終わらない夏祭り⑰
「あの、起きてください!」
「……はっ!」
さっきまで死んだように眠っていた1本角の鬼の青年が茉莉花の肩をユラユラ揺らしていた。
少し切れ長の目にキリッとした眉。
短髪で爽やかな印象だ。
「あの、すみません…!僕、気がついたら、知らない場所で、眠っていまして…。もう、何が何だかわからないんです。いったいどういう状況なのか教えて頂けますか?」
剣人は操られていた間の記憶がないらしい。
誰の術のせいでこんなことになっていると思っているんだ。
「……そうですね。話せば長くなりますが、実は……………。」
…
……
………
「……僕がそんなことに手を貸していたなんて…。」
剣人はがっくり肩を落とした。
思ったよりいい人なんだな。かなり落ち込んでいる。
「ま、まぁ、あくまで洗脳されてたんですから、そんなに気に病まないでくださいよ。……しかし、どうして頭と体が別れていたんですかね?」
生首なんてもう二度と触りたくないものだ。
「それは、おそらく……僕の意識が戻らないようにするためだと思います。記憶が途切れる前にも何度か鬼門院に洗脳されかけたんですけど、すぐに自我を取り戻したんです。だから、その自我がある頭の部分を体から切り離すことで、体を自由にコントロールできるようにしたのでしょう。」
つまり、自我を持たない彼の体に、何でも言いなりになってくれる妖怪を取り憑かせたということか。卑怯なことを考えるものだ。
「なるほど…。とにかく、剣人さんは今回の件の完全なる被害者というわけですね。」
「!……僕の名前、知ってるんですね。そういえば、あなたは何者なんですか?」
「あ、そういえば、自己紹介してなかったですね。二階堂茉莉花です。…まあ、旧姓は鬼門院ですが。ヤマトさんに貴方の捜索を頼まれてここまで来ました。」
「ヤマト姐さんが……。あ!それより、鬼門院の方だったんですね…!」
剣人は目を丸くしている。
「……すいません。やっぱ、鬼門院の血縁だと気分悪いですよね。酷い扱いをうけた訳ですし。」
茉莉花の言葉に剣人はブンブン首を振る。
「いえいえ、違います!僕も鬼門院の人間でしたから。」
「え……!そうなんですか!?」
茉莉花は驚きで、少し声が大きくなった。
「僕も、といいますか…、鬼になった人は元々みなさん鬼門院家の人なんです。今考えたら僕と茉莉花さんの顔、ちょっと似ていますよね。」
「た、確かに…!特に目元が。」
思えばヤマトさんも切れ長の目をしていたような。まさか、2人ともご先祖さまだったなんて。
じゃあ、煙丸も……。
「はは、そうですね。目つきが悪い、目が怖いっていうのは鬼門院家代々の特徴ですからね。」
「ほんと、嫌なDNAですよねぇ。」
剣人と茉莉花は、のほほんと笑った。
……ん。
待って、こんなこと話している場合じゃなかった。
「あの、いきなり本題に戻るのですが、今すぐここから脱出しなくてはいけないんです。もう1人の仲間も縁日の世界に潜入していまして。」
御堂くんが頑張っているはずなのに、かなり無駄に時間を潰してしまった。
「それなら大丈夫ですよ。術を解けば、元の世界の元の時間軸に戻れますから。」
じゃあ、縁日の世界に囚われた人々も、それぞれ元の時間軸に戻れるということか!
「よかったぁ、、。」
「では早速戻りましょう。いきますよ。」
「あ、少しだけ待ってください!」
茉莉花はキョロキョロと辺りを見回した。
両親の事件の新聞、どうせなら拾っておきたかったが、先程まで動いていた新聞達は何もかも夢だと言わんばかりに静止していた。
剣人に取り憑いていた妖怪の持つ真の術はこちらの方だったのだろう。術の当事者が完全に消滅したから、術が自然に解けてしまったのだ。
四方八方に散っているため、すぐに例の記事を探すのは無理そうだ。
「?どうされましたか。」
「……。なんでもないです、行きましょう。」
茉莉花は散らばった新聞紙の山から目を背け、手に持っていた御堂姉弟の記事を小さく折りたたみ、ポケットにしまいこんだ。




