いりますか?」
「・・・っ!!そんな事言っているのではありません!!」
行き成り振り向いたと思ったら大声で怒鳴られたエマは、目を開いたまま固まってしまった。気を利かせたつもりだったので予想外の反応に、只々驚いたのだ。
固まって動かないエマをよそに、ノアの怒りのお説教は続く。
「その存在を教えて頂ければ、部下たちに遠方を捜索するよう指示が出来ました。貴方が川へ身を投げ助かったのは運が良かったからです。もう少し慎重に動いてください」
「・・・・・・私があなたに、調教薬の存在を教えていれば・・・・猛獣達に領土の範囲を超える縄張りへ連れ去られた事が予想出来た・・・という事でしょうか?」
理不尽な言い分だと自身でも気付いているのだろう、返す言葉もない様で情けない顔をしながら俯き萎んでしまう。いつもは気高く凛々しい顔をしているのに、たまに見せる感情がノアを幼く見せる。
「・・・・いえ、すみません、貴方は悪くない。俺がご令嬢達の悪意に気付けていれば、こんな事には・・・」
珍しく一人称を『俺』にしてしまう程、今回の件はノアにとってショックだったらしい。
リアム王の信頼が厚いからこそ、領地内だとは言え、護衛をノア一人に任せたのだ。いくら予想しがたい状況だとしても起きた不祥事はノアのプライドをいたく傷つけたようだ。
「い、いいえ、ロックウェル様のせいではありません」
「・・・・ノアとお呼びください」
(なぜこんなに頑なに・・・)
これ以上ノアに好意を寄せる令嬢からの嫉妬を受けたくないので、敢えてファーストネームを避けたのだが一向に許してもらえない。見えないノアの意図に困惑するばかりだ。
「そのことですが、ロックウェル様はご令嬢からの人気が大変高く、私のみファーストネームで呼びますと、それを不快に思われるご令嬢もおられます。」
「そんな、私などに好意を寄せる物好きな令嬢などおりません。カールソン嬢の勘違いでは?」
さわやかな笑みを讃え首を傾げながら、細く美しい指で軽く頬をかく。この仕草一つで令嬢達の胸は一杯になってしまうのだ。
「いいえ、勘違いではありません。あくまでもノア様と呼び続けろ仰るのならば、他のご令嬢にもその許可を出してください」
エマの返答にふむっと考える様に指を顎に添え、そのまま背を向けて歩き始めた。
考えが纏まるまで声は掛けない様にしていたのだが、特に返答を貰えないままエマの部屋へと着いてしまった。
「あ、あの、それでは、お送り頂きありがとうございました」
何も答えないノアに納得してくれたのでは?という淡い期待を抱きながら、エマは自室の扉を開こうとした、しかし、
「私は貴方だけに『ノア』と呼んでほしいのです」
ノアに扉を抑えられ開かない。エマの背後に立ち耳元で囁かれるノアの声はいつも発する気高い凛とした声よりも低く、どことなく色気を感じる。
「な、なにを!・・・っ」
突然な出来事に体が固まってしまったが、すぐに我に戻り背後のノアを睨みつけた。それがいけなかった。
息が触れてしまう程の近さで見るノアの迫力に体が動かなくなる。男とは思えないほどのきめ細やかな肌、長くしなやかな水色のまつ毛から、吸い込まれてしまいそうな程美しい瞳。
美しすぎるものを目の前にした時、人は蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなる事をエマは初めて知った。
その反応を見たノアは満足そうに笑みを零すと、ゆっくりとエマから離れた。
微動だに出来ないエマを横目に先ほど抑えていた扉を開き、優雅な動作でエマを自室へとエスコートする。
「カールソン嬢のような逞しいご令嬢でしたら、他のご令嬢の嫉妬などに怯むことはないでしょう?」
「は?」
意識が朦朧としていたエマの正気を不敵な発言が一気に現実へと引き戻した。振り返るとそこには、先ほどの紳士的で上品な笑みを浮かべていた人間と同一人物とは思えない程意地の悪そうな表情をしたノアがいた。
「一人のご令嬢を特別に扱えば、他のご令嬢達への線引きとなりますから、ぜひ私の防波堤となってください」
「へ?」
「私のいう事を聞かなかった罰です。これくらい、受けてくださいね」
矢継ぎ早な提案に返事をすることのできないエマを残し、いつも通りの紳士的で上品でそして不敵な笑みを讃えたノアの顔がゆっくりと扉に遮られていく。
・・・パタン
「や・・・・」
(やっぱり自覚してたじゃないかー!!!)
こうして、無事に交換契約を成立させたエマは、さらにノアの防波堤という役割を与えられ、商人としても令嬢としても逞しく成長させられていくのだった。
これで第一章は完結です^^
第二章も執筆が終わり次第投稿させて頂きます。
この作品が良きと思えた方、続きが気になる方は、ぜひ評価頂けたら嬉しいです。




