その5
※全部でその7まであります。毎日1話ずつ投稿し、8/16に完結する予定です。
※本作品にはいじめの描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。
「簡単ですよ。あのお嬢さんと同じ人種です。……つまりは、うそをつく人間たちです」
言葉を失うメアに、夢村は話を続けました。
「……どうやら気づいていなかったみたいですね。あの子は一番最初にわたしに、『記憶を消してくれるでしょ』と聞いたのです。『思い出の品を見つけてくれるでしょ』とはいわなかった。……つまり彼女は、寄せ書きに関わる記憶を消してほしくてわたしたちの店を利用したのです。思い出の品、いや、もう偽ることも必要ないでしょう。苦々しい記憶が詰まった品をわざと隠して、それを見つけるように依頼することで、それにまつわる苦々しい記憶を消してもらう。それが彼女がついたうそ、というよりも謀りだったのです」
「謀りって……なにがどうなってるのか、おれにはさっぱりわからないよ。なぁ、夢村、最初から教えてくれないか? あの子はなにを謀って、おれたちに思い出、いや、その苦々しい記憶を消させようとしたんだよ?」
完全に白旗をあげるメアを、反対側のソファーに座らせて、夢村も向かいのソファーに腰をおろしました。
「まずはあの子の話をする前に、他の客たちについて話をしましょうか。さて、先ほどいいました通り、このかくれんぼ屋にくる客のほとんどは、うそをついている人間たちです。ならば、どんなうそをついているか? まぁそれも様々あるのですが、一番多いのがあのお嬢さんと同じうそ、つまりいやな思い出を消すためについているうそです。あのお嬢さんのように、いやな思い出のある品を、わざと自分で隠してわたしに探させるのです。そうすれば、わたしに支払いをするというていで、いやな思い出を消すことができる」
「だが、だがよ、お前はそれでいいのかよ? うそつかれてるんだぜ?」
非難するような口調になるメアに、夢村はにぃっとくちびるをゆがめました。ゾッとする笑みに、メアは言葉を失いました。
「もちろんわたしは構いません。なぜならこのかくれんぼ屋は、うそをつかれることを前提に作られているのですから。だから構わないのですよ」
「うそをつくことを前提に……? なぁ、もうちょっとわかりやすく話してくれよ、おれはもう降参だぜ」
「メア、あなたの悪いくせですよ。あなたは性根がまっすぐすぎるからか、人間たちの複雑な心の動きを追おうとしない。わたしの助手を務めたいのなら、少しは裏を見るようにしないと」
ぷいっと顔をそむけるメアを、面白がっているような表情で見ていた夢村でしたが、やがて話を再開しました。
「要するにかくれんぼ屋は、客がうそをついて『いやな思い出の品を見つけさせることで、それにまつわるいやな記憶を消す』ことを目的にしていると、最初からそう看破した状態で動いているのです。なぜならわたしの本業である、呪い返しの術の材料にするには、苦い記憶のほうが都合が良いのですから」
「えっ? じゃあ、まさか最初から苦い記憶を求めるために……」
「そうです。そのためにかくれんぼ屋は、人間の真理に反するような店となっているのですよ」
「でもよ、おかしくないか? 苦い記憶が欲しいんだったら、素直に苦い記憶を消すってふれまわったほうがいいじゃないか」
息巻くメアに、夢村はにやりとしてから首を横にふりました。
「もしあなたが仮にうしろめたい記憶を持っていたとして、それを消しますと大々的にうたっている店に入ったりしますか? ……まぁ、さっきもいったように、あなたは呪いから生まれたというのに、変にバカ正直なところがあるから、きっと喜び勇んで入っていくのでしょうが、うしろめたいものがある人間たちっていうのは、そういう店には入ろうとしないんですよ。むしろ今回のあのお嬢さんのように、うしろめたい記憶を消すために、さらにうしろめたいことをしようとする。それがうそをつく人間の特徴なのです」
夢村は残っていたカモミールティーを飲み干して、それから再び奥の部屋へ引っこみました。ティーポットごと持ってきた夢村を、メアはまだ圧倒された様子で見あげています。
「さて、とりあえず前提はここまでとして、そろそろあのお嬢さんのことについて話をしましょうか。先ほど姿見を見てわかったでしょうが、あのお嬢さんはいじめられっ子ではなかった。逆にいじめっ子だったのです」
「いや、だがそれだとおかしいだろ? だってよ、あの子が通ってた中学校じゃ、むしろあの子人気者だったぜ。それにもちろん、誰かをいじめてるような様子もなかった。そりゃあ、おれがいるから悟られないようにいじめなかったのかもしれないけど、それにしてもおかしいだろ?」
「あぁ、それに関しては気づかれていたんですね。ならあと一歩だと思いますが。そもそも最初にあのお嬢さんは、自分のことをなんと説明していましたか?」
「なんと説明してたか? いや、だからいじめられっ子だって」
「違います。彼女のこれまでの経歴について聞いているのです。……彼女はわたしにこう説明しました。以前住んでいた学校でもらった寄せ書きを、新しく引っ越してきた学校で、いじめっ子たちに意地悪されて隠されてしまったと。これは、完全にうそだというわけではありません。一つだけ真実が隠されています。……それは、彼女が最近引っ越してきたというところです」
「えっ? ……それが、いったいどういう」
「さて、わたしたちは姿見に映った彼女の記憶を見て、いじめっ子だということはわかった。そしてあなたは、彼女が今の学校では良好な友人関係を築いていると、そう感じた。ここから導き出される答えは一つだけです」
「……つまり、あの子がいじめっ子だったのは、前に住んでいた学校で……?」
「正解です」
その6は明日8/15に投稿予定です。