13 匣の中の猫②
名前は『修道院あい』……小学四年生。
陶器のネコの貯金箱を手に、赤いランドセルを背に、来客用ソファの上で跳ねている。
蛍光灯におでこが眩しく、ツインテールが、彼女に見えていないのであろう俺の顔面にびしびし当たる。透けるから良いというものではない。邪魔。すごく邪魔。
「……猫ちゃんが、迷子なんですね?」
「ねこちゃんが、まいごなの!」
迷子はお前なんじゃないか。
「追い出す? 握る?」
「ステイがしゃどくろさん。依頼人です」
「……こんなのが?」
「こんなのとか言わない」
「おねーちゃん誰とはなしてんの!!!!!」
「助手さんですよー」
「あー?」
間抜け面で首をかしげる、依頼人。
骸装……悪霊同然の俺が見えないのはまぁ普通のことだとして、依頼料を猫の貯金箱でどうにかしようとする依頼人が、こんな悪霊を助手に使うような探偵事務所に駆け込むとは。
世も末である。
「おねーちゃん、探偵さんなんでしょ。げんかんにかいてたよね」
「ははは、はい。まぁ、そうですが……ご両親は……」
「しんだ」
死んだ。
「……がしゃどくろさん助けてください」
「無理」
「ひぃん」
探偵はひぃんと泣いた。
いつもの張り付いたマリア像のような笑みよりはずっと良い。
なんだかんだで、歳の割には年上との付き合いばかりの探偵だ。子供の相手には慣れていないのだろう。俺も慣れていない。
「ねこちゃん……さいごのかぞく」
「……はぁ」
「探偵、おかねだせば、さがしてくれるんでしょ?」
「それはまぁ、そう、ですが」
ソファの上から応接室の机の上に、依頼人は猫の貯金箱を……落とす。
割れる。
依頼人と探偵に当たらないように破片を弾けば、砕けた貯金箱の中に、金がある。
小銭……ではない。
札束が、五つ。
俺は思い出した。依頼人は貯金箱を持ってソファの上で跳ねていたが、まったく小銭の音などはしていなかった……貯金箱の中には、最初から札束しか入っていなかったのである。
札束が入る貯金箱なんてあるのか?
貯金箱は既に砕けた。詳細は不明である。
「……偽札ではなく、五百万……ですか」
札束を検めた探偵が、忌々し気に呟いた。
その表情を、依頼人は泣き出しそうな表情で見つめる。
「これだけあれば、たりる? まだいる?」
「ま、まだあるんですか?」
「うん」
おずおずとランドセルを下ろす少女。その蓋を開けかけただけで、中にはけっこうな……
「け、結構です。請けましょう。請けさせてください。ランドセルはしまって」
「はーい」
「……いいのか、葦花。明らかに怪しいぞ」
「だから、ですよ」
探偵は依頼人に聞こえないよう言った。
「保護者に話す必要があります。両親じゃなくても、子供にこれだけのお金を持たせるのは異常です」
「……通報で良いんじゃねぇか」
「子供は善意にも悪意にも敏感です。ここで逃げられたらたまったもんじゃありません」
なるほど、探偵らしい冷静な判断だ。
依頼を請けるフリをしつつ、少女の背景をあらう。
……何が依頼で誰が依頼人なのか分からなくなってきたが、このまま通りに放りだすよりはずっと良いだろう。俺は探偵の頭に伸ばした腕をしまった。
「えー……では、修道院さん」
「あいちゃんってよんで」
「……あいちゃん」
「はーい」
「…………迷子になった猫ちゃんのことを知りたいので、おうちに案内してほしいのですが……」




