12 匣の中の猫①
『骸背負い』を俺と探偵で追い始めて、二年が経った。
現時点で、『骸背負い』について分かっていることは一つだけ。
――――素人に『骸装』を売っているらしい、ということ。
『骸装』の操作には高度な技術が求められる。
技術が足りなければ、『骸装』に殺されるからだ。
ある程度人間らしい精神性を遺している俺だって、時々探偵の頭を握り潰してみたくなる。死へ引きずり込む性質を持っていたギュウキも、娘の護衛を役目としていたのに、最終的には娘を死の概念へと引きずりこんだ。
素人が触れば無事では済まない。
だからこそ、『骸装』は専門の霊能力者だけが扱えるよう、法で規定されている。
「宇志峰喜一はどこからどう見ても素人でした。『ギュウキ』への指示もあいまいで、装着すらできなかった。一瞬で片がついたのは、がしゃどくろさんが凶悪だったから……だけではないでしょう」
取調室。
息を呑む女刑事に、探偵はつらつらと述べた。
「『骸装』を操るどころか、『骸』を拾うことさえできないような素人です。
あの精神性では、遅かれ早かれギュウキにとり殺されていたことでしょう」
「……やはり関わっているのか、あいつは」
「いつものことでしょう」
探偵は三杯目のかつ丼を食べ終えた。
「そしていつものように……彼が関わっていること以外、手がかりはひとつもありません。
喜一に吐かせても、いつも通り記憶は混濁しているでしょう」
『骸』をどう拾い、どう弄って『骸装』とするのか。
どういった方法で『骸装』に伝承の形を被せ、妖怪や神のような性質を持たせるのか。
分かっていることは全くといってよい程ない。
そもそも、存在するかも定かではない。
明確なのは、俺たちの敵である。ということくらい。
女刑事は深い、深いため息を吐いた。
その灰色の目が、探偵を気遣うように気まずそうに向けられる。
「……よつゆ」
「私はまだ、この仕事を続けますよ。姉さん」
探偵は口元を猫の柄のハンカチで拭うと、取調室のパイプ椅子から立ち上がった。
女刑事の、姉の小言を聞く気はないらしい。
張り付いたマリア像のような笑み。
「パパもママも、そう望んでいるでしょうから」
* * *
首吊り“殺人”事件の解決から一か月。
『骸背負い』が見つからないまま、一か月。
十月に入り残暑は去って、虫の音と少し肌寒い風が吹くようになったころ。
「ねこちゃんが、まいごになっひゃっでぇ!!!」
やってきた依頼人は、なんか、こう。
かわいかった。
ここから第二話です。




