4「桜野美海子について」
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本書で初めて〈桜野美海子シリーズ〉に触れる読者もいることだろう。少し遅くなってしまったけれど、ここで我らが名探偵についても簡単に説明しておこうと思う。
桜野美海子。十九歳。
高校卒業後、大学には進学せずに個人で探偵事務所を開業し、今年で二年目。
ただしその名前は、彼女がまだ中学生のとき、人形師連続失踪事件という一大怪事件を解決したことにより全国に轟いた。それだけではない。筋金入りの探偵小説ジャンキーである彼女は、中学や高校に通いながら、自らも探偵として並外れた行動力を発揮した。小説の中に飽き足らず、貪欲に謎や事件を求めたのだ。そして彼女には才能があった。ほとんど毎週末、全国各地を飛び回っては、数々の難事件を次から次に解決へと導いていった。
天地総一郎に負けず劣らず、彼女もまた早熟の天才だった。
幼馴染の僕は、その活躍をずっと見続けてきた。特に〈謎を解く〉ということに関して、彼女ほどに傑出した人間が他にいるのだろうか?
彼女に解けなかった謎は、ひとつだって存在しない。
そんな天才の隣で、凡人の僕にできるのは、その活躍を小説にすることであった。有難いことに、さながら桜野がシャーロック・ホームズ、僕がワトスンという構図で現実の事件を綴る〈桜野美海子シリーズ〉は現在、累計二百万部突破の人気シリーズとなっている。もちろん作家としての僕の力量は三流も甚だしいので、それだけ桜野の探偵ぶりが魅力的というわけだ。おかげで同じく高卒の僕も小説だけでご飯が食べられている。
桜野はいつも面白そうな事件があると僕を連れて行ってくれる。昨日も僕は新作長編を脱稿した後でぶらりと彼女の事務所に赴き、そこで彼女から急に問い掛けられた。
「塚場くん、天地総一郎とその家族に興味ある?」
はじめは雑談だと思った。彼女は話題の重要度や深刻度によって語調を変えるということをしないのだ。自分の好きな話だけは露骨に興奮を表すのだが。
「ああ、血の繋がってない家族なんだよね。どこかの山に閉じこもって生活してるんだっけ? 正直、そっちの話はあまり追ってないんだ。天地総一郎の小説は好きなんだけど」
「じゃあ一緒に来なくていいね」
「え? 桜野、天地総一郎のところに行く予定があるのか?」
「そうだよぉ。怪文書が届いたんで調べてほしいって依頼が来たんだ」
「いやいや、そういうことなら話は別だよ」
こうして僕の同行が決まったのだった。
急いで帰宅して荷造りを済ませ、天地家の周辺情報を調べていると日付が今日に変わり、ろくに眠れていないまま朝を迎えた。そして〈桜野美海子探偵事務所〉の前で桜野と合流し、新幹線と電車を乗り継いで天地邸のある山の麓まで行き、予約しておいたタクシーに乗ってから一時間と数十分後――現在に至る。




