18.提案
「言い訳も出来ぬか・・・・王を前にして、さらなる不敬を積み重ねるとはいい度胸だ」
さらに一歩令嬢へと近づく。不穏な空気がより一層濃くなるのを感じる。
国王の呼び掛けに答えない令嬢達の姿勢は、恐怖による態度であっても不敬と捉えられる。それ程、王の存在は絶対的であり、その王の庭で殺人未遂を犯した者がただで済むはずがない。
「しょ、証拠は・・・?証拠はあるのですか?先ほどのカールソン嬢の一方的な話を全て鵜呑みにされるというのですか!?」
「そ、そうです!私たちは何もしておりません!調教薬などという怪しげな薬など触れるどころか聞いたことすらありませんわ!」
(貴方達が何も話さないから私から話したのだけどね・・・それに証拠など)
自らの命が危うい事を察したのか、2人の令嬢が早口で捲し立てる。いつもならエミリアを前に押し出し、自分達は背後に控えているのだが、今はそんな余裕もないのだろう。
猛反発する令嬢を前にリアム王は鼻で笑いながら言い放つ。
「ではお前らが最近商人と取引した品を確認してみようか、言っておくが王宮を出入りする品はすべて記録してあるぞ」
王宮では物流管理が徹底しており、金や文書、商人から買った品や領地からの仕送りに至るまで全てが王に任命された役人に把握され、記録として残されていた。
エマも領地からの仕送りで野菜を届けてもらったのだが、品の確認作業に時間を取られた様で、鮮度の落ちた食料が届いたことを覚えている。
「そ、それは・・・」
王宮の物流管理について知らなかったのか、令嬢の口が一気に重くなる。
「ぐす、ぐす・・・・ごめんなさいー・・・」
「エミリア嬢は黙っていてください!」
立つことさえも出来なくなったエミリアが、床に座り込みながら正直に白状しようとするのを強めの口調で令嬢二人が止めに入る。
(一体どんな関係なんだ?)
いつも前面に出ているのはエミリアだが、今回の件といい恐らく2人の令嬢に唆されているのだろう。ならばその延長線上で全てをエミリアに押し付けてしまえば済みそうなのだが切り捨てることもしない。決してエミリアの身を案じている様にも見えないためエマには3人の関係性が不可思議に思えた。
「クラウディン嬢は罪を認めるようだな。最近ご令嬢同士の諍いが絶えなくてな。そろそろ見せしめが欲しいと思っていたのだ」
どうやらエマ達以外にもリアム王を悩ませる種があるらしく、黙らせるためには見せしめをと残虐王らしい強引な手段を取ろうとしていた。
「っ!!そんな!!」
「どう思うカールソン嬢?」
衝撃を受ける3人の令嬢を無視し、リアム王はエマに意見を求める。もちろん『見せしめ』などという物騒な言葉に、普通の令嬢ならば賛同しないのだが、
「そうですね。ミンチにすれば豚の餌くらいにはなるかもしれません」
にっこりと満面の笑みで返すエマに令嬢のみならず王妃、そして騎士一同耳を疑った。シーンと静まり返る室内。予想外の返答にリアム王も一瞬体を強張らせたのだが、すぐに破顔し
「っはははっはは!」
王の印象を一気に変えてしまう程無邪気に笑い声を上げた。その光景はまさに狂気であるが、それ以上に王と共に笑みを浮かべるエマに皆が異様さを感じ始める。寛容そうなアイラにさえその姿は奇異に映った様で、ゆっくりと後退しエマとの距離を取ろうとしている。
「というのは冗談ですが・・・・ん?」
王に一発かませた事に満足し周りを見ていなかったエマに、皆の得体の知れない物体を見る視線が注がれ続ける。『冗談』などという言葉で片付けられる範囲は等に超えている様だった。
(あれ、冗談って言ってるのにな)
ミンチは行き過ぎだが、領主の令嬢など国王にとっては容易く奪える命なのだろう。
絶対的な権力者として降臨する国王の尊厳と権力を守るためにも必要な裁きではあるのだが、大切な息女の命が奪われたとなれば、元々若き王に不満を持つ貴族達が黙っているとも思えない。何よりもエマ自身がその罰に納得していないのだ。
「こほん、力で抑え付けても更なる火種を生むことでしょう。ならば互いが協力関係を結び、理解しあう環境が必要不可欠です・・・・。そこで私は提案します!!そちらのご令嬢達の領地とカールソン領で交換契約を締結致しましょう!」
暗い雰囲気を吹き飛ばすため、珍しく明るい声色を上げたエマは、『自分の望む有益な賠償』を得るための交渉を開始した。




