利己的な願い
よろしくお願いいたします。
「あはははははは」
一頻り笑った後、唐突に女の笑い声が止まる
「許さない」
女が呟いている。女?・・・いや、少女の声だな
「許される分けがない」
そう、少女の声。たしか・・妹の声・・だったよな
俺は再び思い出す
あの日のことを
ユッタが家族になると告げた日のことを
そのあとも・・
何度も気持ちを伝え分かってもらおうとしたことを
妹も共に大切な家族になることを
「なんてことを」
ユッタの声が響く
「あなたのお兄さんでしょ!なんてことを・・・」
ドアの軋む音が聞こえる
この部屋にはユッタと俺と妹だけだったはず
きっと騒ぎを聞きつけた誰かが駆け付けたのだろう
「私の家族を他人には渡せないの」大声で妹が叫ぶ
「私の願い・・神が叶えて下さった幸せな家族なの」冷静な呟き声で呟く
再び大声で妹が叫ぶ
「誰一人として加わってはいけない私だけの家族」
「だから、お願い」
妹の声は震えている
「お願いだから壊さないで」
癇癪を起こしたような声で叫ぶ
「お願いだから奪わないで」
一転して哀願するような声で呟く
「ふざけないで!」
ユッタが声を張り上げ叫ぶ
「ふざけないで」
ユッタの傍に横たわる俺の頬に涙が落ちる
ユッタが泣いている
そうだ・・俺は・・・
俺は・・・妹に刺されたんだ
なんとなく分かる。多分、致命傷だろう・・
「あはははははは」ナイフを握ったままの妹が天井を見上げて笑い出す
その声と仕草を見てユッタが再び叫ぶ
「許さない」
ダメだ、ユッタ
ユッタが詠唱を始めるが妹は気にした素振りを見せない
ダメだ、ユッタ
俺はユッタに声を掛ける
「ダメだ、ユッタ!」
だが声を張り上げることが出来ずユッタに届かない
俺は服を引っ張る
ユッタ!違うんだユッタ
気が付いたのかユッタが詠唱をやめて俺を見る
「ユッタ」
思っていたより自分の声が小さい
「ユッタ、妹を許してやってくれ」
「・・・・・」
「ユッタ、家族なんだよ」
ユッタは俺の顔を見る
「妹も、家族なんだ」
「俺の家族なんだ、君も、妹も、」
ユッタはハッとして俺の瞳を覗き込む
「お願いだユッタ」
何か言いかけるユッタの言葉に被せて告げる
「ユッタ、僕に海を見せてほしい」
「僕を海に連れて行ってほしい」
「・・・・・」
「一緒に行きたい」
最後の言葉は僕の声なのか・・ユッタなのか・・あるいは・・
意識が朦朧とし始めている
でも、ユッタが僕の手を握りしめたのは分かる
「ダメよ!」
「約束したのは私!」
ああ、そうだ・・・そうだった・・約束したんだよな
でも、違う。僕は海を見たいのではないんだよ
姉が僕にしてくれたようにユッタにも、ユッタの心にも
部屋の端から声が響く
「だから・・もう一度・・神様、お願いします」
朦朧とした意識でも分かるほどの大声だ。だが僕には見ることができない
そう愛するユッタの顔も、家族を求める妹の顔も、もう見えない
「願わくは彼の者と、そう、彼の者と二人だけの幸せな家族になれますように」
「だめ!」
ユッタの制止する声と同時にドサッと音がする
「そんな・・」
ユッタが何か呟いている。なにがあったんだろう・・
ユッタ。君の声、良く聞こえないんだ
もう君を見ることも声を聞くことも出来ないんだ
ごめんね、ユッタ・・
どうか妹を許してほしい
復讐心を持たないでほしい
ごめんね、ユッタ・・
どうか僕を許してほしい
君の願いを叶えられなかった僕を
どうか許してほしい
約束を守れなかったことを・・・・ごめんね・・お姉ちゃん・・
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