92. 移動
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」
「おう。」
リリに見送られ、いつも通りに屋根の上を走る。
レオはニヤニヤとしている。
この日が来てしまった。
剣術大会、俺の実力が世に知れ渡ってしまう。
いや〜、困ったもんだ。
とうとう俺も人気者か〜。
学校に着くと、馬車があった。
これに乗るのだろう。
俺は馬車に乗り慣れているからな。
何も思わないぞ。
もはや俺は貴族なのかも知れない。
確か、体育館集合だった。
ギィ
「おっ、来たな。」
体育館に入ってすぐ、剣士部の部長と目が合った。
他にも3人いる。全員男だ。
みんなで集まって座っている様子から全員が剣士部の部員なのだろう。
と言うことは、俺以外は全員剣士部なのか。
「これで全員か?」
「ああ、そうだ。もう出発してしまおう。」
俺含めて5人で大会に出るのか。
絆とか必要な大会じゃないよな?
俺達は外に出て、馬車に乗った。
意外と狭いな。
ぎゅうぎゅうじゃないか。
「おい、もっと詰めろよ。」
「無理だ、そんなの。」
わちゃわちゃと騒いでいる。
同じ部だもんな、仲がよろしいことで。
俺を含めてみんな黒髪だから、部長の金髪がよく目立つ。
そしてイケメンだ。
金髪はイケメンが多いのか?
剣術大会と言うことで、俺は混合剣術を披露しようと思っている。
俺流拳は出番無しだ。
剣術大会だからな。
普通に殴ったりしてもいいのだろうか。
まあ、俺はそれが許可されていたとしても使うつもりはない。
なんせ、剣術大会だからな。
「なあ、剣士部の人しかいないようだけど、やっぱり剣士部の人達が一番強いのか?」
「いや、そんな事はない。剣士部の人よりも強い人は沢山いるよ。ただ、そういう人達は大会に出てくれないんだ。家が厳しいんじゃないかな。」
「へー、」
家が厳しいと言うことは、相当な貴族だということか。
たしかに、環境がいいと強くなりやすいと思う。
当の本人は大会に出たいと思っているのだろうか。
大貴族は制限が多くて可哀想だ。
「大貴族は専属の先生がいるんだ。だから強くなるのは当たり前なんだ。それなのに上からものを言いやがって、俺たちだって先生が常にいたら努力してるわ。」
「ホントそうだよな。」
「ムカつく奴らだ。親のおかげのくせに。」
この人達は貴族が嫌いみたいだ。
この学校に入れるからコイツらも貴族だと思うけど。
部長だけは微笑んでいるだけだ。大人だな。
「大会に出ない本当の理由は知ってる?」
部員の人がレオに質問する。
「分からん。」
「それはだな、大会に出るのが怖いからだ。自分の本当の実力が分かっちゃうんだよ。だから忙しいとかの理由を言う奴らは嘘だ。専属の先生と戦うだけが戦闘ではないんだ。」
「それな。」
「弱虫がよ。」
「...」
大変だな、部長さん。
何か貴族の人に嫌がらせでもされたんだろうか。
この人達は恨みがすごいな。
大貴族と言うのは大抵が特別生だろう。
俺も特別生なんだけど、大丈夫だろうか。
いきなり刺してきたりしないよな?
部長さん、止めてくれよ?
「俺は貴族じゃないぞ。」
「ああ、知ってるよ。若くして超級冒険者なんだろ?
スゲーな。」
「お前は有名だぜ?庶民の勇者だってなってる。」
「女からも好かれてるんじゃないか?」
「え?」
俺って、そんなに知られていたのか。
しかも好印象じゃないか。
思っていたのと違うな。
「学校の女の人から好かれたことはない。」
「告白とかは?」
「ない。」
「「あ〜...」」
ん?
なんだその納得したみたいな反応は。
意味が分からない。
リリとアルシアは、俺を好印象だと思っていてほしい。
なんか...セルロスみたいで気持ち悪いな、俺。
「まあ、レオ。お前は告白されることはないだろうが、
好かれているのは事実だ。胸を張れ。」
「お、おう。」
慰めのつもりか?
まさか、煽ってるんじゃないだろうな?
いかん、変な事を考えてしまう。
このイケメンを嫌な奴にしようと考えてしまう。
直ちに直さなければ。セルロスみたいになってしまう。
「お前らも、胸を張って強くしろよ。大会なんだから。
昇級も出来る重要な機会だ。」
「「はい。」」
部員は部長の顔を真剣な表情で見て、短く返事をした。
「昇級?」
「レオは知らないのか?剣術を見てくれる人が来るから昇級が出来てしまうんだ。一気に超級剣士になれるかも知れないぞ。」
「マジか...」
俺は今日、都市級剣士になるのか。
いや〜、参っちゃうね。
もうルベリア王国の代表の一人じゃないかよ。
それからも主に愚痴を部員が話し、馬車が止まった。
「みんな降りろ。」
ギィ
ここもまたデカい場所だな。
円状になっている壁があり、穴が空いていてスカスカだ。暑いのかな?
目の前には入り口があり、奥には砂の地面が見える。
おそらく、そこで戦うんだろう。
入り口に扉はない。
全体的にスカスカだ。
相当暑いのだろう。
「ここがコロシアムだ。凄いだろ。」
部長がニヤリと笑う。
「ああ、デカい。」
ここで皆が俺の存在を知ることになるのか。
すごい楽しみだ。
絶対、俺が一番強いし。
俺以外は、ろくに見ようともせず入っていったので、
何回も来ているのだろう。
ワイワイガヤガヤ
人が沢山いるな。
人気な大会らしい。
真ん中の砂の地面の周りを囲むように階段がある。
これは見やすそうだ。
あっ、皆がどっかに行ってしまう。
レオは皆の後を追った。
よく分からん部屋に着いた。
意外とスカスカではないらしい。
剣とかが置いてあるな。
大会に出る人が休憩をする場所なのだろう。
もちろん俺はいつもの安い剣でいく。
愛用しているからな。
壊れるまで使ってやるよ。
「今のうちにリラックスしておけ。俺達の出番はもう少し後だけどな。」
「「はい。」」
部員の返事が鳴り止むと、皆はゴロゴロし始めた。
「レオ、今から軽く説明させてもらう。」
「おう。」
部長はレオの方に近づいた。
「前も言った通り、レオは副大将として4番手に戦ってもらう。おそらく、始めの方は出番がないと思っておいてくれ。勝った人がそのまま残って、次の人と戦う勝ち抜き戦だ。ルベル学校は1人目から強いからな。」
「分かった。」
「あと、審判が勝敗を決める。寸止め対決だ。
なるべく斬らないように気をつけてくれ。
斬っても攻める人はいないけど。」
「分かった。」
「それだけだ、簡単だろ?是非楽しんでくれ。」
「ああ。」
部長はやる事があるのか、どっかに行ってしまった。
俺はゴロゴロしてようかな。
持ってきたパンでも食べていよう。




