第3話 爆発魔法
「……全魔術師、爆発魔法の準備が完了しました!」
王都から離れた軍の実験場に、100人の魔術師が集まっていた。全員が俺に杖を向けている。俺は実験場の中央に寝かされていた。
「ぐぁあああああッ!」
身体が痛い。腕も足も、背中も腹も、全部痛い。魔力回復薬のせいで変わってしまった身体は、今も勝手に動いていた。背中から生えた腕が地面を叩き、曲がった足が何度も跳ねる。止めようとしても止まらない。
俺はもう、自分の身体をほとんど動かすことさえできなかった。
フェルマに心臓を刺してもらったときは、これで終われると思った。
でも、死ねなかった。心臓は勝手に元に戻り、痛みが増えただけだった。だから今度は、身体を全部吹き飛ばすことになった。
骨も、肉も、血も、何も残さない。それなら、さすがに死ねるだろう。
「……カイ」
フェルマが俺のそばに膝をついた。銀色の長い髪が乱れ、紫色の目は泣きはらして赤くなっていた。
「……今度こそ、終わらせてあげますわ」
彼女は俺の手を握った。
「……私が、あなたを殺す命令を出します」
声が震えていた。
「幼い頃から、ずっと私を助けてくれたあなたを……」
フェルマは俺の手に額を押しつけた。
「……ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい……」
謝るなよ。むしろ感謝してる。お前は悪くない。
「ぐるる……」
声を出そうとしたが、うまくいかなかった。フェルマは顔を上げた。
「カイ……?」
俺は彼女の手を握り返そうとした。だが、指は動かなかった。フェルマはまた泣き出した。
「もう、頑張らなくていいのですわ……」
リスティも近づいてきた。桃色の髪を2つに結んだ小さな治癒師は、俺の顔を見るなり涙をこぼした。
「カイ……」
リスティは俺の腕に触れようとして、手を止めた。
治癒魔法を使うたび、俺の身体はひどくなった。だから、もう治療はできない。
「あたし、治癒師なのに……」
リスティは自分の手を見つめた。
「カイの怪我、1つも治せなかった……」
そんなことないぞ。お前には何度も助けられた。
「ごめんね……」
リスティは泣きながら、俺の手をそっと握った。
「もう痛くなくなるからね……」
その後ろには、ジルドレが立っていた。大きな身体を黒い鎧で包み、いつも使っている盾を持っている。だが、今日は俺を見ようとしなかった。
「……カイ」
ジルドレが低い声で言った。
「……私は、お前を守ると決めていた」
彼女は盾を強く握った。
「なのに、最後はお前を……」
ジルドレは顔を上げた。頬を涙が流れていた。
「……すまない」
俺は3人を見た。みんな、ひどい顔をしている。申し訳ないぜ。俺が魔力回復薬を飲みすぎたせいで。
でも、もう限界だった。早く終わらせてほしかった。
「……勇者様」
白衣の老人がフェルマに声をかけた。
「……魔術師100人による同時攻撃です。彼の肉体を完全に消し飛ばす威力があります。本当によろしいのですね」
「……ええ。それより、確実なのでしょうね」
「肉体がすべて失われれば、再生することもできないはずです」
老人は俺を見た。
フェルマはしばらく黙っていた。それから、俺の手を離した。
「……分かりました」
彼女は立ち上がった。
「全員、退避してくださいませ」
リスティが俺の手を握り締めた。
「待って……。あと、ちょっとだけ……」
リスティは俺の顔を見た。
「カイ、あたしたちのこと……。嫌いにならないでね……」
何言ってるんだ。嫌いになるわけないだろ。
「あたし、カイを助けたかったんだよ……。ほんとに」
リスティの涙が俺の腕に落ちた。彼女は俺の手を自分の頬に当てた。
「ごめんね、カイ……」
ジルドレがリスティの肩を抱いた。
「……行くぞ」
「……うん」
リスティは何度も振り返りながら離れていった。フェルマも最後まで俺を見ていた。
3人が結界の外へ出る。
俺の周りには100人の魔術師が並んでいる。全員が杖を向けた。
「……全魔術師、構え!」
魔術師たちの杖に光が集まる。赤い光がいくつも重なり、実験場の中央を照らした。俺はその光を見つめた。
もうすぐ終わる。ようやく、この痛みから解放される。
フェルマが右手を上げた。
「……カイ!」
遠くから声が聞こえた。
「さようなら……」
彼女の手が下がる。
「……放て!」
100人の魔術師が、同時に爆発魔法を放った。赤い光が俺に向かって飛んでくる。
俺は目を閉じた。
ありがとう、みんな。
もう、自分を責めるなよ。
光が身体に当たった。大きな爆発が起きた。腕も、足も、胸も、頭も、全部吹き飛んだ。俺の身体は跡形もなく消えた。痛みも消えた。音も聞こえなくなった。何も見えなくなった。
そして、俺の意識も消えた。




