16.事の経緯
静まり返った室内。
リアム王の不機嫌そうな顔の隣には、困った様な笑みを浮かべるオリビア妃。
誰一人声を発する事の出来ないこの状況を作り出している張本人は青白い顔色を浮かべながら今にも失神しそうだ。
(ほんと小心だな)
リアム王に事の経緯を質問されたエミリアは、説明どころか声を発する事も出来ずに震えていた。既視感を覚える光景を他人事のように観察していたい所だが、あからさまに機嫌が悪くなるリアム王を無視することはできない。
「国王様、発言をお許しください」
これ以上空気を悪くは出来ないと感じたエマは、すっと頭を下げ王に発言の許可を求める。
「カールソン嬢の発言を許可する」
エマの登場に心なしか気配を消していた騎士達さえ緊張感が薄らいだ様に感じる。
「感謝致します。この度は国王様、王妃様、そして騎士団の方々に多大なるご迷惑をお掛けしましたこと、改めてお詫びさせて頂きます」
「かまわん。それよりも其方がなぜ行方をくらまし、草原の川で倒れていたのか、その経緯を話してくれ」
エマの謝罪に少しは気を落ち着かせたのか、咎めることなく話の続きを促された。
「はい。国王様は『調教薬』という薬をご存じでしょうか?」
「調教薬・・だと?」
聞き覚えのない言葉に王は疑問の声を上げるが、アイラだけは声を出さずに物知り顔で頷いていた。恐らくアイラの領地でも牛を手名付ける際に使っていたのだろう。
「はい、主に動物を調教するために使われる香薬です。基本的に家畜にされる動物は時間を掛けて手懐けるか、もしくは生まれながら家畜として扱われる事で人に従います。ですが時には気性が荒く、人の手には負えない動物もいるのです。その際に使われるのが『調教薬』です。動物にしか感知できない香りを発し、人でいう惚れ薬の様な効果を発揮することで主人に従う仕組みとなっております」
「・・・っ」
一瞬後ろから消えたはずのノアの気配を感じたが、今は無視をしておく事にした。
「ほぉ、便利な代物だという事はわかったが、それが今回の件にどんな関係がある」
肘掛けに頬杖を付き話の先を促すリアム王は、少々興味をそそる話だったのかどことなく機嫌がよさそうだ。
「この調教薬。取り扱いが大変難しく、量を間違えれば凶器にもなります」
エマの言葉にエミリアがはっと我に返り先程まで下に向けていた視線が徐々にエマの方へと向き始める。
その隣でアイラが力強く頷いている。事件の顛末は知らないが、調教薬の知識について同意しているのだろう。
「通常は原液を水で希釈し、薄めた液体を布に湿らせてから数秒間嗅がせて使用するもの。これを原液で吹きかけられた私は、領地から遠く離れた場所に現住する猛獣達に襲われ巣へと連れて行かれました。」
「「「「「は??」」」」」
気品の溢れる王妃様、気配を消すことに長けた騎士、そして、高潔な王でさえ皆一堂に驚愕の表情を浮かべ口を開いた。
一人アイラだけが合点が行った表情で頷いていた。




