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15 匣の中の猫④

 依頼人、修道院あいの両親は死んでいる。

 依頼人が探している猫ちゃんも、そのときに死んだのだ、と、巌は語った。


「ひどか、事故でした」

「伺っても?」

「……家族旅行、猫も連れた旅行の帰り、長野の山ん中を、冬だってのに走って……タイヤが滑って、木にぶつかったとです」


 巌は皺だらけの額に、さらに深く皺を刻んだ。


「帰ってこれたんは、窓から飛び出してしもたあい一人。

 車は真っ二つになって燃え盛るようなありさまで、見つかった時にぁ黒焦げでした。

 ……あいも、発見まで三日は遭難していて……」


 悲惨な事故だ。

 冬の雪山で、恨める相手もいないスリップ事故。

 しかも遭難までする羽目になって……両親の死にまつわる事故があいに与えた影響は、恐らくは誰にも計り知れないだろう。


「こん家は、娘夫婦の持ち家でした。血縁があたしらと、あのあいしか居なかったもんですから……それで、あたしらが一度預かることになぃまして」


 それが、老夫婦があいと共に、見合わない立派な日本家屋に住んでいる理由だという。

 依頼人が幼いながらに莫大な金銭を所持している理由も、その遺産相続の関係だろう。依頼人の両親……黒坂、といったか。そいつはこんな家を持てるくらいだから、金持ちだったに違いない。

 中々な経緯だ。

 だが、依頼を聞いた探偵としては、気になる場所はそこではない。



「――――あの子は、死んだ猫を探しているのですか」



 巌は探偵から目を背けるようにして、うなずいた。

 その年老いた目じりには、微かに涙が浮かんでいる。


「ずいぶん、可愛がっちょりました。帰省のたんびに、あの、ペット用のケースに入れて、つれてきて。ずっとごろにゃーごろにゃあ、戯れとっ所を、よう見ましたで」

「それは……」

「両親の死ば受け容れられてん……猫は、妹かなんか、もう一人の自分か何かだと、思っとったんでしょうなぁ。あたしぁお医者さんでもなんでもなかですが、なんとなく、そう思います……」


 思い出し、考え直すと、泣けてきたのだろう。

 巌はそれっきりしょぼくれて、肩を落として黙り込んでしまう。

 探偵もまた、それを無視して傲岸不遜に振舞うことができないのだろう。証拠に、机の上のお茶菓子に一切手が伸びていない。あの大食い娘が、だ。


「……家族の死は、家族でしか埋められませんよ」


 探偵はそれだけ言って、座布団から立ち上がる。


「急ぎ変化させるのはよくありません。今回の依頼は、断らせていただきます。依頼料も返金させていただきますね」

「……んですね。こちらも、そうしていただけると助かりますたい」


 巌は涙をぬぐった。


「あいが戻る前に、出て行った方がよかでしょう。追いかけられますがね」

「また事務所に来るんじゃねぇか?」

「彼女の出入りには気を付けてください。あと、あまり大金を持たせないよう」

「へい。重々言いつけますで……まったく、どこからあんなに金ば引きずり出したとやろか……」


 その日の会話は、これで終わった。









 二週間後、老夫婦が殺害されたニュースが、テレビを賑わせた。

ミステリーがなにか分からなくなってきましたね

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