終わらない夏祭り⑳
陽太のすぐ近くで木刀が振り下ろされた。
陽太は冷や汗を流しながら、1歩、2歩と後ずさる。
「コウ……?」
「チッ、外したか。おい、お前。どうして俺の奇襲に気づいた。しっかりお前らの背後をとったつもりなんだけど。」
コウは理斗を睨みつけた。
「僕は気配の察知が得意なんです。……アンタのこと、信用してたのに残念だ。」
「ふん、別にお前らなんかの信用なんざいらねーよ。俺はルネ様に気に入ってもらえればそれでいい。」
「……!アンタ、人を殺そうとしておきながら、よくそんな口が叩けますね。」
カチンときた理斗はオレンジに光る弓を取り出し、コウに向けた。
そんな彼を見て、陽太はやれやれ、と首を振り、前に立ち塞がった。
「やめとけ、理斗。コイツは俺の友達だからさ。俺がコウの異変に気づけなかったのが悪いんだ。」
「……。」
その姿を見て、理斗は大人しく弓をしまった。
しかし、コウは陽太の言葉で更に眉間のシワが多くなった。
「てめぇ…!そういうお人好しなとこが本当に腹立つんだよ!」
そう言いながら再び木刀をかまえ、陽太に接近する。
陽太はその攻撃を完全に見切り、蹴りでカウンターを当てた。
「ぐあっ…!」
コウは蹴りがみぞおちにクリーンヒットし、ゴロゴロと床を転がっていった。
「わ、悪い!思ったより深く蹴りが入っちまった…!」
陽太はコウにかけより、骨が折れていないか確認するために、手を伸ばした…………がその手はパシッと振り払われてしまった。
「…………不公平だよな。こんなにお前は強いのに、人を殺したことは1回もないんだろ。ルネ様のお気に入りだから。」
コウは寝転んだまま、陽太を恨めしそうに見た。
「……。やっぱり、俺が悪かった。お前がここまで追い込まれてたなんて、思いもしなかった。」
コウは奴隷達の中でも特に殺しの任務が多い方だった。
きっと、そんな日々の中で精神はすり減っていき、ルネ様への心酔の気持ちへと歪んでいったのだろう。
「もう、コウに人殺しなんてさせない。元の世界に戻って、ごく普通に生きていこう。……だから、どうか協力してくれないか。」
そう言って、陽太はまっすぐにコウの目を見た。
しかし、コウは目を逸らし、笑いだす。
「………………。はっ、ははは!もう手遅れだよ。」
「は?どういうことですか!!」
理斗がコウの襟をグイッと引っ張るが、彼の態度は変わらない。
すると、扉の奥の方からダダダダダダ……とたくさんの足音が迫る音が聞こえた。
「!?まさか!」
理斗と陽太の顔が蒼白になる。
「ああ、さっき逃がした4人がルネ様に報告したんだよ。言っておくが、お前らが思うよりルネ様を慕う人間は多くいるんだ。気の毒だが、お前たちはここで終わりみたいだな。」
まずいことになった。ここは地下だし、これでは袋の中のネズミではないか。
「よ、陽太さん!なんか鍵とかないんですか!」
「ああ!ちょっと待ってろ…!」
陽太は壁にかけてある鍵束を取って、急いで鍵をかけた。
その直後、扉を強くドンドンと叩く音がする。
「まずいな、鍵が破壊されるのも時間の問題だと思うぞ。」
そう言いながら、陽太はガタガタ揺れる扉を全体重をかけて押さえつける。
「わかってます。とにかくこの扉が破られた後のことを考えないと…!」
理斗も頭を悩ませながら、扉の押さえつけに加わった。
5分後、、、
ガシャーン!!という大きな音が辺りに響き渡った。
そう。扉ごと無惨に破壊されてしまったのである。
モクモクと埃が舞い上がる中で、追っ手の奴隷の前に陽太が対峙する。
「……悪いが、邪魔をする奴は気絶してもらうからな。理斗頼んだぞ!」
彼は木刀を構え、向かってくる追っ手を1人、そして2人と気絶させていった。
「はい!くれぐれも無理しないでくださいよ!」
理斗は急いで牢屋が続く奥の部屋へと向かった。
5分で練った作戦はこうだ。
陽太が足止め、理斗は生贄の解放を担当する。
大人数の人間が解放されてしまえば、きっと彼らも為す術がなくなるはず。
強引で、本当に5分クオリティの作戦だが、とにかくやってみるしかないのだ。
理斗は実験室に掛けられていた鍵束を手に、牢屋へと繋がる扉を開けた。
扉の向こうには長い廊下が続いている。
そして、その先にまた扉。
その扉を開けると、今度こそ地下牢が現れた。
牢屋の中には、理斗を見て恐怖に震えている者、未だ状況が飲み込めずパニック状態の者、廃人の様にピクリとも反応しない者など、様々な人がいた。
しかし、理斗が次々と牢屋を鍵で解放していくと、彼らはどよめき始める。
「僕はあなたたちの味方です。とにかく今はここから脱出する事だけを考えてください。」
そう理斗が言うと、皆少し安堵した表情で、続々と牢屋から出て来る。
全牢屋解放し終えたところで、理斗は100人以上はいる人達の指揮をとった。
「じゃあ、案内しますので、こちらに着いてきてください。」
理斗が来た道を戻ろうとした瞬間だった。
ギィィィ……
開けようとした扉が勝手に開く。
「あらぁ、貴方はさっきの子じゃない。いったい何をしているの?」
「……!」
扉からは楽しそうにニヤニヤと笑う、今一番会いたくなかった人、ルネ様が現れた。




