終わらない夏祭り㉘
そして翌朝。
「本当にありがとうございました。いろいろと助かりました。」
茉莉花は玄関まで見送りに来てくれた理斗と玲奈に軽くお辞儀をした。
玲奈はそれに対してブンブン首を振った。
「こちらこそよ!茉莉花ちゃんがいなかったら、どうやら私、死んどったみたいやし。理斗の呪いも治してくれたし…本当に感謝してもしきれないわ。」
率直な感謝に、茉莉花は照れくさくなり、顔をあからめる。
「まぁ……。とにかく!私がいうのもなんですが、鬼門院には注意してくださいね。では、そろそろバスが来る時間なので…。」
茉莉花が玄関の扉から足を踏み出す。
「あ、あの!」
声を絞り出すように理斗が茉莉花を呼んだ。
「御堂君…?どうしたの?」
また、文句でも脅迫でも言われるんだろうか。
体が思わず身構えてしまう。
「に、二階堂先輩。今まで、その、疑って、、、すみません、でした。…それから、その、、、、ありがとうございました。」
彼はそう言いながら深々と頭を下げた。
ぶっきらぼうな彼の姿を見て、茉莉花は堪えきれず、少し笑ってしまった。
「…ふふ、なんか御堂君から感謝されるなんて、気持ち悪いかも。」
「ひ、人が勇気出して言ったことを…!やっぱ嫌いです、あんたなんて。」
理斗はへそを曲げたように言った。
「ごめんごめん。……もう二度と大切な家族を失っちゃだめだよ。じゃあ、また学校でね。」
「…………はい。」
鬼門院琉音との一連のやり取りを聞いて、茉莉花の親が殺されていることを知っていた理斗は少しぎこちなく返事をした。
そんな彼を、茉莉花は微笑みながら頭をポンとなでた。そしてもう一度一礼して、バス停を目指し、歩きだした。
長い旅路を経てお昼になる頃、茉莉花は新幹線に乗りこむ。
1人になって、何もすることがないとなると、いろいろと考えてしまう。
まず、ヤマトの忠告。
不滅の鬼たち、裏切り者の存在、そして覚悟の必要性。
この先、何か良くないことが起こるのだろうか。自分にとっても、周りの人間にとっても。
不吉な予感がぬぐえない。
次に、鬼門院琉音について。
彼女と対面して、初めて知る感情が芽生えた。
怒りが限界をとうに達して、逆に頭が真っ白になる感覚。ただ、純粋に彼女が言葉を二度と発せないようにしてやりたかった。
ああ、これが本当の殺意なんだ、と思った。
脳裏にお父さんとお母さんの顔が思い浮かばなければ、おそらく、取り返しのつかないことをしてしまっていただろう。
……だけど、これは本当に正しい選択だったのだろうか?
人を殺める事は一般論的に悪だ。
しかし、鬼門院琉音を生かしてしまった為に、この先、大きな犠牲者が生まれたら?
御堂姉弟がまた狙われたら?
きっと犠牲になる人からすれば、私の選択は悪だ。お父さんの件だって、あの女を犠牲にしてでも生きていて欲しかった。そしたら、お母さんだって死ぬことはなかったのに、と娘としては思ってしまう。
私の選択はどこかの未来で誰かから恨まれる事になるかもしれない。
そう思うとなんだか、漠然とした憂鬱感が襲ってくる。
御堂家に泊まった時はここまで気分は落ち込まなかったけど、、、
1人の時間はもともと好きだったのに、今だけは誰でもいいから、話をしたいと思ってしまう。
5分後。
「……馬鹿みたい。」
茉莉花は手にスマホを握っていた。
《もし今日の夜暇なら、ご飯食べに来ない?明太子を買ったんだけど、1人じゃそんなに食べきれないし。暇ならでいいです。》
メールの送り先は潤。いつでも食べに来ていいと言ったものの、彼とは結局、あの日以来ご飯を食べていない。
彼も遠慮しているようだし、別に自分から誘う理由もないと思っていた。
我ながら、呆れるほど素直じゃないと思う。
しばらく、メールの送信を躊躇っていたが、悩んだ末に押してしまった。




