87. みんな同じ
ペラッ
俺の魔族語マスターへの道は終わりに近づいてきている。
なんなら、もう終わっているかも知れない。
すべてが理解できる。
管理人とは魔族語で会話が出来るほどだ。
うん、どのページを見ても分かる。
もう、いいかな。
みんなは今も魔術の勉強をしているだろう。
俺はもう魔術の先生の名前と顔を忘れてしまった。
顔はぼんやりとだけ覚えているけど。
正直、魔術の方が難しいと思う。
魔術の授業も多いしな。
そのおかげで、魔族語を覚えられた。
俺からしてみれば、剣術の授業をもっと減らすべきだ。
あんなのは復習に過ぎない。
D組の生徒たちは騙されている。
なんで気づかないのだろう。
必死に飲み込もうとするあまり、冷静になれていないのかも知れない。
「自由戦だ。始めろ。」
ダッ
ステラ先生はいきなりレオに向かって走る。
ガキンッ
剣と剣が交差する。
いきなり身体強化全開かよ。
俺は使わないぞ。
「うりゃ!」
キィィ
ガキンッ
レオは攻めると見せかけて受け流し、首向けて剣を
振るが、防がれる。
ガキキキキキンッ
ステラ先生が攻めまくり、レオはなんとか防ぐ。
剣が重い。
身体強化の力で、軽く受け流さないと防げないぞ。
「!?」
隙が見える。
だが、これは俺を誘っているんだ。この風流女。
ちょっと笑っているし、バレバレなんだよ。
「おりゃ!!」
ドンッ
「わっ!」
レオは先生の作った肩付近の隙を狙って剣を振るように見せかけ、相手の剣を持っている手を蹴った。
トン
先生の剣を蹴った瞬間に、体勢を立て直して剣を先生の腹に当てる。
「「......」」
勝った。
確実に先生を殺した。
今、先生を斬ったら確実に死ぬ。
俺が剣術で勝ったんだ。
しかも、身体強化なしで。
「...レオ、もう一回やってみないか?」
「え?いいよ?別に。」
「くっ。」
レオはニヤニヤしながら答え、ステラ先生は少し
ムカついた。
ヤベー!剣術楽しー!
これが本当の剣術だったんだな。
ダッ
レオから攻める。
ガキキキキキンッ
ガキキキキキンッ
ガキキキキキンッ
先生とレオの攻防が続くが、レオは余裕の笑みを浮かべる。
あれ?
先生の攻撃も受け流しも対応できる。
これは、また勝ってしまうんではないか?
先生は身体強化まで使っていると言うのに。
「!?」
その時、レオは先生の揺れる胸に気がついた。
ガキンッ
これは、頑張ったら触れるのかも知れない。
流れで行けるかも知れない。
ガキキキキキンッ
俺は、行くんだ!
「おりゃぁぁぁぁあ!!」
ピタッ
ドンッ
「ぐはっ!」
先生の胸に触れようとするあまり体勢が崩れ、先生に顔を思い切り蹴られてしまう。
今、触ったよな?
触ったはずだ。
よく覚えてないけど、柔らかい気がする。
「...お前は本当に何をしているんだ。」
先生は倒れた俺を見下げながら凄い真顔で話した。
「...」
俺は、何をしているんだ。
気持ち悪過ぎるんじゃないか?
でも触りたかったんだ。
揺らすんじゃねえよ。
自由戦が終わり、レオは図書館に来ていた。
魔族語を覚えたのなら、次は海洋語だ。
言語を覚えるのが楽しくなってしまった。
今の俺なら、海洋語を魔族語よりも早く覚えられるだろう。
でも、肝心の海洋語の本が見当たらない。
どこにあるんだろう。
このままだと管理人に聞くことになるぞ。
もっと奥の方にあるのか?
図書館の端のほうまで進むと、人影が見える。
あれ?
この人、セルロスじゃないか?
絶対セルロスだ。
もう1人いるな。
何をしているんだろう。
「......」
セルロスがやたらリアルな裸の女性が描かれた絵を
手に持ち、知らない人にお金を払っていた。
セルロス...お前もそうなんだな。
やっぱりそういうのは気になるよな!
俺と同じだ!
俺は1人じゃなかった!
俺は浮いてなかったんだ!
「わっ!?」
「やあ。」
レオはニコニコで挨拶をする。
「レオじゃないか。どうしたんだ、こんな場所で。」
「それはお前だよ。」
「!?...内緒にしてくれよ。」
そう言うと、セルロスは周りを注意深く確認した。
「この方は、凄い完成度のえっちな絵を販売しているお方だ。」
「どうも。君もほしいのかい?」
レオより少し小さく、太っている男がいた。
「...ほしい。」
言ってしまった。
もう、後戻りは出来ない。
「金貨1枚だ。」
その男は手のひらを上に向けて、レオの方に近づける。
「金貨1枚...」
ゴソゴソ
あったかな。
「...」
あった。
なんであるんだよ。
これでは、本当に後戻りが出来ないじゃないか。
「はい。」
「まいど。」
凄いリアルな絵を貰った。
絵画部じゃないのに、世の中は広いな。
凄い...
これは勉強のためだ。
勉強の資料として、買ったんだ。
「レオ。これで、共犯だ。」
「ああ、俺とセルロスは仲間だ。」
「これは、男の魂に賭けて、守り抜くんだ。」
「分かってる。」
俺とセルロスは凛々しい表情をしながら、熱い握手を交わした。
この紙は、折ることすら許されない。
俺とセルロスは、近くにあった本に挟んで、絵画部へ向かった。
「!?待っていたよ、レオ。」
絵画部の教室に入ると、剣士部の部長がいた。
「なんの用だ。」
「廊下で話をしようじゃないか。別に聞かれて困る
ことではないが。」
剣士部部長はみんなに注目を浴びながら、レオを教室から出した。
まさか、あの絵のことか!?
俺は悪くないぞ。
全てはセルロスの思惑だったんだ。
「単刀直入に言おう。レオ、君には一週間後の
剣術大会に、副大将として出てほしいんだ。」
「剣術大会?」
「ああ。その名の通り、属性魔法禁止の剣術大会だ。
一週間後の朝7時に、この学校の体育館に集まってほしい。」
「...いいよ。」
「!?本当か!?ありがとう!じゃあ、一週間後に会おう!」
部長は笑顔で去っていった。
普通に楽しそうだ。
俺の剣術がどこまで通用するか試したいしな。
ギィ
扉を開けると、アルシアが壁に耳を当てていた。
「あっ...」
アルシアはレオと目が合うと、元の席に戻った。
『じゃあ。』って、部長が言っていたじゃないか。
なぜそこで戻らなかったんだろう。
考え事でもしていたのだろうか。
その後、時間になり、図書館に行ってから家に帰った。
ギィ
「おかえりなさいませ、レオ様。」
「...ただいま。」
リリは笑いながら、夕食の用意をしだした。
今だ。
タタタタタタタタッ
レオは2階へ駆け上がり、絵を隠した。
この家...構造で言えば前の家と変わらんな。
ただちょっと狭くなっただけだ。
1階に降りる。
「いそいで、どうしたのですか?」
「走って帰ってきたからな。つい走ってしまった。」
「ふふっ。」
リリはご機嫌だな。
今日は友人と会ってきたのかも知れない。
たまに会っているらしいからな。
リリが友人と仲良くしていて、嬉しい。
いつか挨拶に行きたいな。
そして、夜。
「......」
よしっ。
リリは寝たようだ。
ソロリソロリ
ギィ
俺は絵を持って、こっそりトイレに入った。




