終わらない夏祭り①
「……来てしまった。」
茉莉花は人生で初めて九州という地に降りたった。
わざわざ妖怪に会うために、横浜から遥々ここまで来させられたのは癪だが、自分の運命が左右されるかもしれない問題だから、しょうがない。
一泊用の荷物をまとめた大きなリュックを背負い、博多駅をでる。
茉莉花はスマートフォンの地図アプリを使い、目的地までの最短ルートを探した。
と、遠すぎやしないか……!?
木桜神社が目で確認できるようになったのは、駅から出発して3時間後のことだった。
地下鉄に乗り、バスに乗り、様々な交通機関を転々と乗り換えた後、ついに交通手段のない、とんでもない田舎へとたどり着いたのだ。
福岡県についたころはまだ太陽が高く昇っていたのに、今や西に沈もうとしている。
しかし、ようやく神社の鳥居らしき物が見えたので、少し歩くモチベーションが上がった。
このまま歩けば5分くらいでつくだろうけど…。
……だが、その前にコンビニで飲み物を買っていこう。
ちょうど喉が渇いたタイミングで、コンビニが現れたのだ。入らないはずが無い。
こんなところでも、コンビニってあるんだなー、と失礼なことを考えながら、茉莉花はコンビニの中に入った。
「いい加減にしないと、警察呼ぶぞ!!」
「!?」
コンビニに入った瞬間、怒声が聞こえる。
……何事だろうか?
コンビニのレジ前では中年くらいの店員が、前髪の長い青年を怒鳴りつけていた。
こっそり盗み聞きして…というか、大きな怒鳴り声を聞いていて察するに、あの青年は万引きの疑いをかけられているらしい。
しかし、本人は容疑を否認中、と。
ま、青年も青年で、長い前髪が顔の上半分を覆っており、更にマスクで顔の下半分を覆っているので、怪しさ満点ではある。
さっきから、店員がジュース、ジュースと言っているため、おそらく万引きされたのはそれなんだろう。商品補充のため、少し裏にさがっていたところゴッソリと無くなっていたんだと。
……。口を挟むべきか、否か。
実は先程、コンビニから大きなカバンを持って自転車で走り去った怪しい男を見た。
田舎だからこそ、人間とすれ違うと、結構印象に残りがちである。
なんだか焦っている様子にもみえたし、その人で間違いないんじゃないか。
……となると、あの青年はとても不憫である。
……。
…………?
………………!
彼のこと、どこかで見たことがあると思ったら……、陰陽師の御堂理斗じゃないか!まさか旅行先で知り合いに会うなんて。
しっかし私、彼にとんでもなく嫌われているんだよねぇ…。
口出しするだけで死ぬほど睨まれる未来が想像される。
でも、このままじゃお会計、できないしなぁ。
……。
「あのー。普通に考えて彼、やってなくないですか?」
店員さんと御堂くんが同時に茉莉花に注目した。
2人とも圧が凄い。特に御堂くんからは冷や汗がでるほどの殺気を感じる。そりゃあ、そうだよね。死ぬほど嫌いな人間と有り得ない場所とタイミングで鉢合わせたんだもの。
もう、何も考えないようにしよう…。さっさとお会計して、木桜神社に行かなくては。
「アンタ、何を根拠にそんなことを言ってんだ?」
中年の店員が茉莉花に苛立った様子で聞く。
「彼が万引きしたとして、どこにその盗んだ物があるんです?まさか、彼のズボンのポケットにでも入っているとでも言うんですか?」
御堂くんはバッグなんて持っていない。手ぶらのようだった。
「そりゃあ、俺が裏にさがっている間に、どっか店の外に隠したんだろうよ。」
店員さんは完全に御堂くんが犯人だと確信しているみたいだ。
気持ちはわからないでもない。御堂くんは前髪とマスクで顔が全然見えないし。私も知り合いじゃなかったら、犯人と疑っていただろう。
「でも、私、コンビニから慌てて出てきた怪しい男性を見たんですよ。……というか、何のための防犯カメラですか。ちゃっちゃと確認して、お会計お願いします。」
茉莉花は、トンっとミルクティーのペットボトルをレジに置いた。
「別に助けて欲しいとか、誰も言ってませんよね。これで恩でも売っておくつもりですか。」
……一難去ってまた一難。
御堂理斗による、コンビニの外での詰問タイムが始まった。
「いや、そんな下心ないって。私はただ、お会計を早くしたかっただけで。」
「…。じゃあ、そもそもどうして貴方はこんな田舎に?僕の実家がここにあることがなぜわかったんです?」
完璧に何か思惑があって御堂くんに近づいたと思われているようだ。…彼の実家がここだなんて初耳なんだけど。
「いやいや!私はたまたま寄りたい所がこの近くにあって!そんな、御堂くんの家があるなんて知らなかったし。」
「…………。」
やばい。余計怪しまれてる。とにかく話題変えなきゃ。
「……っていうか、その見た目どうしたの?万引き犯に間違われてもしょうがないっていうかさ。暑くない?」
「……。これを見てもそんなこと言えます?」
御堂はマスクを外し、前髪をあげた。
「…………え?」
茉莉花は絶句した。
彼の顔は酷い腫れに侵食されている。
特に顔の上半分の腫れは非常に状態が悪く、目が開いていないほどだ。
御堂くんは恨み節のように茉莉花に言った。
「呪いですよ。……鬼門院にかけられた、ね。」




