17.事の経緯2
「ですから、私は領地から遠く離れた場所に現住する猛獣達に襲われ巣へと連れて行か「まてまてまて」」
再び同じ説明を繰り返すエマを手で制し、リアム王が困惑の表情を浮かべる。
「もう少し噛み砕いて話せ、なぜ猛獣が我が領地まで侵入したのだ?」
(あれ、噛み砕いて話してたのにな)
『領地外の猛獣達さえ感じ取れる程の強力な香りを付けられ酷い目に遭った』と説明したのだが伝わらなかった。
エマやアイラの様な田舎育ちの人間にとっては『調教薬の量間違えたら遠方から動物が集まっちゃった☆』という話はあるあるなのだが、都心育ちの王族や令嬢達には細部まで説明しないと伝わらないらしい。
「調教薬は原液で使用しますと動物にしか感知できない強い香りを発生させます。その香りは薄まることなく風に乗り領地から遠く離れた場所で暮らす動物たちの元へと届きます。」
「そんなに強いのか・・・」
「はい、時間が経てば蒸発してしまう香薬ですが、一定の間は衰える事がありません。また、先程も話したように薄めて使用した物でさえ強い効力を発揮しますので、多少分散されたとしても十分な効力を発揮するかと」
王族の領地とは到底思えない岩場まで連れていかれたのだ、行きも帰りも自力ではないので正確な場所は不明だが、少なくとも人の足で行ける場所ではないだろう。
「あ、あの、なぜ、連れて行かれたのですか?・・・っひぃ」
先ほどまで黙り込んでいたエミリアがおずおずと口を開いたが、発言を許可していないと王が一瞥したため、またすくみ上ってしまった。
「はぁ、だから貴方たちが私に調教薬を吹きかけたからで・・・」
いやお前のせいだろうと呆れた顔で同じ説明を繰り返そうとしたところ、
「いや、そうではなく、なぜ猛獣達は其方を巣へ連れて行ったのだ?喰い殺すことも出来ただろう」
リアム王の物騒な発言で制された。その発言にエマ以上に反応したエミリアがまた俯きながら震え始める。
「調教薬は人にとっての惚れ薬です。惚れ薬が効いた猛獣達にとって私は子の様な存在となります。その愛しい対象を安全な巣穴に連れ帰った、、、というイメージならわかりやすいでしょうか、もちろん調教薬の香りが完全に蒸発すれば、その瞬間に私は彼らの餌になっていましたが・・・」
「ち、違うの!私そんなつもりじゃ・・・」
「エ、エミリア嬢落ち着いて・・・」
「そうよ、私たちは無関係ですのよ」
エマの言葉を聞いたエミリアがあからさまに狼狽し始める。自分が実行犯だと認める様な発言に2人の令嬢達もエミリアを止めるのに必死だ。
「本当に違うの、蛇とか蛙とかに纏わりつかれて困るんじゃないかって、本当にそれだけで・・・」
(そんな軽い気持ちだったのかい!・・・まぁ、恐らく利用されたのだろうな)
涙を溢しながら誤解を解こうとするエミリアを見ていると、拍子抜けしてしまう。プライドが高いだけで取り繕うことが出来ないこの令嬢に、真正面以外の攻撃が出来るとは到底思えなかった。
「王の許可なく発言する事は慎んでください」
自分勝手に発言を繰り返す令嬢達にノアが冷たい声で言い放つ。さすがに窮地に立たされているためか、令嬢達に頬を赤らめる余裕はないようだ。
2人の令嬢は悔しそうに唇を噛みエマを睨みつけ、エミリアは涙が止まらないのか、しきりに目元を拭っていた。
「なるほど、信じがたい話ではあるが先を続けよう、山奥に連れて行かれた其方はどうやって草原へと戻ったのだ?」
場が静かになり、疑いの色を含みながらもリアム王が質問を続ける。じっと話を聞いていたオリビア妃も隣でゆっくりと頷きながら話を促す。
「はい、動物達が私を取り合って暴れ始めたので、その隙をついて岩場の影に隠れました。そこには運のいい事に大きな川が流れていたのです。調教薬は水で薄めるほど効果が薄くなります。その性質を利用し、私は川へ・・・」
「身を投げたのですか!?」
先ほどまで気配を完全に消していたノアが驚愕の声を上げた。
「貴方という人は・・・」
瞠目し口を無防備に開けたノアの顔は、いつもより幼くそして可愛らしいく見え、呆れられているにも関わらず凝視してしまう程の魅力があった。
「ノア」
リアム王の制止の声に、っぐっと堪えた表情を一瞬見せたがさすが王専属騎士、何事もなかったかの様に気配を消した。
「・・・っこほん、どうにか川に流された私は、ノア様に救出され城へ戻る事が出来ました。これが事の顛末でございます。」
「ノア様・・・?」
「なぜファーストネームを・・・」
立場も忘れて2人の令嬢がぎりりと歯を噛み締めこちらを睨んでくる。
「・・・えっと、ロックウェル様に救出され・・・」
「ノアで結構です」
これ以上の争いはごめんっと訂正したのだが、後ろで控えるノアに遮られてしまう。令嬢の怒りは再びエマへと向かう。
(そーいえば殺されかけた理由ってこの人だよな・・・)
命の恩人であるノアとの距離を出来るだけ遠ざけようと決意を固め、助けを求める視線をリアム王に送ってみる。
「ノアが許可したのであれば、そう呼ぶといい。それよりも・・・」
リアム王直々に許可を得てしまったエマを睨み続ける令嬢達は、自身に注がれる厳しく、侮蔑を含んだ視線に気付くことが出来なかった。
未だに泣き止まないエミリア、そしてエマに対する敵対心を見せる令嬢達が今回の事件の首謀者であることは明らかだ。
「そろそろ、お前らの言い分を聞かせて頂こうか」
リアム王はすっと玉座から立ち上がりエミリア達の前へと一歩踏み出す。罪人でなくとも首を差し出してしまう程の猛々しいオーラを前にしては、エミリアだけでなく令嬢達も口を開くことが出来なくなってしまう。
(さて、ここからだ)
誰しもが国王の下さす裁きを固唾を呑んで見守る中、自らの企てを実現させようと、エマは人知れず気合を入れ直した。




