13.呼び笛
騎士達が掲げる松明の明かりだけが、暗闇に包まれる湖を照らしている。
昼間は美しい装飾品で彩られた華美な会食場も、今では鎧を身に着けた男達の存在が物々しい雰囲気へと変えている。
「一体どうなってる!!」
屈強な男達の中でも圧倒的なオーラを放つ若き王が落雷の様な怒鳴り声を上げる。
日が沈んでも戻らないエマを不審に思ったノアは、その旨を王へと報告した。王は直ちに騎士を招集し捜索を始めたが、数時間探してもエマ本人どころか手掛かりすら掴めない状況に王の怒りは頂点へと達したのだ。
そしてその怒りの矛先は、恐らく今回の事件に関わっているだろう令嬢3人に向けられた。
「わ、わかりません、私達には、、本当に」
王妃と失踪には無関係と思われるアイラは王の命令により城へと帰されたのだが、エマの行方を尋ねたところ明らかな狼狽を見せたエミリアと2人の令嬢は、王に嫌疑を掛けられその場に残る事を命じられたのだ。
王の怒りを前にただ震える事しかできない令嬢を庇う者は一人もおらず、王の隣で侮蔑の視線を投げかけてくるノアの表情も険しい。
「王の前で虚言を吐くことは罪となります。罰を受ける覚悟はおありですか?」
王とノア、二つの端正な顔が松明の明かりに照らされる。二人に視線を向けられた令嬢は、いつもなら頬を染め、歓喜の声を上げていたが、この時ばかりは一層顔を青くし震え上がった。
「・・・っくそ、埒が明かない!いいか、カールソン嬢は馬を使っていない!そう遠くには行けないはずだ!各自連携を取って領地を探せ!」
「「「「っは!!」」」」
震えるだけで何も答えようとしない令嬢に痺れを切らし、王自ら騎士に指示を出す。
「私はもう少し遠くまで走ってみます。この暗闇です、誤って湖とは反対に歩いている可能性もありますので」
「ああ、頼んだ」
馬を走らせるノアの背中を見送くったリアム王は、エミリア達を鋭い視線で睨みつける。
(やはり、見せしめは必要か)
度重なる令嬢達の衝突をこれ以上見過ごせないと判断したリアム王は、厳しい処罰を彼女達に与える事を決めていた。
(う、動けない・・・)
湖から数キロ離れたところに、猛獣たちが暮らす岩場から草原へと繋がる川が流れている。岩場付近は水量が多く、底が深い川であったため、流されながらも草原へ辿り着くことが出来た。
しかし、草原へ入ると川が分岐する影響か、水量が減り、人を流すほどの勢いが無くなってしまうのだ。
その浅瀬にずぶ濡れになって身動きの取れなくなったエマがいた。
(獣たちは撒けたけど、さすがに体力の限界だ)
エミリア達に付けられた調教薬の臭いを消し、かつ徒歩よりも早く岩場を抜ける手段として、目の前を流れる大河へと身を投げたのだ。
乗馬用の服を着ていたので動きやすく、どうにか流されながらも泳いで来れたのだが、草原に入った途端浅瀬になってしまい、さらに泳ぎ疲れて体力を消耗したため歩くことすら出来なくなってしまった。
(月明かりで周りは見えるが、湖の建物は見えないな)
運のいい事に今日は満月のため、辺りは月の光で照らされていたが、見えてくる景色はどこまでも続く草原だけだった。
(捜索はしてくれているだろうが、ここまで来くるだろうか?王が騎士を派遣してくれればよいのだけど・・・あ、騎士)
ふと、エマの行動を咎める不機嫌そうな美しい騎士の顔が思い浮かんだ。
あれだけ外へ出るなと忠告されたにも関わらず、散々な結果になってしまった事に申し訳なさと羞恥が心に浮かんだが、体裁を気にできる余裕などない。
震える手で首元の紐を掴み、その先にある金の呼び笛を口へと運ぶ。そして大きく息を吸い、
(頼む!!)
ピィーーーーー・・・・
エマの鳴らした呼び笛は草原中に響き渡った。
ピィーーーーー・・・・
息を吸い、笛を吹く。寒さで唇が震え、笛が口から何度も落ちる。その度に疲労で痺れる手で拾い上げ、何度も何度も吹き続けた。
(頼む!!もう限界だ・・・意識が・・・)
どれだけ吹き続けたのか、寒さすら感じない体が動かなくなり、そして段々と意識が朦朧とし始める。
(ああ、もう・・・だ、め)
「おい!目を開けろ!」
意識が途切れるその時、強い力で抱き上げられた。
「カールソン嬢!目を閉じるな!おい!・・・っくそ!!」
エマが思い浮かべた美しい騎士は、必死の形相で自らのマントを剥ぎ、エマのずぶ濡れの体を包み込む。
そしてエマを抱えながら馬へ乗ると、エマを前へと座らせ自分の体を密着させてから互いの腰を縄で縛り固定させる。
「すぐに城に向かいます!どうか耐えてください!!」
意識を失い返事のないエマの体を後ろから支えながら、荒々しく馬を走らせ城へと向かったのだった。




