終わらない夏祭り㉖
茉莉花達一行と、地下牢で捕まっていた人々は城の外で待っていた陽太、そしてその仲間に合流した。
「よかった!2人とも無事だったんだな!」
陽太が、茉莉花と理斗を見てほっとした表情をする。
「うん。陽太も、外にみんなを連れ出してくれてありがとう。」
「お安いことですよ。今となってはみんな帰るのを心待ちにしているみたいだし。俺も早く帰りたいよ。」
「……では、モタモタする理由はないですね。さっそく、出口を作ります。」
剣人が指をパチン!と鳴らすと時空が歪み、2つの大きなゲートが出現した。
「な、なにこれ?」
「これで帰れるのか!?」
あちらこちらから驚きの声が聞こえる。
確かにSFとかでありそうなひと場面だ。
「……しかし、なんで2つもゲートがあるんですか?」
理斗が不思議そうに顔を傾ける。
「実は右側のゲートはこの世界に入り込んだ時間軸に戻るもので、左側のゲートは元の世界の"現在の"時間軸に戻るものなんです。
右側のゲートに入ると、この世界であった事の記憶がすべて抹消されます。
左側のゲートでは記憶は消されません。」
剣人が説明を聞いて茉莉花は納得する。
「…………なるほど。未来が変えられないようにするためですね?」
「さすがですね、そういうことです。」
理斗は不貞腐れてしかめっ面になってしまった。
「つまり!どういうことですか!」
「うーん、例えばね?陽太が元の時間軸の3年前に戻ったときに、この世界の記憶を持っていて、私達に会いに行ったとしたら、どうなると思う?」
「そりゃ、3年前の世界だったら、僕達は陽太さんのことを知らないですよね。」
「そうそう。……じゃあ、もし会いに来た陽太が私や理斗を殺したら?」
「!!!何物騒なことを言っているんですか!」
「そーだそーだ!俺がそんな酷いやつに見えるか?」
理斗と、話を盗み聞きしていた陽太が反抗する。
「だから!例えばの話って言ってるでしょ!もしそういう事態が起きたら、大きな矛盾が生まれるよね?結局、陽太のことを縁日の世界から救出した人物は存在しないことになる。だったら、陽太がずっと縁日の世界に閉じ込められたままになる。そうなると、私や理斗を殺すはずの陽太は存在しないことになる。」
「確かに。意味がわからないことになるな。」
「そうですね。」
ようやく、2人とも理解したようだ。
「私は現在の時間軸に戻るよ。この世界での記憶は保持しておきたいし。」
この世界で一日ちょっと過ごしたから、現実世界も一日ちょっと時間が進んでいる訳だが、特に深刻な影響はないだろう。
「僕もです。剣人さんもですよね?」
理斗が剣人を見ると、彼もこくりと頷いた。
「それ以外の方々は右側のゲートでよろしいですね?」
剣人は一応周りの人達に確認をとった。
「そっか……この世界で忘れたいことも多かったけど、茉莉花と理斗の事まで忘れんのは寂しいなぁ。」
複雑な表情を見せる陽太に、剣人は首を振った。
「思い出すことが不可能、とは言いません。僕は皆さんがゲートを出た後、この世界を壊します。術さえ壊れてしまえば、思い出すことは可能です。」
「ま、マジ!?」
予想外の返答に陽太と共に茉莉花と理斗も驚いた。
「…ただし、思い出すのは、”現在の時間軸で言う所の"今…以降です。よって、陽太さんが万が一、思い出したとしても、それは3年後のことです。」
「確かに、この世界が破壊された後の時間軸であれば、何かを思い出しても未来を変える恐れがないからね。」
茉莉花は納得する。
「…………よくこんな破茶滅茶な話、理解できますね。」
ついに、理斗に感心されるようになってしまったようだ。
「しかし、思い出せる人はごく稀です。よっぽどの念が強くないと、思い出せないですよ。」
「…いや、絶対思い出してやる!まだ2人に恩返しが出来てないからな。」
「……待ってますよ。忘れたまま、素通りされた暁には1発殴りますから。」
そう言う理斗の頭を陽太は優しく撫でた。
……なんか兄弟みたいに仲良くなってるんだけど。別行動中に何かあったのだろうか?
「じゃあ、またな!俺はお先にゲートをくぐるとするよ。」
そう言って、彼は右側のゲートへと歩き出した。
茉莉花は陽太の後ろ姿を見送るうちに、ひとつ考えついたことがあった。
「ねぇねぇ、剣人さん。服ってさ、あの格好のまま元の時代に戻るの?」
陽太は奴隷専用の藍色の着物を着ている。この世界に来るまではもちろん別の服を着ていただろう。
「はい。元の時代に戻ったら訳がわからないでしょうね。気がついたら、着た覚えのない服を着ているのですから……って茉莉花さん!?」
茉莉花は急いで陽太の所へ走った。
「陽太!!!」
陽太はゲートに半分体を突っ込んだ状態で振り向いた。
「ま、茉莉花!?……なにこれ?」
茉莉花は彼の手に1枚の紙切れを握らせる。
「君が勘のいい人であることを願うよ。じゃあね!」
戸惑う彼の背中をポンと押して、完全にゲートをくぐらせた。
そして、1人がゲートをくぐった瞬間、つられるように次から次へとゲートをくぐりだした。
……しばらくして、残りは茉莉花と理斗、剣人だけとなった。
「……さっき、陽太さんに何を渡したんですか?」
理斗が訝しげに聞いてくる。
「さあねー。どうなるかは賭けだから。」
「はい?ちょっ………!」
茉莉花は理斗の追求から逃れるように、左のゲートをくぐった。




