89. セルロスが見たいもの
絵を描く時間は終わった。
満足のいくものは描けなかった。
アイデアが出てこない。
困ったものだ。
「レオ、ちょっといいか。」
「なんだ?」
セルロスが真剣な顔でレオを呼ぶ。
「演劇を見ないか?」
「演劇?いつだ?」
「今からだよ。」
「え?」
「今、演劇部が体育館で練習をしてるんだ。」
演劇か...
俺は演劇の中での音楽にしか興味がない。
でも、セルロスが一緒に見たいのなら行ってもいいな。
別に嫌いな訳では無いし。
「いいぜ、行こう。」
「そう来なくっちゃ。」
セルロスはパッと笑顔になり、一緒に教室から出た。
「俺たちが絵を描いてる時も演劇部は練習してたんだよな?」
「ああ、そうだと思う。」
凄いな。
そんなに一生懸命やっているのか。
俺の記憶では人を馬鹿にしたような演技だった気が
したが、そんな事はないようだ。
決めつけるものではないな。
「実はな...風魔法でスカートをめくりたいんだ。」
「...」
急に何を言い出すんだ。
演劇が見たいわけではないのか。
「セルロスって、風魔法使えたっけ?」
「ああ、基本魔法しか使えないけどな。」
セルロスの勇姿、俺が見届けよう。
死ぬ時は一緒だ。
「俺は陰ながら見守っているよ。」
「ありがとう。心強いよ。」
セルロスは爽やかに笑った。
「あと、もう一つの目的があってだな。」
「まだあるのか。」
「ああ。実は演劇部のある女の子が凄い可愛いんだ。
だから、じっくり見てみたいんだよ。」
普段はじっと見てたら怪しい人だけど、演劇を見ているという体にしたら怪しくないもんな。
一生懸命に演劇を見ている人になる。
考えたな、セルロス。
「もしかして、その子に風魔法を使うのか?」
「ああ、決心はついた。」
セルロスは真剣な顔で、前を向く。
そして、体育館に着いた。
「見学は自由なんだよな?」
「ああ、たぶん。」
ギィ
中に入ると、舞台の上で演技をしている人達がいた。
見学をしている人も、パラパラといる。
俺達だけじゃなくて良かった。
「あの子だ。」
セルロスが指を差した方向を見る。
そこには、金髪の可愛い女の子がいた。
女の子と言っても、俺より年上だが。
確かに可愛い、セルロスはああいう人が好きなのか。
「も〜!!ケビンの馬鹿!!」
「しょうがないじゃないか、キャサリン。」
「私だけを見るのよ。」
「分かっているよ、俺だけの女王様。」
「ちょっと待ったー!!」
「なんだね君は?邪魔しないでくれるかい?こっちは今忙しいんだ。」
「うるさい!俺は、キャサリンが好きだ。結婚してくれ。」
「何を言うんだ!?じゃあ俺も、結婚してくれ!」
「こんなにイケメンな男が私で争って、ぐへっ!グヘヘヘへへへ!」
「...」
なんなんだこの物語は。
途中から来たせいで、目茶苦茶変な展開に思える。
始めから見ていないとついて行けないな。
「セルロス、いつ風を出すんだ?」
「あ〜、もう少ししたら行こうかな。」
「別にやめてもいいんだぞ?」
「いや、俺は男として、やるしかない。」
なんてカッコいいんだ。
一度決心した事はやり抜く。
その精神、嫌いじゃない。
尊敬しているよ、セルロス。
「よしっ!行ってくる。」
「ああ、頑張れ。」
俺とセルロスは熱い握手を交わし、セルロスは舞台に近づいていった。
ん?キャサリン達が舞台から降りてきた。
もう練習は終わったのか?
それとも、休憩だろうか。
セルロスは戸惑い、キャサリンの様子をずっと伺っている。
「良かったよ〜。」
「ありがとう。」
女子達がキャサリンを囲う。
セルロスはジワジワと距離を詰める。
「ちょっといいかい?キャサリン、良かったよ。」
イケメン男が囲いを割って入った。
囲いの女子たちが目をキラキラさせている。
「え〜?ありがとう〜!キャサリン、めっちゃ嬉しい。」
キャサリンは両手を顔に寄せ、手を握り、口を隠す。
「はははっ!次も頑張ってくれ。」
「分かってるわよ。キャサリン、頑張る!」
セルロスはこんな奴がいいのか?
どうも俺とは馬が合わなそうだ。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。」
セルロスが意を決して、囲いを割って入る。
「え!?なんですか〜?...」
キャサリンは凄い可愛い顔をして振り返り、セルロスの顔を見て、あからさまに顔を表情が変わった。
頑張れ、セルロス。
「君の演技はなかなかのものだったよ。」
「っす。」
「ペッ、ペッ、」
「ペッ、ペッ。」
キャサリンは下を向いて力ない返事をし、囲いの人達はセルロスにツバを吐きかけている。
負けるな、セルロス。
「あははははは!!」
セルロスの奴、ツバ吐かれてるんだけど!
目茶苦茶嫌われてるじゃねえか。
これは、風魔法がバレたら凄いことになるな。
「君はとてもか、可愛い...ね。」
「っす。」
「かー、ペッ!」
「いや〜、本当に可愛いよ。デュフ、デュフ。」
ヒュー
キャサリンの短いスカートがひらひらしてきた。
おっ!
セルロスの奴、遂に始めやがった。
「ねえ、あんたキモいよ?分かってる?」
キャサリンが小声で話す。
俺は耳に魔力を集中させる。
「勝手に私で妄想するのはいいんだけど、実際に近づいて来ないでもらえる?あんたみたいなキモい人は、
一生気持ち悪い人生を送るんだろうね。」
「デュ、デュフ...」
「自分の妄想力を凄いと思い込んで、人との違いに優越感を覚えて、自分を特別だと思ってるんでしょ?
妄想と現実をゴチャゴチャにしてるのよ。
あんたみたいな人は、将来も、ろくに稼げず仕事を
すぐに辞めるのよ。それでずっと俺は違うとか思ってるんでしょ?」
「デュ...」
「自惚れんな、カスが。」
「デュ〜!!!」
「「ホホホホホホ!!!」」
セルロスはその場で倒れ、キャサリン軍団はそれを面白がっている。
俺からしてみれば、それだけセルロスについて詳しかったら、キャサリンも同じ思考回路を持っていると思うけどな。
それより今はセルロスだ。
あいつ、大丈夫か?
「...」
あっ!
セルロスの奴、倒れて下からパンツを見ている。
お前はそこまでして見たいのか。
そんなに人としての何かを失ってまで見たかったのか。
夢が叶えられて良かったな、セルロス。
ちょっとセルロスもニヤニヤしている。
これは...キモいな。
「あっ...あはははは!」
セルロスのセルロスが元気になってきている。
気をつけろセルロス、バレたら終わるぞ。
慎重に行動するんだ。
セルロスは笑顔で立ち上がり、こっちに向かってきた。
俺には隠す気ねえじゃねえか。
形がもろに。
「レオ様、ここでなにをしているのですか?」
「!?」
アルシアと側近が扉付近に立っている。
「「...」」
アルシアと側近の人はセルロスをチラッと見て、すぐに目をそらした。
「アルシア、俺はブリブリした女の腕を斬り落としたい。」
「え?」
俺は家に帰った。
側近の人の名前はライラと言うらしい。
前に教えてもらったっけ?
ギィ
「おかえりなさいませ、レオ様。」
「ただいま。」
「あの、レオ様。これはなんですか?」
「!?」
リリは謎の男が描いてくれた、金貨1枚の価値がある
素晴らしい絵を持っていた。
隠したはずなのに、どうして。
「リリ、違うんだ。俺は...俺は騙されたんだ。」
「どういう事ですか?」
「素晴らしい絵をあげると言われて、貰ったのがこれだったんだ。俺はどういう絵が貰えるのか知らなかった。でも高かったから捨てられなかったんだ。」
「......」
いけるか...
ここで笑ってはいけない。
真剣な表情でいなければ、バレてしまう。
リリは頭がいいから、全力で誤魔化さなければ通用
しない。
「分かりました。と言うことは、これは捨ててもいいんですね?」
「え?あ...え。」
「いいですよね?」
「あ、はい。」
ビリビリビリビリ
「あ〜!!」
そんな、素晴らしい絵が台無しになってしまった。
なんてことをするんだ。
俺のトイレのお供が。




