終わらない夏祭り㉑
ルネ様と突然の再会をしてしまった理斗は思わず腰を抜かす。
「鬼門院 ……琉音…!」
「あら?どうして私の苗字を…。それに、新入りにしては行動が大胆よねぇ。考えられるとしたらー、、陰陽師?……。……ああっ!」
琉音は嬉しそうにパン、と手を叩いた。
「あなた、御堂家のお坊ちゃんね!3年前私が呪いをかけてあげた!」
「……。」
理斗はギリッと歯を食いしばった。
「なんでかしら?呪いは簡単に解けないはずなんだけど。さすがにお姉ちゃんが生き返ってるとかないでしょうねぇ?」
「お前っ!」
理斗は光る弓をかまえた。
余裕のない理斗を見て、琉音は口角を上げる。
「……ってことではないみたいね。そうよねぇ〜、私がこの手で心臓を貫いたもの!そして貴方の目の前で妖怪の餌にしたっけ?…ふふふ、今思い出してもゾクゾクしちゃう。」
「……はぁ、はぁっ、はっ、はっ……!」
理斗の呼吸が徐々に浅くなり、過呼吸になっていく。
彼の脳裏に出来るだけ思い出さないようにしていた過去の記憶が鮮明に浮かび上がった。
3年前。
当時17歳の御堂玲奈に鬼門院琉音の偵察命令が下った。
理由は2つ。
1つ目は御堂家の近くで彼女の目撃情報があったため。
2つ目は御堂玲奈が九州最強と呼ばれるほど優秀な人材だったため。
彼女の戦い方は陰陽師の中では珍しい、体に陽の気をまとって格闘技で戦うものだ。
幼い頃から空手を習い、猿のように身軽な彼女には、ほとんど敵などいなかった。
陰陽師側は、悪い噂が耐えない鬼門院琉音の尻尾を何としても掴みたかった。
だからこそ、実力ある彼女がひとまず偵察をする事になったのである。
「じゃあ、いってくるけんね!」
いつも通りの元気な様子で、玲奈は家を出ようとする。
玄関まで見送りに来た理斗は、心配そうな顔で玲奈を見た。
「……姉さん、大丈夫なの?鬼門院って強いんでしょ?」
「んもぅ。心配性やね、理斗は。ただの偵察やけん大丈夫よ!夜ご飯までには帰って来るし、ちゃんといい子にしとくんよ。」
玲奈は理斗の頭を優しく撫でる。
「…僕、中学生なんだけど。子供扱いしすぎ。」
「はいはい、ごめんごめん。」
クスクスと笑いながら彼女は家のドアを開けて、外へと足を踏み出した。
……
…………
窓の外は真っ暗闇で、何も見えない時間帯となった。
「姉さん、遅くない…?」
理斗は時計を見る。
時刻は21時。もうとっくに帰ってきてもおかしくない時間だ。
母や父は玲奈のことだから心配ない、と言っているが、理斗はなぜか嫌な胸騒ぎがしていた。
「……とりあえず、行ってみるか。」
なんだか、いてもたってもいられず、玲奈が行くと言っていた場所に向かうことにした。
しかし数十分後、彼はかなり後悔する。
人通りの全くない夜の山道は予想以上におどろおどろしかったからである。
「ねぇさーん…!どっかいないのかー…!」
声が少々震えながらも、1歩、また1歩と足を進めた。すると、どこからか女性が呻くような声が聞こえた。
「だ、だれ…?」
理斗はゆっくりとその声がする方へ向かう。
山道から外れた茂みの中を進むと、うつ伏せに横たわる血まみれの人間がいた。
しかし、よくよく目を凝らすと、その人間は自分がよく知る人物であった。
「ねえさん!?」
理斗は慌ててそばに寄る。
「りと、、なの、、、?」
玲奈はゆっくり顔を上げた。
彼女の四肢には大きな釘が打ち付けられており、現在進行形でダラダラと血が流れていた。
「どうして、こんな大怪我…!と、とりあえず救急車をよばないと!」
「私は、いい、から…!理斗、は今すぐ、逃げ、なさい!」
彼女は声を絞りあげるようにして叫んだ。
理斗は身体中が震えて、泣き出しそうになりながらも、首を振った。
「そ、そんなことできる訳ないだろ!絶対僕が助け……」
「あら、まぁ!姉弟の再会なんていいもの見せてくれるわね!」
背後に突然、身の毛のよだつ気配がする。
「!」
振り向くと、長身でスラリとした、やけに香水の匂いの強い女が愉快そうに笑っていた。




