終わらない夏祭り㉔
茉莉花と剣人は急いで、大きな破壊音が聞こえた方へ向かった。
そしてまず最初に見た光景は、お城の地下室で琉音の奴隷と思われる青年達に取り押さえられた陽太の姿だった。
「陽太!大丈夫!?」
茉莉花は慌てて声をかける。
「茉莉花!よかった、そっちこそ大丈夫だっ、いだだだ…!」
陽太の腕が捻りあげられる。
「お前らはどういう関係だ!何を企んでいる!」
青年達の中の一人が問いかける。
茉莉花は目つきの悪い顔で睨みつける。
「そんなことより、陽太を離してください。さもないと……元の世界に帰してあげないですよ?」
そう言うと、彼らはピタリと動きを止めた。その隙に陽太が拘束を振りほどく。
「ついに、帰る方法が見つかったんだな!」
「うん。彼がこの世界の創造主だから。」
陽太は茉莉花の後ろに立っていた、男の鬼を見て驚いた。
「創造主!?こんな若い人が?」
若者扱いに少々ムッとしたのか、剣人は口を尖らせた。
「こう見えても、大正生まれの妖怪なんです。この世界は僕、、、が作りました。」
まあ、正確に言えば、彼の中に入り込んでいた琉音の手下がやったことだが。
「あなた達、どうするんです?私とこの世界の創造主の方へつくのか。それとも、あの女の奴隷でありつづけるのか…。」
茉莉花は瑠璃の目を発現し、剣人は刀を構えた。そう、言ってしまえばちょっとした脅迫である。
青年達はゴクリと唾を飲み、互いの顔をチラチラ見る。
「…茉莉花、アイツらはおそらく、もう大丈夫だ。俺たちに手出しはしないだろう。これからは俺が指揮をとるから、理斗の方へ向かってくれないか。」
陽太は部屋の奥にある扉を指さした。
「…理斗に何かあったの!?」
「地下牢に閉じ込められた人たちを解放しに行ったんだけど、さっき琉音様がそのあとを追いに行ったんだ。…彼女が奴隷を殺したことはないから死んでないとは思うけど。」
「ま、まずい気がする…!」
そりゃあ、奴隷には手を出さないだろうけど、陰陽師と知られたら別だろう。
急いで合流しないと。
茉莉花は慌てて走り出した。
扉を開け、地下道をしばらく進んだ先にはもう1つ扉があった。
その扉を開ければ、案の定、絶対絶命の理斗の姿が見える。
「ま、間に合った〜!」
ここに来る途中、理斗の死体がごろっと転がってたらどうしよう、、とか縁起でもないことを想像してしまった。
前も後ろも妖怪に囲まれていて、ヤバそうな状況であるけど、生きててとりあえず安心だ。
「剣人さん、よろしくお願いします。」
「彼が、茉莉花さんの言っていた仲間の方ですね。わかりました。」
剣人は瞬時に理斗の応援に向かった。
「……アンタ、何者?」
すごく機嫌の悪そうな声が聞こえる。
目元が自分に似ていて、高身長の、ケバい女性。
「あなたが鬼門院琉音さんですか?」
「……っ!もしかして、その顔、、蓮の娘なの!?」
……やっぱりこの人、お父さんの事を知っている。
「ええ。お父さんとはどういう関係で?」
「ふっ、ふふ……あははは!私はね、あの出来損ないの妹よ。こんなところでまさか姪っ子に会えるなんて思ってなかったわ。」
「……出来損ない?」
茉莉花の眉間にシワが寄る。
「蓮は瑠璃の目を受け継いだ次期当主の人間だった。だけど、気弱な性格のせいで全然当主としての役目を果たせなくてねぇ。」
「瑠璃の目、、お父さんが!?」
そういえば、お父さんの左目っていつも前髪で見えなかった。あれって瑠璃の目を隠していたからなんだ。
それに、鬼門院家の次期当主だったなんて…。
「当主としての威厳なんて全くなし。鬼門院を裏切った人間の始末さえしようとしなかった。挙句の果てには女と駆け落ちしちゃってねぇ、そりゃあ殺されて当然ね。」
茉莉花は険しい顔で拳を握る。
「血の繋がった兄なのに、酷い言い様ですね。」
「そりゃあ、そうよぉ。蓮のせいでどれだけ苦労したか。あの人は鬼門院を裏切ったうえに、家宝のひとつである瑠璃の目を持ち逃げしたのよ?落とし前つけさせる為にどれだけ探し回ったか。」
「……。」
「見つけた時は嬉しかったわ。ついつい興奮しちゃって、いろいろな部位にナイフをつきたてたの。そしたら、ドクドクと血の海が出来上がって!でもね、どこも致命的な傷じゃなかったから長い間苦しんでいたわ〜。
…しかもね、途中で外出してた妻が、忘れ物か何かで家に帰ってきたの。面白そうだったから蓮の前で首を締めて殺したら、今まで見たことないくらい絶望していたわね!
あはは、今思い出しても傑作ね!!!」
「…………。」
……生まれて初めて感じる、強い衝動。
「あらあらぁ、怒って声も出ない?」
「…あな……ころし…い……」
茉莉花の小さな呟きに琉音は聞き耳をたてる。
「は?なんて?」
茉莉花は瑠璃の目を使って、陰の気を針のように尖らせ、琉音の首に突きつけた。
「あなたを殺したいです。とても。」
「……っ!?」
先程とはうってかわり、血の気が引いた琉音の顔を見て、茉莉花は不気味に笑っていた。




