↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺が戦えなくなった日、パーティーが壊れた  作者: 座間あぜん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

第5話 増殖する俺

「……あれ?」


目を開けると、青い空が見えた。俺は地面に寝転がっていた。起き上がろうとすると、背中から生えた腕が地面を押した。


「おお、動くぞ」


首を伸ばして自分の身体を見下ろした。腕は以前よりむしろ増えていた。というか、増やしたり減らしたりできるんだが。足も変な方向に曲がっているし、腹からは大きな肉の塊が出ている。魔力回復薬を飲みすぎて、化け物になったときの姿が限界突破していた。


でも、何だか調子がいい。


「ていうか……あれ? 痛くない?」


腕を動かしてみた。足も動かしてみた。どこも痛くなかった。あんなに苦しかったのに、今は何ともない。


「おお、治ったのか?」


いや、見た目は全然治ってないけどな。


俺は周りを見た。地面には大きな穴が開いていた。黒く焦げた土が広がり、割れた石が転がっている。


そうだ。ここは王国軍の実験場だ。


俺はここで、100人の魔術師に爆発魔法を撃たれたんだった。身体が全部吹き飛んで、意識も消えた。あれで死ねたと思ったんだけどな。


「……俺、生き返ったのか?」


自分の胸を触ってみた。ちゃんと心臓が動いている。それに、声も出る。


「おーい!」


試しに大きな声を出してみた。ちゃんとしゃべれるぞ。


「……マジか」


これなら、みんなとも普通に話せそうだ。そう思っていると、穴の上から声が聞こえた。


「……カイ?」


見上げると、フェルマが立っていた。銀色の長い髪を風になびかせ、紫色の目を大きく開いている。その後ろには、リスティとジルドレもいた。


フェルマの目は赤く腫れていたし、リスティは泣きながら口を押さえている。ジルドレも、いつもの落ち着いた顔ではなかった。


「おお、みんな。久しぶりだな」


俺は手を振った。すると、フェルマが穴の中へ飛び降りてきた。


「カイ……!」

「うおっ!」


フェルマは俺に抱きついた。


「……生きて、……生きていたのですね……!」

「ああ。何だか生き返っちまったみたいだ」

「ごめんなさい……!」


フェルマは俺の胸に顔を押しつけた。


「……私が……私が、あなたを殺してしまったのに……!」

「いや、俺が頼んだんだろ?」

「それでも……!」


フェルマの身体が震えていた。俺は背中から生えた腕で、彼女の頭をなでた。


「ほら、もう平気だって。痛みもなくなったし、普通にしゃべれるぞ」


フェルマが顔を上げた。


「痛みが……?」

「ああ。全然痛くない」

「……本当ですの?」

「本当だって」


俺は腕を動かしてみせた。背中から生えた余分な腕も、ちゃんと俺の言うことを聞いた。


「前は勝手に動いてたけど、今は自由に動かせるんだ」


フェルマは俺の腕を両手でつかんだ。


「よかった……」


涙がこぼれた。


「本当に、よかったですわ……!」


フェルマはまた俺に抱きついた。


その後ろから、リスティも飛びついてきた。


「カイぃぃぃ!」

「おっと!」


小さな身体が俺の腹にぶつかった。


「痛くないの……? 本当に、もう痛くないの……?」

「ああ。元気だぞ」

「うそじゃない……?」

「嘘じゃないって」


リスティは俺の身体を何度も触った。背中の腕も、曲がった足も、膨らんだ腹も。


「よかったよぉ……!」


リスティは泣きながら俺にしがみついた。


「もう、あんな声を聞かなくていいんだね……!」

「そうだな。俺も助かったよ」

「カイぃ……!」


俺はリスティの頭をなでた。


ジルドレも近づいてきた。大きな身体をかがめ、俺の顔を見つめている。


「……カイ」

「おう、ジルドレ。心配かけたな」

「……本当に苦しくないのか?」

「ああ」

「……どこも痛まないのか?」

「全然」


ジルドレは俺の肩に手を置いた。大きな手が震えていた。


「……そうか」


それから、俺を抱き締めた。


「よかった……」


ジルドレの声が小さくなった。


「もう、苦しまなくていいんだな……」

「ああ。もう大丈夫だ」


俺はジルドレの背中を叩いた。


3人とも、本当に心配してくれていたんだな。何だか申し訳ない気持ちになった。でも、これでまた一緒に冒険できそうだ、とは言えないか。身体がこんな姿になってしまったし。でも、動けるなら問題ないのか。なんなら力がみなぎってくる。人間の頃より強くなってる気がする。


そう思っていると、背中がむずむずしてきた。


「……ん?」


何だ?


背中の肉が動いている。俺は余分な腕を使って背中を触った。すると、大きな肉の塊ができていた。


「……おいおい、また何か生えてきたぞ」


リスティが顔を上げた。


「……え?」


肉の塊は、どんどん大きくなっていった。


「カイ、背中……!」

「分かってるって。何だこれ?」


フェルマとジルドレが俺から離れた。背中の肉が大きく膨らみ、俺の身体から離れた。地面に落ちた肉の塊が動き始める。


そこから腕が伸びた。足も伸びた。頭ができ、顔ができた。


「……は?」


目の前に、俺と同じ化け物が立っていた。背中から余分な腕が生え、足は曲がり、腹には大きな肉の塊がある。顔も、俺と同じだった。そいつは自分の身体を見下ろした。


それから、俺を見た。


「……おい」

「……何だ?」

「……俺がいるぞ」

「……本当だ。俺がいるな」


俺たちは顔を見合わせた。


「……お前、誰だ?」

「カイ・アルベルトだけど」

「俺もカイ・アルベルトなんだが」

「……じゃあ、俺たち同じ人間なのか?」

「いや、知らねえよ」


フェルマたちは固まっていた。リスティが俺たちを交互に見た。


「カイが……、2人……?」

「そうみたいだな」


もう1人の俺も頷いた。


「俺も驚いてるぞ」

「どっちが本物なの……?」

「俺だろ」

「いや、俺だろ」


俺たちは同時に答えた。


「……えええええ!?」


リスティが叫んだ。


俺も叫びたい気分だった。




「……信じられません」


白衣の老人が俺たちを調べながら言った。王立魔法研究所の研究員。実験場の近くにある建物へ移動し、俺たちは並んで座っていた。老人は俺たちの身体に手をかざし、魔力を調べていた。


「……まったく同じ魔力反応です」

「そりゃ、俺だからな」

「俺も俺だしな」


老人は困った顔をした。


「……記憶も同じなのですか?」

「そうみたいだな」


俺は答えた。もう1人の俺も頷いた。


「魔王を倒したことも覚えてるぞ」

「フェルマと小さい頃に遊んだこともな」

「リスティが料理を焦がしたことも」

「ジルドレが酒を飲みすぎて吐いたことも」

「ちょっとぉ! そんなことまで言わなくていいでしょ!」


リスティが顔を赤くした。ジルドレは咳払いをした。


「……私の話もするな」


俺たちは笑った。だが、老人は笑わなかった。


「……では、こちらのカイ殿。今から私が何をするか、覚えておいてください」


老人はもう1人の俺に小さな紙を見せた。そこには数字が書かれていた。俺はその紙を見ていない。なのに、数字が分かった。


「……37か?」


老人が驚いた。


「……正解です」

「おお、すげえ」


もう1人の俺が笑った。


「俺が見たもの、お前にも分かるんだな」

「便利だな、これ」

「……便利で済む問題ではありません」


老人は顔を青くした。


「……お2人は、別々の意思を持っています。しかし、記憶だけは共有されているようです」

「へえ」

「……しかも、身体には異常な再生能力が残っています」


老人は俺たちの背中を調べた。


「……この能力が、増殖を起こしているのでしょう」

「増殖?」

「……はい。カイ殿の身体が、新しいカイ殿を作り出しているのです」


俺はもう1人の俺を見た。


「……お前、俺から生まれたのか?」

「知らねえよ。俺だって気づいたらここにいたんだ」

「まあ、俺もそうなんだけど」


老人は大きく息を吐いた。


「問題は、これからも増える可能性があることです」

「……え?」


フェルマが老人に近づいた。


「どういうことですの?」

「このまま増殖が続けば、カイ殿の人数が増えていくかもしれません」

「何人くらいだ?」


ジルドレが尋ねた。老人は首を振った。


「……まだ分かりません。調べる必要があります」


俺は自分の身体を見た。背中から生えた腕が、ちゃんと動いている。痛みもない。死ぬほど苦しかったのが嘘みたいだ。


「まあ、増えるくらいならいいんじゃないか?」


もう1人の俺も頷いた。


「そうだな。人手が増えるし」

「……カイ」


フェルマが怖い顔で俺たちを見た。


「少しは心配してくださいませ」

「いや、だって痛くないし」

「俺も元気だぞ」

「そういう問題ではありませんわ……!」


フェルマは頭を抱えた。






その日の夕方。


俺たちは研究所の部屋で休んでいた。フェルマは俺たちの前に座り、ずっと顔を見つめていた。リスティは俺の腕をつかみ、もう1人の俺の腕もつかんでいた。


ジルドレは扉の前に立っていた。


「……なあ、フェルマ」

「……何ですの?」

「そんなに見つめられると、照れるんだけど」

「……見ていたいのですわ」

「え?」


フェルマは俺の顔に手を伸ばした。


「また、いなくなってしまうのではないかと思うと……」


その手が震えていた。俺はフェルマの手を握った。


「大丈夫だって。もう痛くないし、元気なんだから」

「……はい」


フェルマは小さく頷いた。


リスティも俺の腕に顔を押しつけた。


「カイ、もう死なないでね……」

「たぶん、死にたくても死ねねえよ」

「ごめん……」


しまった。余計なことを言ってしまったか。


「いや、謝んなよ」

「約束だよ……?」

「ああ、約束する」


もう1人の俺も頷いた。


「俺も約束するぞ」


リスティは2人の俺を見つめた。


「2人とも、2人とも? 絶対だからね……」


ジルドレが近づいてきた。


「……カイ」

「ん?」

「お前がどんな姿でも、私は気にしない」

「おう」

「生きていてくれれば、それでいい」


ジルドレは俺の肩に手を置いた。


「……もう、失いたくない。それだけだ」


俺は笑った。


「大げさだな。俺はここにいるだろ」

「……ああ」


ジルドレは頷いた。だが、手は離さなかった。




問題は、次の日に起きた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。