第7話 世界を救った俺、処分されるそうです
「カイ……!」
黒い煙の奥からフェルマが走ってきた。
「おう、フェルマ。無事だったか?」
「……カイ?」
フェルマは俺の顔を見て、足を止めた。
「……生きて、いますの?」
「見てのとおりだぞ」
俺の後ろから、もう3人の俺が顔を出した。
「こっちも無事だ」
「リスティたちも守れたぞ」
「いやあ、危なかったな」
俺たちの声を聞いたフェルマは、泣きながら抱きついてきた。
「よかった……、本当に……!」
「お、おい。どうしたんだよ」
「また、あなたを失ったのかと……!」
フェルマの手が震えていた。リスティも俺の腕をつかんだ。
「カイが、あたしたちを守ってくれたの……」
俺たち4人は、リスティとジルドレを囲んで爆発を防いだ。背中の腕は何本か吹き飛んだが、もう生えてきている。
「大丈夫だって。痛くないし、すぐ治るからさ」
俺が笑うと、フェルマは俺の背中を見てまた泣き始めた。
「どうして、また自分を犠牲にするのですか……」
「いや、俺たちなら治るしな」
「そういうことでは、ありませんわ……!」
フェルマは俺の腕を強く握った。
そのとき、研究所の門から兵士たちが入ってきた。
「カイ・アルベルト!」
先頭の男が剣を向けた。
「国王陛下の命令により、貴様ら4人を処分する!」
「……処分?」
「増殖を続ける貴様らは、王国にとって危険な存在だ!」
俺は頭をかいた。
「まあ、言いたいことは分かるけどさ。止める方法を調べてるところなんだよ」
「問答無用!」
男が手を上げた。後ろに並んだ魔術師たちが杖を構える。赤い光が集まり始めた。
「また爆発魔法か」
俺は息を吐いた。俺たち4人は顔を見合わせた。
「どうする?」
「防ぐか?」
「3人を先に逃がそうぜ」
「それがいいな」
俺はフェルマを振り向いた。
「フェルマ。リスティとジルドレを連れて下がってくれ」
「……何をするおつもりですの?」
「俺たちで壁になる」
「また、あなたが?」
「大丈夫だって。俺たちは再生するんだからさ」
フェルマは俺の腕を離した。
「……いいえ」
そう言って、俺たちの前に飛び出した。
「フェルマ?」
フェルマは聖剣を抜き、魔術師たちに向けた。
「……爆発魔法を撃つのであれば、私が相手になりますわ」
兵士たちがざわついた。
「王女殿下、お下がりください!」
「下がりません」
「国王陛下の命令です!」
「私の仲間を殺す命令には、従えませんわ」
魔術師たちの杖が震えた。
「勇者様に、魔法を撃つわけには……」
隊長が怒鳴った。
「構わん! 撃て!」
「……撃たせませんわ」
フェルマが聖剣を振った。金色の光が地面を走り、魔術師たちの足元を割った。杖を持った兵士たちが倒れ、集めていた魔力が消えた。
「……ひっ!」
「……撤退だ!」
兵士たちは後ろへ下がった。フェルマは追いかけなかった。聖剣を握ったまま、俺たちの前に立っている。
「……カイ」
「ん?」
「もう、あなたを殺させません」
俺はフェルマの背中を見つめた。
「ありがとうな」
フェルマは振り向かなかった。
「お礼など、いりませんわ」
声が震えていた。
「あなたが生きていてくだされば、それでいいのです」
兵士たちが去ったあと、俺は3人に話をした。
「俺たち、王都を出ようと思う」
フェルマが顔を上げた。
「王都を?」
「ああ。ここにいたら、またあいつらが来るだろ」
俺はほかの3人の俺を見た。全員が頷いた。
「俺たち4人で逃げるよ。フェルマたちは王都に残ってくれ」
リスティが俺の服をつかんだ。
「……え?」
「俺たちについてきたら、3人まで王国に追われることになる」
俺は笑った。
「みんなは悪いことしてないんだからさ」
フェルマの顔が青くなった。
「……カイ。私たちを置いていくおつもりですの?」
「置いていくっていうか、巻き込みたくないんだよ」
「私は、あなたの仲間ですわ」
「分かってるよ。だからこそ、残ってほしいんだ」
フェルマは唇をかんだ。ジルドレが俺の前に立った。
「……私は行く」
「ジルドレ」
「お前を1人にはしない」
「いや、4人いるんだけどな」
俺が笑っても、ジルドレは笑わなかった。リスティも首を横に振った。
「あたしも行く……」
「リスティまで?」
「もう、カイと離れたくない……」
リスティは俺の腕にしがみついた。
「お願いだから、置いていかないで……」
俺は困ってしまった。
「でもさ、俺たち、これからもっと増えるかもしれないんだぞ。研究所のじいさんが言ってただろ。世界中が俺だらけになるって」
俺たち4人は顔を見合わせた。さすがに、それは困る。人類の害悪でしかない。魔族の方がまだマシってもんだ。
「だから、何とかして増えるのを止めたいんだ」
フェルマが尋ねた。
「止める方法が、見つからなかったら?」
「そんときは……」
俺は少し考えた。
「……どうにかして、自殺するしかないかな」
リスティの手が止まった。
「……え?」
「だって、俺たちが増えすぎて、世間に迷惑かけるわけにはいかないだろ」
俺は頭をかいた。
「今の身体、なかなか死ねないみたいだけどさ。何か方法があるかもしれないし」
フェルマが俺の腕をつかんだ。
「……自殺すると、おっしゃいましたの?」
「ああ。最悪の場合はな」
フェルマの顔から血の気が引いた。
「いや、まだ決まったわけじゃないぞ。できれば生きていたいしな」
俺は笑った。
「せっかく痛みもなくなったんだからさ」
フェルマは俺の腕を握り締めた。
「お願いです……。もう、そんなことを言わないでくださいませ……」
涙がこぼれた。
「あなたを殺してしまったのは、私なのです……」
「いや、あれは俺が頼んだんだろ」
「それでも……!」
フェルマは俺の胸に顔を押しつけた。
「もう2度と、あなたを死なせたくありません……!」
リスティも泣き始めた。
「やだ……、カイが死ぬなんて、絶対やだ……!」
「お、おい。落ち着けって」
「あたしも行く……! ずっと一緒にいる……!」
ジルドレが俺の肩をつかんだ。
「……カイ。自分を殺す方法など、探すな」
「でも、増え続けたら困るだろ?」
「……増殖を止める方法を探せ」
ジルドレは俺を見つめた。
「私も手伝う」
フェルマが顔を上げた。
「私も、一緒に行きますわ」
「いや、フェルマは王女だろ。国に残らないと」
「私は、すでに国王陛下の命令に逆らいました」
フェルマは涙をぬぐった。
「あなたを守るためなら、王女の立場など捨てますわ」
「……フェルマ」
「どうか、私も連れていってくださいませ」
リスティも、ジルドレも、俺を見つめていた。3人とも、譲る気はなさそうだった。俺はほかの俺たちを見た。
「どうする?」
「ここまで言ってくれてるんだぞ」
「一緒に行くしかないだろ」
「俺たちも、3人がいたほうがうれしいしな」
俺は頷いた。
「……分かったよ」
3人の顔を見た。
「じゃあ、みんなで逃げようぜ」
リスティが泣きながら抱きついてきた。
「うん……!」
フェルマも、ようやく少し笑った。ジルドレは俺の肩から手を離した。
「……決まりだな」
俺は頷いた。
「おう。まずは増殖を止める方法を探そう」
その日のうちに、俺たちは王都を離れた。フェルマが知っていた古い屋敷に泊まることになった。でも、すぐ見つかるだろうからまた明日には移動かな。王国軍に見つからないよう、森の中を通って移動した。俺たち4人が荷物を持ったので、移動は楽だった。
「いやあ、4人いると便利だな」
「荷物を分担できるから負担も少ない」
「見張りも交代できるぞ」
「明日はもっと楽になるかもな」
俺たちが笑うと、フェルマが振り向いた。すまん、笑えないな。
屋敷に着いてからも、3人は俺たちのそばを離れなかった。フェルマは俺の手を握り、リスティは隣に座り、ジルドレは俺に背中をくっつけていた。
「……カイ」
寝る前に、フェルマが俺を呼んだ。
「ここにいてくださいませ」
「当たり前だろ」
「……勝手に、いなくならないでください」
俺は頷いた。
「分かった。約束する」
フェルマは俺の手を握り直した。
「……ありがとうございます」
翌朝。
「……おい、起きろ」
誰かが俺を呼んだ。
「……んあ?」
俺は目を開けた。目の前に、俺がいた。
「……何だよ。朝か?」
「朝だ」
「もう少し寝かせてくれよ」
「いや、それどころじゃないぞ」
俺は身体を起こした。
「……何だ?」
目の前の俺が、部屋の中を指さした。
「増えた」
俺は部屋を見回した。俺がいた。窓のそばにも、扉の前にも、机の横にも。部屋のあちこちに俺がいた。
「……おいおい。やっぱりかよ」
俺は思わず笑った。
「……何人いるんだ?」
「16人だ」
俺は数えてみた。確かに16人いる。
「……仮説通りか」
別の俺が頷いた。
「昨日の4倍だぞ」
「いやあ、増えたな」
「……これは、今日中に増殖止める方法を考えないと」
俺たちは顔を見合わせた。
「……カイ?」
フェルマが目を覚ました。
「おはよう、フェルマ」
「おはようございます」
「よく眠れたか?」
フェルマは口を開けたまま、動かなくなった。
「…………」
「16人になったぞ」
リスティとジルドレも目を覚ました。2人とも、予想していたもののすぐには受け入れられないようだ。見た目のインパクトがなあ。
「明日は……、256人になるの……?」」
リスティが小さな声で尋ねた。
2人から4人。
4人から16人。
「……たぶんな」
「その次は、65,536人……」
ジルドレが低い声で言った。
「さらに次の日には、約43億人だ」
部屋が静かになった。
俺は自分の手を見た。痛みはない。身体も元気だ。なんなら魔力も、以前より強くなっている。俺はほかの俺たちに声をかけた。
「……どうすりゃいいんだろうな」
誰も答えなかった。俺たちは16人もいるのに。その答えを知っている俺は、1人もいなかった。




