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14 匣の中の猫③

一日休んだので元気です

 探偵はどうやら、金持ちの家にばかり縁があるらしい。


 都内一等地。日本家屋。

 土地を贅沢に使った平屋建てで、中庭も、池も、本館も離れも土蔵もある。

 個人の邸宅、というよりは、旅館や料亭といった表現の方が似合いそうな、広い家。


「あいちゃん!」

「あい! どぉこ行ってたんだ!」


 徒歩で来た俺たちを、老夫婦が出迎えた。



「こん度は、とんだご迷惑を……」


 居間に通され、探偵はお茶と茶菓子を出された。

 俺の前にはない。当然であるが、老夫婦の目に悪霊は映らないらしかった。


「これ、あい。おまぁも謝りなさい」

「おかねはらったもん!!!」

「もう契約を!? ……た、探偵さん。すんもはん。あ、あいは見ての通り未成年ですから、その、えっと……契約の方は……」


 おどおどと、している。

 老夫婦の夫『修道院 巌しゅうどういんいわお』の姿は、この日本家屋とはちぐはぐな雰囲気を見せていた。なんというか、余裕がないのだ。こんなに大きな住居を構えているというのに、その腰の低さは謙虚さというより、卑屈さをにじませていた。

 年の頃は七十台を超えているであろう、巌。

 もにょもにょとした訛りのある活舌には、威厳というものが感じられなかった。


「いえ、構いません。そのお話のつもりで来ましたので……」


 探偵は苦笑で返しつつ、机の上に札束を五つ……依頼人から受け取った額を置いた。

 何度見ても凄まじい額だ。現金五百万。ドラマや映画では気楽に億というが、実際には、この程度の金額でも周囲を圧倒するには十分なオーラを持っている。

 巌が、ぎゅっと目を細めた。

 ストレスを感じているような動きである。


「あいちゃんは、猫ちゃんを探していらっしゃるとか」


 探偵は、依頼人からの依頼を、その保護者らしき老夫婦に語って聞かせた。

 老夫婦の妻『修道院 淳子いじゅういんじゅんこ』は、納得したようにため息を吐いた。

 巌はそれを横目に、冷や汗を引いてから口を開く。


「……あい」

「んー?」


 名を呼ばれた依頼人は、札束で積み木をしている手を止めた。


「冷蔵庫に、アイスさあっただろ。お婆ちゃんと選んできんさい」

「! たべていいの?」

「んだ。行っといて」


 淳子は静かに巌に目くばせをして、あいの手を引いて居間を去る。

 この家はかなり広いらしく、二人が外の廊下の向こうに消えてから、足音まで消えた。冷蔵庫までは距離があるのだろう。

 つまり。

 巌は、あいに聞かれたくない話をするつもりなのだ。


「あの猫は黒坂くんと……あいの両親と、一緒に死んでしまったのですよ」


 懐かしい名前が聞けた気がした。

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